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第十一話_温かな何か

「で、なんで俺だけこいつとジノーブスに帰らなきゃいけないんだよ!」


城の正門前に用意された馬車を前に、グレイが心底嫌そうに愚痴をこぼした。

「こいつ」呼ばわりされた大使は、所在なげに自身の荷物を抱えている。


「あんたは勇者なんだから、ちゃんと隠すべきところは隠して、上手に報告してきなさいよ!」


メイルートが腰に手を当てて一喝する。

その隣では、ガルーダが相変わらず清十郎の腕にぴたりとひっついて離れようとしない。


「たしかに、こいつ一人で帰すのは不安だが…。」


グレイがジロリと大使を睨むと、大使は「わ、私なら大丈夫ですぞ! 立派に大役を果たしてみせます!」と不自然に胸を張った。

しかし、そこにいる全員が「一番危なっかしいのはあんただ」と言わんばかりの不安げな表情を浮かべている。


「あんた、余計なことを口走ったらただじゃおかないわよ?」


メイルートが鋭い眼光で追い打ちをかけると、大使は「ひぃっ!」と短い悲鳴を上げて逃げるように馬車へ乗り込んだ。


「じゃあ、よろしく頼んだわよ…勇者様。」


メイルートが小さく言い、グレイを送り出す。グレイは「ちっ、わかったよ」と乱暴に髪をかき回しながら、しぶしぶ御者台の横へと飛び乗った。


「お前たちも、一度くらい帰国しても良かったのだぞ?」


アーデルミノスが、清十郎から離れようとしないガルーダを見ながら声をかける。

しかし、メイルートは即座に首を振った。


「これ以上、勝手に話を進められても困るわ。それに…。」


彼女は、相変わらず無表情で立ち尽くしているリゼアを横目で捉えた。


「リゼアがここで不当な扱いを受けていないか、この目で見張っていたいしね。」


その言葉に、副官のジャブラが重々しく頷く。


「この女の扱いには我らも苦慮していたのだ。魔法使い殿が監督してくれるというなら、願ってもないことだ。」


◇◇◇


「ガルーダさん、ちょっと用事があるので、一旦離してくれます?」


清十郎が困ったように笑いながら促すと、ガルーダはひどく残念そうな顔をしたが、意外にも素直に腕を放した。

その様子を見て、アーデルミノスは満足げに鼻を鳴らす。

そんなアーデルミノスに向かって、清十郎が静かに語りかけた。


「アーデルミノスさん、ちょっと付き合ってもらえますか?」


「ん、ああ!なんだ、何でも言ってくれ!」


目に見えて喜び、足取りも軽く付いていくアーデルミノス。

その背中を見送りながら、メイルートは隣のジャブラにこっそりと耳打ちした。


「…ねえ、あの二人って、もしかして付き合ってたりするの?」


ジャブラは腕を組み、真剣な面持ちで考え込んだ。


「私には分からんが…強い者同士が結ばれれば、さらに強き子が産まれる。それは素晴らしいことではないか!」


「…なんかムードもへったくれもないわね、あんたって。」


メイルートは小さく溜息をつき、頭を振った。


◇◇◇


アーデルミノスを連れて、清十郎は静かな廊下を歩いていく。

最初は意気揚々と歩いていたアーデルミノスだったが、ふと一つの懸念が脳裏をよぎった。


(待て…もしかしてあの村での出来事を聞かれるのか…?)


瀕死の清十郎を救うため、なりふり構わずその唇を奪ったあの時の記憶。

異世界人である彼にはこの世界の回復魔法が効かず、唯一の手段として「口移し」で魔力を供給し、体内に定着させたのだ。

命を救うためとはいえ、あれは魔軍司令としての威厳以前に、一人の女性としてあまりに大胆な行為だったのではないか。

急に不安になり、アーデルミノスの足取りが怪しくなる。


「どうしましたか?」


清十郎が何事もないように振り返るが、アーデルミノスは「い、いや! なんでもない! 絶好調だ!」とわたわたと手を振る。

清十郎はその姿を、どこか楽しげな笑顔で見守っていた。


やがて二人は、城内にある広い中庭へと到着した。

普段は兵士たちが汗を流す訓練の場だが、公式対談の翌日ということもあって、今日の人影はまばらだ。

清十郎は、相変わらず目を合わせようとしないアーデルミノスの方へ向き直り、穏やかな口調で切り出した。


「あの村…あの時。僕が意識を失いかけてから、ここに何か、ずっと温かな何かが残っているんです。」


清十郎は、自身のみぞおちのあたりを、確かめるようにそっと抑えた。


「これは、一体何なんでしょうか?」

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