閑話_冒険者の日常 part2
あの悪夢のような村での出来事は、町の混乱を避けるために情報統制されており、ローデウスの城下町はいつもと変わらず活気に満ちている。
その大通りを、一際目立つ大所帯が歩いていた。
B級冒険者パーティー『ライトニング』。
双剣を背負った有角魔族の戦士ロン、長槍を携えた同じく有角魔族のラスタ。
そして、その中央を歩くのは、眼鏡の奥に知的な瞳を宿した狩人の女、ワスプである。
「いやぁ、それにしても魔軍司令閣下から直接お言葉をいただけるとは、冒険者冥利に尽きますな!」
「ああ。万が一の時はまた頼む、だなんて…。姐さん、オレたち出世しちまうんじゃないですか?」
鼻高々に語るロンとラスタが「姐さん」と呼ぶワスプは、この二人を後方から指揮するライトニングのリーダーだ。
二人より少し年上で、何より面倒見が良い。
だが、今の彼女の後ろには、さらに三人の影がひっついていた。
「ワスプ姐さん、次の宿の手配、僕らがやっておきました!」
「姐さん、喉乾いてませんか? 水、買ってきましょうか!」
甲斐甲斐しく動くのは、あの村で清十郎に心を折られかけていたジノーブスのC級人間パーティー『蒼銀の牙』の面々だ。
恐怖と絶望の淵にいた彼らを、持ち前の姐御肌で励まし、時に厳しく、時に優しく支えたのがワスプだった。
結果、種族の垣根を越えて、彼らはすっかりワスプに懐いてしまったのだ。
「…あんたたち、少しは落ち着きなさいな。私はあんたたちの母親じゃないんだから。」
ワスプは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、溜息をついた。
魔族と人間、計五人の屈強な男たちから「姐さん」「姐さん」と連呼され、崇め奉られる姿は、端から見れば一軍を率いる女傑のようである。
「でも姐さん、魔軍司令様も仰ってたじゃないですか。種族を超えた絆こそが、これからの盾になるって!」
「そうですよ! 僕たちは一生、ワスプ姐さんに付いていきます!」
キラキラとした瞳で自分を見上げる男たち。
ワスプはふと、周囲の視線に気づいた。
街の男たちは彼女の凛々しさに気圧され、あるいは「あんなに男を従えているなんて」と遠巻きに眺めている。
(…ああ、またこれだわ。)
クールな眼鏡美人と称されることも多いワスプだが、その内面は、年相応に結婚や恋愛に憧れる乙女な部分を隠し持っている。
本当は「姐さん」ではなく、もう少し可愛らしい名前で呼ばれ、一人の女性として誰かに守られてみたい。
だが、現実は五人の「弟分」たちの世話を焼く毎日だ。
「…はぁ。あんたたち、宿に着いたら装備の手入れよ。分かったわね?」
「「「はいっ、姐さん!!」」」
一糸乱れぬ返声が響き渡る。
ワスプはもう一度、今度は誰にも気づかれないほど小さく溜息をついた。
信頼されるのは悪い気分ではないし、救った彼らが元気になったのは嬉しい。
けれど、自分の春がどこへ消えてしまったのかを考えると、少しだけ遠い目をしたくなるワスプだった。




