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第二話_世界の理

湖畔に降り注ぐ二つの太陽の光は、穏やかな風と共に二人を包み込んでいた。

目の前に座り込み、自慢げに語り続ける青年ロンの話は、清十郎とアーデルミノスにとって、驚きと違和感の連続だった。


ロンの話によれば、三つの大陸からなるこの世界は、今まさに「魔王」という強大な脅威に晒さすれているのだという。

かつていくつかの国が魔王軍の侵攻によって地図から消え去り、生き残った各国は総力を挙げて軍を編成し、魔王討伐を試みた。

しかし、結果はことごとく敗戦。

強大な魔王の力の前に、数だけの軍隊は無力だった。


窮地に立たされた各国の王は方針を転換し、選ばれし「勇者」とそのパーティーに魔王討伐の命運を託すことにしたのだという。

残された軍隊は、今や各国の防衛に専念しているのが現状だ。


「伝承だとさ、魔王は勇者の持つ『聖剣』でしか倒せないって言われてるんだ。だから、僕みたいに勇者職を持ってる連中は、みんな聖剣を求めて旅に出るのさ。」


ロンは事もなげに言ったが、アーデルミノスはその言葉に眉をひそめた。

魔王の脅威に晒されている世界だというのに、目の前の青年からは、世界を背負う者特有の悲壮感や、研ぎ澄まされた強者の気配が微塵も感じられない。

まるで遥か遠くで起きているお伽話のような、現実味を感じさせない違和感がある。


この世界では、生まれた人間はまずその適性を図られる儀式を受ける。

それによって、戦士、魔術士、僧侶、盗賊といった「クラス」に分かれるのだという。

多くの人々はクラスに関係なく平穏な生活を送るが、腕に自信のある者は城壁の外を徘徊するモンスターに対抗するため、冒険者ギルドに登録して「冒険者」となる道を選ぶ。


「モンスターを倒せば『レベル』が上がる。レベルが高ければ高いほど、人は強く、超人的になれるんだよ。ちなみに僕は今レベル5。ようやく初級冒険者の仲間入りってとこかな!」


「…レベル、ですか?」


清十郎が首を傾げる。

熟練度や精神的な成長といった目に見えないものをそう総称しているのかと思えば、ロンの話ぶりはあまりに事務的で、明確すぎるのだ。

二人の困惑を察したロンは、少し呆れたように笑った。


「本当に、何も知らないんだね。…いいかい、見てなよ。『ステータスオープン』!」


ロンがそう呟いた瞬間だった。

何もない空中に、パッと光の粒子が走り、半透明の板のようなものが現れた。


「なっ…!?」


清十郎が反射的にアーデルミノスの前に出た。

腰の得物に手をかけはしなかったが、その身体はいつでも彼女を庇い、相手を制圧できる緊迫感を孕んでいる。


「あはは!そんな反応、はじめて見たよ!ほら見て。」


その板には、ロンの名前や職業、そして能力値が整然と割り振られている。


「これだよ、これがレベルと能力の証明。ほら、君たちもやってみなよ。呪文は簡単、『ステータスオープン』って唱えるだけさ。」


二人は、半信半疑のままその言葉を口にした。


「…ステータス、オープン。」


しかし、何も起こらない。

風が吹き抜ける音だけが湖畔に響いた。


「あれ? おかしいな。…君たち、本当に何者なの?」


ロンが不思議そうに首を傾げたその時、清十郎とアーデルミノスは互いに顔を見合わせる。

ここで伏せていても話がややこしくなるだけだ。

小さく咳払いすると、清十郎が口を開いた。


「ロンさん。驚かれるかもしれませんが…実は、僕たちは別の世界から来たようなんです。」


「…えっ?別の世界?」


ロンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

清十郎は、自分とアーデルミノスが異なる世界から来たこと、そして気づけばこの湖畔に立っていたことを、簡潔に伝えた。

江戸、始末屋、魔軍司令、魔王軍、セルスとの戦いなどの難しい話は避けて。


「――ですから、この世界の常識も、レベルというものも、僕たちには全くわからないんです。」


しばらくの間、沈黙が流れた。

ロンは眉根を寄せて二人の姿をじっくりと眺め、「うーん」と唸った。


「別の世界、ねぇ…。でも確かに、君の服は見たこともない形だし、ステータスに全く反応しないなんて、おかしいしなぁ。」


ロンは顎に手を当てて考え込んでいたが、やがて「まあ、いっか!」といつもの楽観的な笑顔に戻った。


「本当の話か、それとも二人揃って記憶喪失にでもなっちゃったのか。細かいことは僕にはわかんないけど、君たちが何も知らないってことだけは本当みたいだね!」


「か…軽いな。」


あまりに楽観的なロンの反応を見て、アーデルミノスが呆れ半分、驚き半分でそうに呟くと、ロンは得意げに胸を張った。


「だって、あなたみたいな美人が嘘をつくとは思えないし!それに、困ってる人を放っておいたら、勇者の名が廃るからね!」


ふふん、と鼻を鳴らすロンの勢いに、アーデルミノスはまたも、「お、おう…」と気圧される。


「ってことは、そもそも君たちこの世界の教会で『祝福』を受けてないし、ギルドでの『鑑定』も済ませてないんだね!だから自分の能力が可視化されてないんだ。異世界から来たなら納得だよ!」


そこで、ロンはポンっと胸を叩いた。


「よし!じゃあこの世界の先輩として、僕が君たちを街まで連れてってあげよう。そこで手続きをすれば、君たちの力がハッキリするはずだ!」


「…街へ?」


アーデルミノスが清十郎と視線を交わす。

見知らぬ土地で、正体不明の青年に付いていくのは危険を伴う。

だが、この「レベル」や「ステータス」という理を理解しなければ、この世界で生きていくことはおろか、自分たちの現状すら把握できない。


「そんなに警戒しないでよ。僕に付いてくれば、少なくともモンスターに襲われて右往左往することはないからさ。さあ、行こう!」


手を差し出すロンの屈託のない笑顔には、裏表がない。

いや、裏表を作れるほど器用な男には見えなかった。


「行きましょう、アーデルミノスさん。」


その言葉にアーデルミノスも頷く。


二つの太陽が少しずつ傾き始めた。 

江戸の始末屋と、元魔軍司令、そしてお人好しの自称・勇者。

奇妙な三人連れは、湖畔を離れ、街へと歩みを進め始めた。

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