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第三話_情報収集

午後の柔らかな光が差し込むローデウス城下町。

かつて二人でお忍び散策をした時と同じように、アーデルミノスは軽やかな足取りで石畳を鳴らしていた。


「清十郎、見ろ。あの店はまだあの時の珍妙な香辛料を売っているぞ。ふふ、なんだかあの時を思い出すな!」


馴染みの店を一つずつ指差し、アーデルミノスは上機嫌に振り返った。

以前、二人きりで歩いた際の記憶が、彼女の心を柔らかく弾ませている。

しかし、清十郎の返事を聞こうとした彼女の視線は、すぐに不機嫌そうに険しくなった。


「…おいガルーダ。いつまでそこに引っ付いているのだ。邪魔だと言っているだろう。」


清十郎の右腕には、ガルーダが言葉通り「一点の隙もなく」しがみついていた。

アーデルミノスが手を引こうとすれば、ガルーダはその反対側から清十郎をがっしりとホールドし、無言のまま視線で「絶対に譲らない」と主張している。


「初めての町なので不安なんですかね、ガルーダさんも。」


清十郎が苦笑いでフォローするが、アーデルミノスは面白くない。


「不安だと?この娘がそんな殊勝なタマか!いいか、これはあくまで潜入捜査だ。そんな風にひっついていたら目立つだろうが!」


「…目立たない。町娘、みんな仲良し。」


ガルーダが抑揚のない声で短く言い返すと、アーデルミノスは「ぐぬぬ…」と喉を鳴らした。

せっかくの「いい雰囲気」が、この無口な少女によって物理的に遮断されているのだ。


「ったく…お前はメイルートたちと一緒に回れと言っただろう。そもそも、あちらの方が情報収集の効率が――。」


「嫌。清十郎といる。」


「この分からず屋め!」


清十郎を挟んで火花を散らす二人。

そんな、どこか微笑ましくも殺伐とした道中が入り組んだ路地裏に差し掛かった時、背後からガラの悪そうな声に呼び取られた。


「よう、ねえちゃん!見ない顔だが、ここの住人か? 景気のいい顔してるじゃねえか、俺たちと少し遊んでいかねえか?」


ただでさえ機嫌が悪いアーデルミノスは、般若のような形相で振り返る。

だが、その目には懐かしい面々が飛び込んできた。


「…お前ら。」


「おっと!洒落ですよアネゴ!怖い顔しないでくだせぇ!」


路地の陰から姿を現したのは、獣人の三人組――リュウ、シロ、クロだった。

彼らは遠くからアーデルミノスと清十郎の姿を見つけ、以前の出会いを茶化すようにあえて同じセリフで声をかけてきたのだ。


「お久しぶりです、みなさん。」


清十郎がパッと顔を輝かせると、三人は「アニキ!」と親しげに寄ってくる。


「相変わらず仲がいいこって。またお忍びでデートですかい?」


シロがニヤニヤと笑いながら二人の距離を窺い、クロがさらに追い打ちをかける。


「…ん? ほかに女を連れてるなんて、アニキも隅に置けねえなぁ。新入りかい?」


アーデルミノスの拳がプルプルと震えだす。


「ガルーダ、こいつらの喉笛を掻き切ってやれ!」


「わかった。」


腰に隠していた武器を手に取るガルーダ。


「待って待って待って!本当に冗談ですよアーデルミノスさん!」


リュウが慌てて割って入り、場を鎮める。

彼はすぐに表情を引き締め、アーデルミノスに問いかけた。


「冗談は置いといて、あんたたちがこんなところにいるってことは、何か重要な用事ですよね?なにか探し物ですかい?」


リュウ達冒険者にとって、この町は庭のようなもの。

魔軍司令として普段は城が前線にいる自分や、異世界人の清十郎、ましてや別の国の勇者パーティーであるガルーダよりもいろいろ知っているはずだ。


「確かに…実は腕のいい船職人や、特殊な魔導加工ができる者を探しているのだが、心当たりはないか?」


アーデルミノスの言葉に、三人は顔を見合わせた。


「船職人…?ローデウスじゃ珍しい探し物ですね。そういえば、最近アマデウス魔王領からやり手の商人が流れてきたって話が…。」


リュウが顎に手を当てて記憶を掘り起こす。


「かなりの資産と人脈を持ってるらしくて、城下町の有力者たちともう繋がってる。そいつなら、船の工面くらい朝飯前なんじゃないですかね?」


◇◇◇


その頃、メイルートはリゼアの手を引きながら、穏やかな表情で街を散策していた。


「魔族の町って聞いたから、もっと殺伐とした場所を想像してたけど…いいところじゃない、ここ。」


ふと、隣を歩く無機質な少女を見つめる。


「あんたが正気だったら、どんな顔をするのかしらね。」


メイルートは、魔法学校時代の淡い記憶を思い出していた。

ヘパルディア王国は人間至上主義。

その国に生まれたリゼアもまた、当時は魔族に対して強い差別意識を持っていた。

学校でも魔族を目の敵にし、常に衝突していたリゼア。

けれど、小さな頃に魔族にいじめられていた自分を助けてくれたのもまた、彼女だった。


「逆にこんな状態だから、あんたとこうして、偏見もなしに魔族の町を歩けるのかもしれないわね。」


メイルートが自嘲気味に苦笑した。

その時。


「…そんな楽しそうなメイルート、久々に見た。」


「きゃっ!?な、なによ!?」


背後から突然かけられた声に、メイルートは飛び上がって驚いた。

いつの間にか、ガルーダが背後に立っていたのだ。


「ちょっと、もっと普通に声をかけなさいよ!心臓に悪いわね!」


怒鳴るメイルートに、ガルーダは表情を変えず、ただ短く告げた。


「…アーデルミノスたちが合流しようって。いい情報、見つかったみたい。」


「えっ、もう!?意外と早かったわね…。」


少し名残惜しそうな顔をするが、メイルートはリゼアの手を握り直し、ガルーダに導かれるようにして走り出した。

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