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第五話_食事会

ビドラが用意した宴は、清十郎たちが想像していた「ささやかな食事会」という枠を遥かに超える、大規模な社交パーティーだった。


場所は町外れに建つ、広大な敷地を誇るビドラの別邸。

会場にはローデウス領の有力貴族や大商人、さらには同盟を締結したばかりのジノーブス側の要人までもが多数招かれていた。

本来ならば、ビドラは命の恩人である清十郎と水入らずで語らうために、内密で豪華な小宴を催すつもりだったらしい。

しかし、ジノーブスとの同盟を祝う公的な祝宴の開催を丞相ジャミロクワイに依頼されており、図らずもその日程が重なってしまったのだという。


「…目立つ行為は避けたかったのだがな。」


不満げに眉をひそめるアーデルミノスに対し、清十郎は困ったような、しかし優しい笑顔でこう宥めた。


「自分たちだけ別にするのはビドラさんもお手間でしょうし、たまにはこういう賑やかな場も良いと思いますよ。」


合流したメイルートも、「そんな場に着ていく服なんて用意してないわよ」と否定的だったが、ビドラが「衣装から装飾品まで、この私が最高の品を揃えさせていただきます!」と豪語したことで、ようやく納得したのだった。


◇◆◇


パーティーの夜。

女性陣は身支度に時間がかかるとのことで、清十郎は一足先にリュウたちを連れて会場に入っていた。

貸し出された見慣れないタキシードに身を包み、どこか落ち着かない様子で襟元を気にするリュウたちに対し、清十郎はいつもと変わらぬ、背筋の伸びた着物姿のままである。


「さすがアニキ。これだけの要人に囲まれて、普段着で通すとは肝が据わってますねぇ…。」


シロが感心したように呟くと、清十郎はふふっと微笑んだ。


「着慣れたものが一番落ち着くんですよ。それに、ビドラさんもこれで構わないと言ってくださいましたし。」


会場の中央では、ビドラが縦横無尽に動き回り、要人たちに次々と挨拶を交わしている。

その鮮やかな社交術を遠目に眺めながら、清十郎はテーブルに並んだ珍しい食材に舌鼓を打っていた。


その時、会場の空気が一変した。

入り口の方から波紋のようにどよめきが広がり、参加者たちの視線が一箇所に釘付けになる。

そこには、ビドラが用意した最高級のドレスに身を包んだ、四人の女性たちが立っていた。


勇者パーティーの面々だけあって、メイルート、リゼア、ガルーダの三人も目を見張るほどの容姿の整い方だ。

しかし、その中央に立つアーデルミノスは別格だった。

各国で「絶世の美女」と謳われるその美貌は、夜会服の華やかさを纏うことで完成された芸術品のような輝きを放っている。

その場の誰もが息を呑み、ジノーブスの要人たちですら「これほどまでの令嬢が魔族にいたとは」と絶賛の声を漏らしていた。


彼女たちが清十郎のもとへ歩み寄ってくると、清十郎はいつもと変わらない、温かな笑顔で迎えた。


「みなさん、本当にお美しいです。とてもよく似合っていますよ。」


「当たり前よ!これでも勇者パーティーの看板なんだから!」


メイルートが少し得意げに胸を張る傍らで、ガルーダは着慣れないドレスの感想を述べることもなく、テーブルの上の肉料理に視線を吸い寄せられている。

リゼアに至っては、装いが変わってもいつも通りの「完全な無」であった。


ただ一人、アーデルミノスだけが少し頬を朱に染め、視線を泳がせながら口を開いた。


「…お前はいつもそうだ。その程度の感想しかないのか?もっと他に言うことはないのか?」


清十郎は一歩近づくと、彼女の瞳をじっと見つめ、優しく笑った。


「そうですね…。今日のアーデルミノスさんは、僕がこれまで見てきた誰よりも一番美しいですよ。思わず見惚れてしまいました。」


「なっ…!お、お前…っ!」


不意を突かれたアーデルミノスが絶句して赤面する。

その様子を見て、「さすがアネゴ!世界一っ!」と囃し立てようとしたシロとクロだったが、リュウが即座に二人の首根っこを掴み、空気を読んでその場から連れ出した。


不意に訪れた、二人きりの時間。

アーデルミノスは小さく咳払いをすると、ようやく落ち着いたように微笑みかけた。


「…ようやく二人になれたな清十郎。お前がこの世界に来てからこれまで、実に色々なことがあった。だが…まだちゃんとお礼を言えていなかったな。私を救ってくれたことも、ここまで付いてきてくれたこともだ。」


清十郎は静かに首を振った。


「いいえ。僕の方こそ、こんなに楽しく、刺激的な日々は初めてです。貴女に出会えたことに感謝しているんですよ。」


二人は手にしたグラスを、チリンと軽く重ね合わせた。


しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

再び会場に大きなどよめきが起き、重厚な扉が開かれる。


「――丞相ジャミロクワイ様、ご入場でございます!」


その宣布と共に、アーデルミノスの顔から優しい笑みが消えた。

彼女の瞳は鋭く、そして深い緊張感をはらんだものへと瞬時に切り替わる。

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