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第七話_氷炎の町娘

鉱山の乾いた風が吹き抜ける中、ジノーブスのA級冒険者パーティー『黒鉄の翼竜』のリーダー、ランドが苦笑い混じりに大剣を肩に担ぎ直した。


「おいおい。そんな、ちょっと町へお出かけ…みたいな格好の女が俺たちを相手にしようってのか?」


「アネゴ!加勢しますぜ!」


シロとクロが武器を構えて飛び出そうとするが、アーデルミノスの鋭い一瞥に射すくめられ、ヒッと喉を鳴らして萎縮した。


「…さて、お前。か弱い町娘を相手にするなら、それ相応の覚悟はできているんだろうな?」


「ハッ、泣き見たって知らねぇぞ!」


ランドは鼻で笑うと、大剣を抜くまでもないと判断したのか、素手でアーデルミノスの肩を掴みにかかった。

だが――。


「…ッ!?なんだ、これ…動かねえ!」


アーデルミノスは、ランドの太い腕を片手で軽々と受け止めていた。

冗談めかして「手加減がすぎるぞ」と笑う彼女に対し、ランドの顔面からはみるみる余裕が消えていく。

渾身の力を込めても、掴んだ拳は岩盤に固定されたかのように微動だにしない。


(なんだコイツ、ヤバい…!?)


「くそっ、離せぇ!」


ランドが顔を真っ赤にして全力で腕を引いた瞬間、アーデルミノスは「お望み通り」と指を離した。

勢い余ったランドは無様に後ろへ転がり、砂埃を上げる。


「ちょっと、何やってんのよランド!」


副リーダーの魔法使い・シャゼルが、呆れた声を上げながら彼を叩き起こした。

ランドは冷や汗を流しながら、小声で指示を飛ばす。


「…シャゼル、こいつはヤベェ。全力で撃て!」


「はいはい。じゃあ、ちょっと痛い目を見てもらおうかしら!」


シャゼルが杖を掲げ、高度な氷結魔術『アイスニードル』を放った。

鋭利な氷の礫がアーデルミノスを襲うが、彼女は避ける素振りすら見せず、それを素手で軽快に弾き飛ばす。


「えっ…!?嘘でしょ…?」


目を見開いて呟くジャゼル。


「さて、では私からいくぞ。」


アーデルミノスが不敵に笑った瞬間、その姿が掻き消えた。

一瞬で距離を縮め、ランドとシャゼルの間に割って入ると、左右の手から同時に異なる魔術を放つ。


至近距離からの火炎魔法に焼かれ、悲鳴を上げて転がるランド。

シャゼルは咄嗟の防御魔法で直撃を免れたものの、衝撃で岩盤まで吹き飛ばされ、苦痛に顔を歪めた。


「ひっ!な、何が起きたんじゃ!?」


後方で震えていた老僧侶マーベルに、アーデルミノスが影のように忍び寄る。


「ほら、回復や強化は戦闘の要だろう。真っ先に狙われるぞ。」


軽く放たれた蹴りがマーベルの腹部を捉え、老体は派手に後方へと転がった。


「なんなのよコイツ…怪物じゃない!」


杖を使ってようやく立っていられる状態のシャゼルが悪態をつく。


「さすがはA級だ、よく耐えた。」


アーデルミノスが感心したように言った直後、背後の崖上から一本の矢が彼女を狙って飛来した。


「アネゴ、危ねぇ!」


シロとクロが叫ぶが、彼女は初めから気づいていたかのように、背後も見ずにその矢を指先で弾き落とす。


「そこか!」


放物線を描くように、小さな火の玉を崖上へ放り投げる。

着弾と同時に巨大な炎の柱が立ち上り、隠れていた狙撃手の男が煙を上げながら崖下へと転がり落ちた。


「リクラット! …くそ、舐めるな!」


仲間の窮地に、ランドがついに大剣を抜き放ち、地を蹴った。

渾身の一撃。

だが、アーデルミノスはその軌道を完全に見切っていた。


「良い攻撃だが、重さが足りんな!」


彼女の左手が大剣を受け止め、右の拳がランドの腹部を殴打した。

凄まじい衝撃に、ランドの巨体は岩壁にめり込み、その周囲にクモの巣状の亀裂を走らせる。


「おおー!さすがアネゴ!」

「鮮やかな手際ですね。」


三人の獣人が歓声を上げ、清十郎は感心したように笑顔で手を叩いていた。


「さて、まだ続けるか?」


アーデルミノスが、膝をつくシャゼルに問いかける。

彼女はボロボロになった仲間たちの姿を見渡し、力なく杖を下ろした。


「…降参よ。私たちの負けだわ。」


◇◆◇


シャゼルがマーベルを叩き起こし、満身創痍のランドとリクラットに回復魔法をかけさせている。

アーデルミノスはその様子を横目で見ながら、アーマードリザードの体内の鉱石を確認する。


「…おい、これを持っていけ。」


彼女はアーマードリザードの体内から見つかった高価な鉱石を一つ拾い上げ、ランドの足元に放り投げた。


「変な恨みを買っても敵わんからな。それは貴様らの治療費だ。受け取れ。」


「ア、アネゴ…もったいないですよぉ。」


シロたちが嘆くが、アーデルミノスは「お前たちには組合からの報奨金が出るだろう。我慢しろ」と一蹴した。


「…アンタ、一体何者なんだ。ただの町娘が、俺たちA級冒険者を一人で蹂躙するなんてあり得ねぇ…。」


ランドが震える声で問いかける。

シロとクロが調子に乗って「この御方は魔軍司令の――」と言いかけた瞬間、アーデルミノスの拳が二人の脳天に落ちた。


「…言ったはずだ。私は、通りすがりのか弱い町娘だと。それ以上の答えが必要か?」


ランドは、その美しくも苛烈な瞳の奥にある「本物」の気配を悟り、静かに目を逸らした。


「…いや、十分だ。ここは大人しく引かせてもらう。」


彼らが背中を向けて立ち去っていくのを眺めながら、清十郎がのんびりと呟いた。


「物分かりの良い人たちでよかったですね。」


「冒険者というのは、常に死と隣り合わせで場をわきまえているからな。権力に胡坐をかいている国に属する奴らとは違って、話が早くて楽なものだ。」


アーデルミノスはそう言って、手に入れた虹色の輝き――オリハルコンを清十郎に差し出した。


「さあ、これで準備は整ったな。お前の『相棒』を、不滅の業物に変えてやるとしよう。」

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