閑話_黒鉄の翼竜
ギガントバジリスク三体を退け、ようやく村に束の間の静寂が訪れる。
壊れた家屋の片付けや負傷者の手当ても一段落し、清十郎たちは広場の中央で焚き火を囲み、一息ついていた。
そんな一幕。
パチパチとはぜる火の粉が吸い込まれるように夜空へと消えていく。
その暖かな明かりを眺めながら、清十郎がふと、隣に座るランドたちに問いかけた。
「そういえば、皆さんのパーティー名…『黒鉄の翼竜』でしたっけ。格好いい名前ですが、由来を聞いてもいいですか?」
その言葉に、酒の入った革袋を傾けていたランドの目が、待ってましたとばかりに輝いた。
「おお、聞いてくれるか!あれは俺たちがまだB級で燻ってた頃の話なんだがな…。」
◆◆◆
舞台はジノーブス連邦の最南端。
切り立った崖が続く険しい地方で、当時、狂暴化したワイバーンの一群が住み着き、ふもとの村々を脅かしていたのだという。
「あいつら、とにかく高いところを飛びやがるんだ。矢を放ってもギリギリ届く程度だし、下から放つ魔法も距離のせいで威力がガタ落ちしちまう。腕利きの魔導士がいれば別なんだが、あんな辺境のワイバーン退治ごときに、高位のパーティーがわざわざ出張ってくるはずもなくてな。」
多くの冒険者が「割に合わない」と匙を投げる中、まだ名もなき新人だったランドたちは諦めなかった。
名を上げるには、この難関を突破するしかないと考えたからだ。
「矢も届く、魔法も届く。だが、あと一押しが足りない。そこで俺が思ったんだ。俺があの高さまで直接登れれば、一撃で叩き落とせるのになってな。」
「…なるほど。それは興味深い解決策ですね。」
清十郎が相槌を打つと、隣で長い髪を弄っていたシャゼルが、ここぞとばかりに身を乗り出してきた。
「そうでしょ? 私たちの…っていうか、私に興味が湧いてきたかしら、セイジュウロー様?」
「やめとけって。アネゴにバレたら洒落になんねぇぞ。」
リュウが呆れたように釘を刺すが、酔ったシャゼルはどこ吹く風だ。
ランドはさらに熱を帯びて話を続ける。
「そこで編み出したのが、俺様の必殺奥義『翼竜撃墜斬』よっ!」
ランドが立ち上がり、大剣を振るう真似をして自信満々に叫んだ。
しかし、即座にリクラットから待ったがかかる。
「おい待て、ランド!勝手にそんなダサい名前で固定するなよ。あれは俺の超絶技巧から始まった『ブラック・シューティングスター』だろ!」
「ちょっと、あんたたちのも大概よ?」
シャゼルが横から口を尖らせる。
「氷の足場を作った私の美学が詰まってるんだから、あれは『ヴィーナス・オブ・シャゼル』に決まってるじゃない!」
三人が三様に、あの日ワイバーンを仕留めた連携の「技名」について、譲らぬ言い合いを始めてしまった。それを見ていたシロとクロも、なぜか鼻息荒く参戦する。
「おいおい、それなら俺たちの出番だぜ!」
「俺たちの合体奥義『ホワイト・アンド・ブラック』の話も聞いてくれよ!」
焚き火の周りは一気に騒がしくなり、収拾のつかない様子を眺めながら、清十郎は困ったように笑った。
「結局、どういう技だったのかは分からずじまいですね。」
そんな中、端の方で静かに酒をちびちびとやっていた老僧侶マーベルが、清十郎に視線を向けて穏やかに告げた。
「…要するにじゃな、各々が自分の持ち味を出し切って、ワシらの連携でワイバーンを討伐した。ただそれだけのことなんじゃよ。」
「まぁ、理屈抜きに仲がいいってことだけは伝わったぜ。」
リュウが苦笑しながら頷くと、清十郎はふとした疑問を口にした。
「翼竜の由来はなんとなく分かりましたが、黒鉄の部分はどこから?」
清十郎が言い終えるか終えないかの瞬間、四人の声が完璧に重なった。
「カッコいいから!」
一分の狂いもない合唱に、清十郎は一瞬呆気に取られたが、すぐにクスクスと肩を揺らした。
「ふふ、息ぴったりですね。」
清十郎も柔らかく目を細めた。
つい数日前まで、アーマードリザードを巡っていがみ合っていたパーティー同士とは思えない。
赤々と燃える火を囲み、彼らはまるで昔からの戦友であるかのように、賑やかな夜を過ごしていた。




