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閑話_悩みの種

「クラウハルト様っ!クラウハルト様ぁぁ!ご注文の品をお持ちしましたぞ!!」


ローデウス魔王城の重厚な廊下に、場違いなほどに活気のある声が響き渡った。


呼び止められた地竜将軍クラウハルトが振り返ると、そこには丸々とした体格に立派な髭を蓄えた男――商人ビドラが、大きな木箱を大事そうに抱えて走り寄ってくるところだった。

ビドラはかつてアマデウス魔王城で王家御用達として名を馳せた豪商だ。

セルスによって牢に繋がれていたところを清十郎たちに救い出された彼は、ローデウス領へ亡命するや否や、その驚異的な商才を再び開花させていた。


「おお、ビドラではないか。相変わらず元気なことだ。」


「当然ですとも! 私が捕まった際、いち早く商品を持ってローデウスへ逃げ延びた優秀な使用人たちがおりましてな。彼らと共に商売を再開したら、あっという間にこの城下町でも有数の商会に返り咲きましたぞ!」


ビドラは自慢げに胸を張るが、その目は真剣そのものだった。

彼が亡命の混乱の中で使用人たちに下した的確な指示と、主人の帰還を信じて地盤を固めた使用人たちの忠誠心。

その両輪が、今の彼の成功を支えていた。


「して、本日は何用だ?」


「これです。命の恩人である貴方様に、どうしても報いたかった…。私の全情報網と私財を投じ、腕利きの細工師たちに作らせた逸品です!」


ビドラが恭しく木箱の蓋を開ける。

そこには、鈍い銀色の光を放つ、精巧な金属製の義手が収められていた。


「これは…。」


「使用者の魔力に同調し、本物の腕さながらに動かせる代物です。クラウハルト様の強大な魔力なら、指先の細かな動きまで自在に操れるはず!」


クラウハルトは、セルスとの戦いで失った右腕の断面に、その義手を当てた。

魔力を流し込んだ瞬間、鋼の指が生きているかのように滑らかに、力強く握り込まれる。


「…素晴らしいな。重さも、反応も、申し分ない。まるで失った腕が戻ってきたようだぞ!」


「おおっ…!お役に立てて光栄です!職人たちを急かした甲斐がありました!」


喜ぶクラウハルトの姿を見て、ビドラは感極まってボロボロと大粒の涙を流した。


「ちなみにクラウハルト様、清十郎殿にもどうにかお礼をと考えているのですが、どちらにいらっしゃるのでしょうか?城を探してもどこにも…。」


「ああ、あの男なら今は別の役目でここを離れている。だが…礼と言ってもな。清十郎殿に物欲があるようには、どうしても思えんのだ。」


クラウハルトの言葉に、ビドラも深く頷いた。


「確かに。牢でお会いした時も、実に不思議な御仁でした。掴みどころがなく、地位も名誉も、宝石ですら興味がなさそうな…。商人の私から見ても、あんなに『売るものがない』御方は初めてですぞ。」


「恩を返したいのは私も同じなのだがな…。」


魔族の猛将と、百戦錬磨の商人が、城の廊下で並んで腕を組み、深いため息をつく。

救われた命への、あまりに大きすぎる恩義。

二人は「あの掴みどころのない恩人」に一体何を贈れば喜ばれるのかと、戦の軍略を練る時以上の熱量で、真剣に頭を悩ませるのだった。

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