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第五話_地下牢にて

仄暗く湿った空間。

松明の火が爆ぜる音と、壁を伝う水滴の音だけが響く地下牢。

アマデウス領にやってきた清十郎は、そこでクラウハルトの報を待っていた。


同室にもう一人、薄汚れてしまってはいるが、よく見ると整った身なりをした男がいた。

しばらく様子を伺っていた男だが、話し相手を求めていたのか、清十郎へ近づいてくる。


「お前、なんの罪で捕まったんだ?」


清十郎はすぐには答えず、暗闇の奥にいる男の気配を探るように問い返す。


「…あなたは?身なりからして、ただの囚人には見えませんが、なぜこんな場所に?」


「オレか?オレはしがない商人よ。」


男は自嘲気味に笑ったが、少しだけ胸を張る。


「まあ、一応は王宮に出入りを許されるくらいには、やり手だったんだがな…。」


「そんな方がなぜ?」


更に問いかけると、男はスラスラと身の上話を語り始めた。


「…ある夜、魔王様と王女が話してるのをきいちまったんだ。いや、ありゃ命令だな。一方的に王女が魔王様に何かを強いてるみてぇな…。そしたらその夜に『反逆罪』だ。意味がわからねぇよ。」


王女が魔王に命令。

地位も力も恐らくは下であろう他国の第一王女の命令を、大人しく聞く魔王とはなんとも滑稽な話である。

そして、それを目撃した一介の商人を投獄。

クラウハルトが勘繰っていた『何か』がそこにあるのは明白だった。


「お前はどうして捕まったんだ?」


自分がまだ答えていなかったことに軽く謝罪をし、清十郎は包み隠さず自らの罪を語った。


「十五人。バルハート帝国の兵士を十五人殺したからですね。」


「え?」


あまりに自然に大罪の告白をした清十郎に、男は反応できない。

間の抜けた声を出し、しばらく考え込んで口を開けた。


「じょ、冗談を言うにしても、もう少しマシな…。」


「冗談ではないですよ。十五人、ちゃんと数えて殺しました。」


被せて言う清十郎に、男は背筋を凍らせ、距離を取る。

その警戒心を見透かすように、清十郎は優しく微笑んだ。


「安心してください、今は丸腰ですから。」


「いや、とんでもねぇ殺人鬼じゃねえかっ!?」


◆◆◆


二日目——


「本当にこの町に詳しいんですね、ビドラさんは。」


清十郎の言葉に、男——ビドラは膝を抱えたまま頷いた。


「当たり前よ、生まれ故郷だからな。お前も、最初は頭のネジがぶっ飛んだヤベェやつだと思ったけど、案外良いやつじゃねぇか。」


ガハハ、と豪快に笑うビドラ。


「ここを出られたらオレの店に来いよ。ウチは、この町じゃそれなりに有名…。」


言いかけて、ビドラは力なく笑った。


「出られるわけねぇか。一生懸命働いてきたんだぜ、この国のために。それを、反逆罪なんて…。」


涙を見せるビドラに、清十郎は格子の隙間から外を見つめたまま、独り言のように呟いた。


「いつでも、この牢屋くらいなら逃げ出せるんですが。…今は騒ぎを起こしたくないので、我慢してくださいね。」


「いつでも?あんた、何を言って…。」


◆◆◆


三日目——


「遅くなってすまぬ、清十郎殿。」


壁に寄りかかって目を閉じていた清十郎は、聞き慣れたその声にゆっくりと目を開ける。

格子の先にはクラウハルトが立っていた。


「おはようございます、クラウハルトさん。」


いつもと変わらない口調で挨拶する清十郎だったが、その先で目を覚ましたビドラは違った。

驚きの声を上げると、地面に額を擦り付けて平伏する。


「ク、クラウハルト将軍閣下っ!!」


「お前は…。」


「ビドラさんを知ってるんですか?」


清十郎が尋ねると、クラウハルトは眉間に皺を寄せた。


「無論だ。王家御用達の商人であるビドラが、なぜこのような場所に?」


「彼、たまたま魔王様とセルス王女の密談を聞いてしまったそうですよ。それで反逆罪だそうです。」


簡潔な清十郎の説明に、クラウハルトは拳を握りしめた。


「…やはり、あの王女には裏があったか。我が王がああも無抵抗なのは、何らかの呪縛か弱みを握られているに相違ない。」


清十郎はビドラを一瞥し、提案した。


「クラウハルトさん、ビドラさんを匿っていただけますか?」


「ああ、無論だ。地下牢は既に私の部下が制圧済みだ。町の至る所にも手勢を潜ませている。彼一人逃がすことなど容易い。」


「ありがとうございます!ありがとうございます…っ!」


ビドラは涙を流し、何度も二人に頭を下げた。そんなビドラを部下へと引き渡しながら、クラウハルトは悔しげに吐き捨てる。


「バルハート帝国によるアマデウス領への侵食は、日に日に増している。このままでは国が食い潰される…。」


「だからこそ、ここで仕掛けるのでしょう?」


気負うクラウハルトに、清十郎は爽やかな笑みを向けた。


「そんなに殺気立っていては、相手に悟られてしまいますよ?」


「…ふっ、そうだったな。すまぬ、熱を上げすぎた。」


クラウハルトは一つ息を吐き、冷静さを取り戻すと、本題を切り出した。


「手筈通り、これから謁見の間で魔王様とセルスがお前に会うことになった。…距離にして十歩。届くか?」


清十郎は目を細め、静かに、しかし絶対の自信を持って答えた。


「十分ですよ。」

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