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閑話_冒険者の日常 part1

魔王領の街道を、三つの人影が歩いていた。

ローデウス領を拠点に活動するB級冒険者パーティー『鳳仙花ほうせんか』。

実力は折り紙付きだが、その道中は常に賑やか――というより、騒々しい。


「ねえねえモーフ、どっちが似合うと思う?この新調した魔法銀のアンクレット!」


「ちょっとお姉ちゃん、私の耳飾りの方が先よ! モーフ、こっちの方が『魔導師っぽくて』可愛いわよね?」


パーティーのリーダーである巨漢、モーフは深い溜息をついた。

牛のような立派な角を持つ有角魔族の戦士である彼は、その巨体に似合わず、二本の小ぶりな斧を軽快に操る技巧派だ。

しかし、今の彼が手にしているのは武器ではなく、二人の少女から突きつけられた「究極の選択」だった。


一つ目魔族の姉妹、リーファとユーファ。

彼女たちは高等な魔法こそ使えないが、火の魔法を身軽な体術と組み合わせて戦う、冒険者ギルドでも珍しい「動ける魔法使い」だ。

だが、戦場を一歩離れれば、ただのミーハーなオシャレ大好き少女に豹変する。


「ええい、どっちも似合っているぞ。それでいいではないか!」


モーフが困り果てて絞り出した回答に、姉のリーファが即座に唇を尖らせた。


「出たわよ『どっちも』。それって一番適当な答えだって、ギルドの受付嬢も言ってたわよ?」


「そうよ!ちゃんと選んでくれないと、装備の調整に気合が入らないわ。ほら、どっち!?」


妹のユーファも一つ目をキラリと光らせて詰め寄る。

右を選べば左から罵られ、左を選べば右から拗ねられる。

これが迷宮の魔物と対峙するよりも過酷な、モーフの日常だった。


「だいたいさあ、モーフはリーダーなんだから、もっとファッションにも気を使いなさいよ。あのローデウス様との謁見の時だって、あんただけ鎧の光沢が足りなかったわよ?」


「そうそう!魔王様はあんなに素敵で、立ち振る舞いにも威厳があったのに。モーフときたら、ただの『大きな牛さん』だったわね。」


姉妹は顔を見合わせてケラケラと笑う。

つい先日の魔王謁見。

その圧倒的なオーラにあてられた彼女たちは、事あるごとにモーフと魔王を比較しては、彼をイジり倒していた。


「…ふん、私は私だ。魔王様と比べられても困る!」


モーフは鼻息を荒くしてそっぽを向いたが、その表情はどこか緩んでいた。

確かに彼女たちの口は悪いし、注文も多い。

だが、戦場になれば自分の背中を守ってくれるのはこの姉妹だ。


「さっさと歩け。次の依頼は素早く狡猾な魔物だそうだ。お前たち二人の撹乱が有効だからな!」


「分かってるわよ。でも、モーフはちゃんと盾やってね?じゃないと、可愛い服が汚れちゃうし!」


「任せたわよ、リーダー!」


前を歩き出した姉妹の背中を、モーフは二本の斧を腰に差し直しながら見送る。


「やれやれ」と首を振るその顔には、満更でもない笑みが浮かんでいた。

振り回される苦労よりも、彼女たちと過ごすこの騒がしい日常の方が、彼にとっては遥かに価値のあるものなのだ。

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