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第八話_正義の断罪

「お前たち、やめろ…やめるんだッ!!」


飛竜将軍フェルディナンドの咆哮が、戦塵の舞う陣営に響き渡る。

彼は自身の四本腕のうち二本に握った巨剣を交差させ、クライムの聖剣とドルンの大斧を同時に受け止める。

凄まじい衝撃波が周囲の地面を爆ぜさせ、火花が散る。


「目の前で幼い命を奪っておいて、まだ語る言葉があるというのか!」


クライムの瞳は、これまでにない激しい怒りに燃えていた。

聖なる光を纏った一撃がフェルディナンドの剣を削り、一歩も引かぬ攻防が続く。


「旦那の言う通りだ!俺たち魔族が人間と手を取り合おうって時に、同じ魔族がこんな真似を…。恥を知れッ!」


ドルンの怒号と共に放たれた横薙ぎの一撃を、フェルディナンドは残り二本の腕で受け流すが、その表情は苦渋に満ちていた。

現場はすでに制御不能な乱戦へと突入している。

フェルディナンドの制止も虚しく、主を襲われたと確信した魔族兵たちが津波のように押し寄せる。


「聖なる盾よ、我らを守護したまえ!」


キフィルが放つ七色の防御魔法が、四方八方から放たれる槍や矢を弾き飛ばす。

彼女の凛とした声が戦場に響く中、その後方からイルゼが指先を突き出した。


「おらおら、無闇に近づくと黒焦げだぜ!!」


イルゼの放った激しい電撃が、密集する魔族兵の間を鎖のように伝い、次々と兵たちを無力化していく。


二人の武器を強引に押し除け、フェルディナンドは決死の覚悟で叫んだ。


「これ以上は、本当にお互い引けなくなる!クライム殿、落ち着いて私の話を聞いてくれッ!」


全霊の力を込めたフェルディナンドの咆哮と、そのあまりに悲痛な表情に、勇者一行の動きが一瞬だけ止まった。

双方、武器を構えたまま睨み合う緊迫状態。


「…確かに、先ほどの村襲撃の報を受けた時の将軍の態度は、私には芝居とは思えませんでしたわ。」


肩で息をしながらも、キフィルが冷静な分析を口にする。

彼女の清らかな瞳は、フェルディナンドの魂の揺らぎを捉えていた。


「俺の魔法も出力は極限まで抑えてある。転がってる連中も、まだ生きてるはずだ。殺し合いを望まないなら、今のうちに落とし所を見つけようぜ。」


イルゼが周囲の惨状に視線をやりながら、冷汗を拭った。

そこまで聞き、クライムもようやく込み上げる憤怒を理性で抑え込んだ。

彼はゆっくりと聖剣を下げ、切っ先を地面に向ける。


「…いいだろう。弁明の余地があるというのなら、詳しく聞かせてもらおう。この事態が本当に『罠』だという証拠を。」


その瞬間だった。

張り詰めた静寂を、一本の風切り音が切り裂いた。


「――っ!?」


無防備になったキフィルの視界に、一条の影が飛び込む。

回避は不可能だった。

鋭い魔族特有の矢が、彼女の右肩を深く、容赦なく射抜いた。


「きゃあああっ!!」


悲鳴と共に、キフィルが地面に崩れ落ちる。

白い法衣が瞬く間に赤く染まり、彼女が維持していた防御魔法の残滓が霧のように霧散した。


「キフィル!!」


クライムが叫び、彼女を抱きかかえる。

キフィルの顔は苦痛で歪み、治癒の魔法を唱えようとするが、右腕が力なく垂れ下がった。


驚愕に目を見開いたのは勇者一行だけではない。

フェルディナンドもまた、信じられないものを見たという顔で、高台の上に立つ影を仰ぎ見た。

そこには、弓を構えた一人の魔族兵が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて立っていた。


「ふははは!バカめ!これで小癪な僧侶の魔法も使えぬわ!将軍、お見事です!あえて話し合いの空気に持ち込み、敵の盾を解かせる…流石は戦場の老狐ろうこです!!」


その言葉が、戦場に冷酷な「確定」をもたらした。


「…貴様。」


クライムの背中から立ち上る魔力が、先ほどとは比較にならないほど不気味で苛烈なものに変貌した。


「油断させておいて、不意を突くとは…。そこまで堕ちたかフェルディナンド!お前が部下と通じていないなどという言葉、もはや信じはしない!」


「違う、今のは私の命令ではない!待て、クライム殿!!」


フェルディナンドの必死の弁明は、もはや光の勇者の耳には届かなかった。

キフィルの流した血が、クライムの心に宿っていた「対話」という名の最後の鎖を断ち切ったのだ。


「…魔王アマデウス、王女セルス、そして我々勇者一行の『正義』名の下に、貴様等に裁きを下す!」


逆光の中に立つクライムの姿は、神々しくも、どこか恐ろしい絶対的な断罪者のそれだった。

事態は、もはや何者にも取り返しのつかない「破滅」へと、加速して突き進んでいく。

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