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第五話_初級パーティー

翌朝、教会の清々しい空気の中で、三人は出発の時を迎えていた。


「それじゃあミリチェアさん、司祭様!お世話になりました!」


ロンが元気よく手を振ると、ミリチェアは少し心配そうに眼鏡を指で押し上げ、三人のもとへ歩み寄った。


「いい?ギルドへ行ったらまず鑑定を受けることになるけれど…昨晩言った通り、あなたたちの『上級職』がそのまま出たら大騒ぎになるわ。くれぐれも気をつけてね。」


司祭も深く頷き、静かに助言を授ける。


「異世界から来たことも含め、今はまだその力を隠しておくべきでしょう。世の中には、強すぎる力を利用しようとする不届き者も多いですからね。」


門出を祝う二人の言葉を受け、アーデルミノスはフッと不敵な笑みを浮かべた。


「案ずるな。バレないように、その鑑定装置とやらを破壊してしまえばいいのだろう?」


「えっ…!?さ、流石にそれは…。そんなことができるの?」


ロンが目を丸くして驚くが、アーデルミノスは事もなげに言い放つ。


「造作もない。我々を誰だと思っている。」


その自信に満ちた横顔に、ミリチェアたちは顔を見合わせ、苦笑いしながらも三人を見送った。


◇◇◇


辺境の街「ルナマリア」の冒険者ギルド。

その重厚な扉を潜ると、酒の匂いと活気に満ちた喧騒が二人を包み込んだ。

ロンが、受付に向かって元気よく声を上げる。


「おーい、ミーツさん!鑑定をお願いしに来たよ!」


その声に、酒場で談笑していた荒くれ者たちが一斉に振り返った。

街の弟分のような存在であるロンの登場に、彼らは一斉に囃し立てる。


「お、ロンの仲間か?珍しいじゃねぇか!」


「…って、おい!どえらい美人じゃねぇか!? あの赤い髪の姉ちゃん、何者だ?」


「いや、俺はもう一方の黒髪美少女の方が…。」


「いや、待て…。あの黒髪、男だぞ!? 」


「男だろうと一向に構わん!」


無遠慮な視線と品定めするような言葉に、アーデルミノスがわずかに眉を寄せた。

彼女の瞳に鋭い光が宿り、周囲の気温がわずかに下がったような錯覚を覚えさせる。


「…セイジュウロー、不快だ。こいつら、今すぐ黙らせていいか?」


「まあまあ、アーデルミノスさん。せっかく新しい街に来たんですから、穏便にいきましょうよ。」


清十郎は苦笑しながら彼女を制し、そのまま受付のミーツへと向き直った。


「すみません、鑑定をお願いできますか?」


「えっ…あ、はい!もちろんよ!」


不意に間近で清十郎の笑顔を浴びたミーツは、顔を赤くして、鑑定用の水晶板を差し出した。

それを見たロンが、ニヤニヤしながら身を乗り出す。


「ちょっと、ミーツさん?清十郎君とアーデルミノスさんは良い仲なんだから、手を出しちゃダメだよ?」


「なっ!?お前、何を…!!」


不意を突かれたアーデルミノスが、珍しく狼狽して声を荒らげる。

そんなやり取りを他所に、清十郎とアーデルミノスは、示し合わせたように透明な水晶板にそっと手をかざした。

直後、水晶の中に文字列が浮かび上がる。

・名前:朽木 清十郎

・クラス:狩者

・レベル:1

・筋力:999 / 敏捷:999 / 魔力:999 / 耐久:999


・名前:アーデルミノス

・クラス:魔術士

・レベル:1

・筋力:999 / 敏捷:999 / 魔力:999 / 耐久:999


「…ッ!?」


ミーツが目を見張り、後ろから覗き込んでいた冒険者たちも絶句した。

全項目がカンストを示す「999」。

しかし、それに対してレベルは「1」。


「な、何よこれ…ありえないわ!!」


ミーツが叫び声を上げた瞬間だった。

清十郎の姿が掻き消えたかと思うほどの神速で、一閃。

抜刀すら見せぬ速さで、清十郎は逆手に持った刀のかしらの部分で、水晶板の中心を鋭く突いた。


ピシッ。


乾いた音と共に、水晶板の表面に細かなヒビが走る。


「ああっ!? 装置が!!」


ミーツが慌てて装置を抱え込む。

清十郎は何食わぬ顔で元の位置に戻っている。

この場にいた誰もが、清十郎の動きを認識できていない。


「どうしました?なにか、ヒビが入ってるようですけど…故障していたのでしょうか?」


清十郎が笑顔を崩さずに聞く。


「…そうね、間違いなく故障だわ。よく見るとクラスの表示も変なのよね。狩人も狩者になってるし、魔術師も魔術士になってるわ。」


「確かに」とわざとらしく頷く清十郎。

アーデルミノスはそんな姿を見て笑うのを必死に堪えているようだ。


「レベル1でこんな数値が出るわけないし…。最近この水晶、感度が不安定だったのよね。本当ならオール10前後ってところでしょう。」


ミーツは溜息をつき、装置を何度か叩いてみる。

その振動で更にヒビが深くなり、慌てて装置を端にやる。


「ギルド長に言って新調してもらわなきゃ…。」


その流れで、受付の引き出しから銅色のコインを二枚差し出した。


「ごめんねちゃんと鑑定できなくて。とりあえず二人ともロンと同じ『初級』で登録しておくわ。…で、アンタ達、パーティー登録はどうするの?」


その言葉に、ロンが縋るような目を二人へ向けた。

それを見た周囲の冒険者たちがガハハと笑い飛ばす。


「おい、組んでやってくれよ!コイツ、弱ぇくせに『勇者』なんて大層なクラス持ってるから、見てて可哀想でよぉ!」


「あはは…。」


困ったように頭をかくロン。

その屈託のない姿を見て、清十郎とアーデルミノスは自然と視線を交わした。


「…いいだろう。これも何かの縁だ。ロン、お前を最強の勇者にして見せようじゃないか。」


アーデルミノスが不敵に口角を上げると、清十郎もまた、笑みを浮かべる。


「その依頼、謹んで承りますよ。ロンさん。」


最強のステータスを隠し持った「初級」パーティーの冒険が、賑やかなギルドから静かに始まった。

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