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第十一話_想定外の状況

リザードホースを駆り、バジリスクに襲われた例の村へと滑り込んだアーデルミノス。

そこで彼女が目撃したのは、凄惨な「結果」だった。


村の広場、力なく横たわる二人の影。

片腕を根元から失い、顔面蒼白で横たわるリザードマン。

そしてその隣、腹部に幾重にも包帯を巻かれ、死人のように目を閉じている清十郎。

白い布は既にどす黒い鮮血に浸食され、絶え間なくその範囲を広げている。

傍らでは、かつてアーマードリザードの鉱山で刃を交えた冒険者パーティー『黒鉄の翼竜』の牢僧侶マーベルが必死に手を翳していた。

高度な回復魔法ヒールの淡い緑色の光が清十郎の腹部を照らしている


「…っ!?」


アーデルミノスは、馬上で一時放心した。

あの清十郎が、ヘパルディアの勇者を子供扱いし、自分ですら全力を出さねば捉えきれぬほどの速さを持つあの男が、これほど無残に打ちのめされるなど。

ようやく我に返った彼女は、落馬せんばかりの勢いで地面に飛び降り、その場へと駆け寄った。


「貴様ら!何があった…セイジュウローに何をしたッ!!」


「アンタは、あの時の…!?」


驚愕の声を上げたリーダーのランドに、アーデルミノスは獣のような鋭い眼光で掴みかかった。


「答えろ!なぜ奴がこんな姿に…答えろと言っているんだッ!」


「お、落ち着け!このクラウハルト将軍の部下が、瀕死の二人を連れてアマデウス領から命からがら逃げ帰ってきたんだ。俺たちはそれをここで収容しただけで…。」


ランドの言葉を裏付けるように、傍らにいたリザードマンの斥候兵が、アーデルミノスに膝を折る。


「何があった…。アマデウス領で、一体何が起きたのだ?」


殺気立ったその問いに、リザードマンの兵士は震え上がり、言葉を失う。

その時、微かに混濁した声が地を這った。


「…貴殿は、ローデウス魔王軍司令…アーデルミノス殿か?」


声の主は、片腕を失い清十郎の隣で横たわっていたリザードマン。


「お前は…クラウハルトか?」


「ああ…。」


そのやり取りを聞いた『黒鉄の翼竜』の面々は、文字通り凍りついた。

かつて鉱山で一戦交えた、美しくも苛烈なこの女。

それが、まさか魔王軍の最高幹部の一人であったとは。

だが、アーデルミノスは彼らの驚愕など一顧だにせず、クラウハルトに詰め寄った。


そこで語られたのは、彼女の想像とは異なる内容だった。

魔王アマデウスが既に王女セルスの傀儡と成り果てていたこと。

そして、そのセルスという女の底の知れない圧倒的な強さ。


「…セルス=バルハート。」


アーデルミノスは戦慄を覚えた。

目の前で片腕を失っているこの猛将が、そしてその横で倒れている、誰よりも信頼する清十郎が、二人掛かりで一人の人間の女を相手に敗北を喫したというのか。

思案を巡らせるアーデルミノスの耳に、激しい咳き込みの音が響いた。


「がはっ…、はぁ、は…。」


清十郎の口から鮮血が溢れ出し、白い喉元を汚していく。


「どうした!?回復魔法をかけているのではないのか!早くしろ!」


「…おかしいんじゃ。」


マーベルが、困惑と焦燥の入り混じった顔で呻いた。


「先ほどから、ワシが持てる限りの魔力を注ぎ込み、最大出力でかけ続けておる。じゃが、全く、これっぽっちも効かん。魔法そのものは発動しておるというのに、まるで吸い込まれるように消えていく…。」


その言葉を聞いた瞬間、アーデルミノスの脳内が怒りで沸騰した。

彼女はマーベルの襟元を乱暴に掴み上げる。


「ふざけるなッ!あの時の仕返しか?私への恨みを、よりによって今、この男で晴らそうというのか!?」


「やめてよ!あんなこと、もう気にしてないわ!」


叫んだのは、傍らで目を充血させ祈るように清十郎を見守っていたシャゼルだった。


「彼は私たちを、この村を救ってくれた恩人よ。見殺しにするわけないでしょ!」


「ではなぜだ!なぜ傷が塞がらん!」


「クラウハルト殿には、ワシの魔法で効果があったのじゃ。傷は塞がり、一命は取り留めた。じゃが…なぜかこの男にだけは、どうしても、どうしても通じんのじゃ…!」


「マーベルは俺たちA級『黒鉄の翼竜』が誇る僧侶だ。そんなやわな魔法じゃないんだよ!」


ランドの必死の弁護も、アーデルミノスの耳には届かない。

彼女の視線は、清十郎の腹部へと釘付けになっていた。

マーベルの放つ緑の光に照らされながらも、包帯はみるみるうちに赤黒い色に染まり、地面にまで血が滴り始めている。


「…セイジュウロー、何をしている。起きろ…。」


アーデルミノスは、清十郎の頬に触れた。

指先に伝わる体温は、あまりにも冷たくなっていた。

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