閑話_冒険者の日常 part3
土煙が舞い、リザードホースの蹄の音が遠ざかっていく。
その背に跨り、風を切り裂いて駆けるアーデルミノスの後ろ姿は、もはや地平線の彼方へと消えようとしていた。
「ハァ…ハァっ!」
リーダー格の獣人、リュウが足を止める。
彼の横では、シロとクロが膝をつき、肩で激しく息を乱していた。
事の始まりは、清十郎と地竜将軍クラウハルトがセルス暗殺に向かったという凶報だった。
報せを聞くや否や、アーデルミノスは迷わず愛馬に飛び乗った。
あの時、大人しくリザードホースを借りていればこんなことにはならなかった。
「オレ等獣人をナメてもらっちゃ困るぜアネゴ!」
「オレたちは獣人、下手な馬より鍛えてますぜ!」
なんて調子に乗るんじゃなかった…。
クロが恨めしそうに自分の脚を叩く。
「オレたちに構わず先に行ってくだせぇ」と言ったのは自分たちだが、まさかこれほどまで差がつけられるとは思っていなかった。
「ダメだこりゃ…。もう影も見えねえよ。」
シロが力なく首を振ると、リュウも二人と同じく膝をつく。
「あとはアネゴに任せて、オレたちはゆっくり行きましょうよリーダー…。」
「…だな。正直、オレらが行ったところで、あの次元の戦いの力になれるわけじゃねえしな。」
リュウは悔しそうに、それでいてどこか諦めきった表情で空を仰いだ。
「それにしても、さすが魔王軍のリザードホースだ。鍛え方が違うぜ…!」
精一杯の負け惜しみを吐き捨てると、彼らは森の奥へと続く道を引き返すことに決めた。
「流石に行ったり来たりは疲れた。ローデウスの城下町に戻ろうぜ。」
彼らは知らない。
この後、清十郎が瀕死の重傷を負い、アーデルミノスが自らの魔力を直接注ぎ込むという大胆な手段で彼を救ったことを。
そして、アーデルミノス城において、ジノーブスの勇者パーティーと奇妙な同盟を結ぶことも。
◆◆◆
「アニキ」と呼んで慕った清十郎や、「アネゴ」と親しげに呼んでいたアーデルミノス。
報奨金を受け取ってから、あの日以来、彼らとの連絡は途絶えたままだ。
ジノーブスの冒険者組合に席を置く彼らは、今日もお調子者としてギルドを騒がせ、小銭を稼ぎ、酒場で笑い飛ばす、いつも通りの生活を送っている。
魔王軍幹部と知り合いだからといって、その運命の渦に積極的に飛び込む必要はない。
「なあリーダー、今日こそあそこの酒場の看板娘、口説き落とせるかな?」
「バカ言え、お前じゃ三秒でフラれるのがオチだ。」
騒がしく笑い合いながら、夕焼けに染まる街へと戻っていく三人の後ろ姿。
世界の命運を左右する激動の裏側で、彼らは彼らなりの、小さくも確かな幸せを噛み締めていた。
それもまた、この広大な世界における尊い「日常」のひとつであった。
ふと、リュウは魔王城の方を見やる。
気づくと、シロとクロも同じようにその方角を見ていた。
何となくだが、彼らは感じている。
アネゴから何の音沙汰もないのは、冷たいからじゃない、冒険者である自分たちを気遣ってのことだと。
国同士の争いや、世界の情勢に縛られないのが冒険者。
短い期間だが、一緒に過ごした時間の中で、アネゴのそんな優しさくらいには気づける。
「ったく、水くせぇぜ…。」
小さく呟き、シロとクロの肩を抱くリュウ。
「んじゃ、酒場行くぞ!今日は飲むぞっ!!」
ギャハハっと、いつもの調子で笑い合い、三人は町の喧騒へと消えていく。




