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第四話_動き出す情勢

ローデウス魔王城、玉座の間。

重厚な静寂が支配するその空間で、リュウ、シロ、クロ、そして『鳳仙花』の三人は深く膝を折っていた。

頭上から降り注ぐのは、魔王ローデウスが放つ圧倒的な威厳。

ただそこに居るだけで魂を削られるようなプレッシャーに、六人は奥歯を噛み締め、必死に耐えていた。


「――以上が、アマデウス領近辺の森における事態の全容にございます。」


リュウが震える声を押し殺して報告を終えると、玉座の主がゆっくりと口を開いた。


「大義であった。」


ローデウスの労いの言葉に、一同は一斉に深く頭を垂れる。

魔王は即座に傍らに控える将兵へと鋭い視線を向けた。


「直ちにアマデウス領に隣接する北の森へ兵を敷け。一兵たりとも国境を越えさせるな。…奴らに、我が領土が安眠の地ではないことを教えてやるのだ!」


配下たちが一斉に場を辞する中、リュウが恐る恐る顔を上げた。


「あの…魔王様。アーデルミノス様は、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」


「…ああ、そうであったな。」


ローデウスは記憶を辿るように目を細めた。


「セイジュウローの件は、余からもあ奴に伝えてやりたいのだが…生憎、今は故あって自城に戻っておる。」


「もし許されるのであれば、俺達…いや、私たちが直接お伝えに伺いたいと存じます!」


リュウの必死の願い出に、ローデウスは微かに口角を上げた。


「それは助かる。あやつはセイジュウローのこととなると少々厄介でな。お前達に任せよう。」


拝領の言葉を背に、六人は逃げるように玉座の間を後にした。


◇◇◇


静まり返った玉座の間で、ローデウスは独りごちる。


「兄よ…一体何があったのだ。貴方ともあろう方が、バルハートの小娘に惑わされるとは。」


その横で、四本の腕を持つ老魔族、宰相ジャミロクワイが静かに進み出た。

魔王軍の重鎮である彼は、四つの掌を合わせ、深みのある声で助言する。


「陛下。形はどうあれ、バルハート帝国とアマデウス軍が手を結んだとなれば、世界情勢は根底から覆りますぞ。特に、隣接するジノーブス連邦の動きは無視できませぬ。奴らはヘパルディアを平らげたばかり…まずはジノーブスと結び、後顧の憂いを断っておくべきかと。」


「…ヘパルディアとの同盟を、勇者が消えた瞬間に反故にしたあの国か。信頼に値せぬな。」


ローデウスは不快そうに鼻を鳴らしたが、ジャミロクワイは動じない。


「左様にございます。なればこそ、あちらも大戦の直後。派手な動きは避けたいはず。利害の一致を突くのが最善かと存じます。」


魔王は深く玉座に背を預け、遠くアマデウス領の方角を見つめた。


◇◇◇


魔王城の外に出た途端、六人の冒険者は一様に大きな溜息を吐き出した。


「すごかったわねぇ、魔王様!あんなに近くでお顔を拝見できるなんて!」


「本当!ユーファ、一生の思い出にしましょうね!」


リーファとユーファの姉妹は、緊張から解放された反動か、乙女のようにキャッキャとはしゃいでいる。

対して、前衛を務めた男連中は、精神的な疲労でどっと肩を落としていた。


「…死ぬかと思ったぜ。プレッシャーで胃に穴が空きそうだ。」


「全くだ。シロ、お前足震えてたぞ。」


そんな姿を横目に、牛角の魔族モーフが斧を担ぎ直した。


「さて、リュウ。あんたたちはアーデルミノス様の城へ向かうんだろ? 」


「ああ…お前たちは、どうするつもりだ?」


「そうだな。魔王城の近辺なら魔獣も少ない。俺たちが一緒に行く必要もないだろう。俺たちはここに残って、村に残った連中の様子を見に行くとするよ。同じ釜の飯を食った仲だしな、なにかあっちゃ後味が悪い。」


モーフの言葉に、シロとクロが『鳳仙花』の姉妹へ向き直る。


「リーファちゃん、ユーファちゃんも元気でね!いつでも俺のここは空いてるからよ!」


二人は同時に、脇と腕の間のスペースをビシッと指し示した。


「…あ、そう。お疲れ。」

「さよならー。」


一瞬の沈黙。姉妹の冷ややかな視線と塩対応に、二人の腕は空しく宙を掻いた。


「…よし、鳳仙花のみんな。また会おうぜ!」


リュウがモーフと固い握手を交わし、一行は二手に分かれた。

見送るモーフたちの背中が小さくなるのを確認すると、リュウは表情を引き締める。


「さあ、急ぐぞ。アーデルミノスさんに早く伝えねぇと。」


「俺たち、アニキを一人で行かせたって言ったら、アネゴに殺されるんじゃねぇですかね?」


シロとクロが顔を見合わせ、今度は別の意味で震え出した。


「可能性は…否定できねぇな。」


リュウは乾いた笑いを漏らし、魔軍司令の待つ不夜城への道を駆け出した。

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