第8話:風が運んだ出会い
「もうっ、ルーラってば、あのあとこっそり出て行っちゃうだなんて…。」
リラはその後姿が見えないルーラのことが気になって施設長に尋ねた。
「お別れ、ちゃんと出来なかったし、あのときのお礼も言えてないのに…。」
リラはガランとした部屋を見て寂しさが込み上げてきた。キュッと唇を噛んで天井を見上げる。
〝泣かない!またいつか、きっと会うよ。〟
みんな…この施設をいつかは出て行く。
貴族に引き取られる子、
教会へ迎え入れられる子、
ちょっと裕福な平民へ引き取られる子
みんな様々だ。
だけど、出て行った“先”が決まってから出て行く。
リラは自分の髪を指先でくるくるするのが癖になっているようだ。
「来年は本格的な聖女のテストがある…。そこで結果が出ないと私はどうなるんだろう…。このままここにも置いてもらえない…。平民と養子縁組?私を引き受けてくれる人っているのかなぁ…。」
リラは不安はその指先に現れてた。くるくる髪を触る。
そんなとき、
サワ…。
風が優しく吹いた。
「風さん…。慰めてくれてるの?ありがと!」
そう言って指で髪をいじるのをやめて空を向いてニッコリ微笑んだ。
「今日もいいお天気だね、木さん。」
リラは天然だ。あるとき、ミレイアにこの現場を見られたことがあった。
「リラって、そうやって声を掛けるけど、妖精とかなにか見えてるの?」
「…???全然。」
「……………。それ、人前でしない方がいいかもしれないわよ?」
「え。そう?ミレイアがそう言うなら…。」
〝私は普通じゃないのかな…。〟
リラは妖精や精霊が見えているわけじゃない。感じているわけでもない。ただ、そうしたいだけだった。
〝いいもん!私は私だもん!〟
そう言ってリラは原っぱに寝転がった。
ふふっ。こっそり笑う。こんな風に無邪気に振舞うのもあとどれだけ時間が許されるのだろうか…。
先が見えないからこそ、落ち込むよりも〝今を楽しもう!〟そう思えるリラだった。
あの日以来、リラは小さい子たちと協力して用事をこなしていく。
すると小さい子たちも段々と作業になれてきてくれたのでリラも随分、やりやすくなった。
「ふぅ~。」
用事で町へ出かけたときのこと。ちょっとだけ休憩をしていたらすれ違いざまに男性と身体がぶつかった。
「あ…。ごめんなさい!」
リラは咄嗟に謝ったが、相手は無反応だった。
〝貴族さまだったらどうしよう!!!〟
リラは怖くて顔を上げられなかった。
だが、そんなリラにその人物は寄りかかて来た。
「────え?!」
ドサッツ…。
ふわっと鼻をくすぐった血の匂い。
「まあ!大変!」
どうやらその人物は怪我をしているようだ。
リラはこの近くに、よく買い物に来たときに知り合いになったパン屋の夫婦が住んでいることを思い出した。そしてそこに男性を連れて行くことにした。
夫婦は気兼ねなくベッドに男性を寝かせた。
「いい身なりをしているようだね。」
「どこかのお貴族さまかもしれないな。」
「お二人もそう思いますか?」
リラは夫婦に尋ねた。
二人は静かに頷いた。
「こう言っちゃなんだが…、リラ、慎重に行動なさいな。」
「そうよ、お貴族さまに何かあったら責任を追及され兼ねないからね。」
「……………!ごめんなさい。お二人にもご迷惑をかけることに気付かなくて……………。」
リラは咄嗟に二人に謝罪した。
しかし二人はお互いに顔を見合わせてリラに言った。
「そういう意味じゃないよ。しっかり看病しなってことさ。」
その言葉を聞いて安心したリラは「はいっ!」と大きな声で返事をした。
「シーーーッツ!」
二人に一斉に諭されて〝ハッツ〟と自分の口を覆うリラだった。
その後、夫婦が言っていたように手当はリラが行った。いつも小さい子たちの傷を手当しているからだ。
「どうか、少しでも早く治りますように…。」
そう呟きながら手当をしていく。
ある日のこと、
リラがいつものように祈りながら手当をしていたとき、
ふと、男性が目を覚ました。
「……………。ここは…。」
「気が付いたんですね!よかった。」
「君は…。」
「通りがかりの者です。気がついたならよかったわ。それじゃあ、」
そう言ってリラはその部屋を出てパン屋の夫婦に男性のことを頼んで施設まで戻って行く。
〝なになになに?さっきのひと。すっごい綺麗なお顔。あれだけの気品、絶対高位貴族だわ。そんなひとと関りあいになったら大変!〟
〝なに?この心臓……………。すごくドキドキしてるの…。〟
顔を真っ赤にしながら駆けて行った。
パン屋の夫婦なら上手くやってくれるだろうが、リラは未成年で、貴族から何か言われても対応が出来ないから逃げてきた、というのが正直なところだ。それにあんな綺麗な男性を初めて見たリラは心臓がドキドキしすぎてもたないと思ったようだ。
後日、買い物に出たときにパン屋の夫婦にはお礼を言ってその後の話を聞いてみた。
男性は2日ほどパン屋の夫婦のところでお世話になったが、その後は回復してお礼だと金貨数枚を置いて消えたとのことだった。
「リラちゃん、あれはきっと訳アリだよ。あんたも忘れな。」
「うん、わかった。ミカおばちゃん。」
パン屋のおかみはリラを可愛がっていた。彼女から見ても彼は高位貴族だと思ったのだろう。
そしてすっかり色んなことを忘れるくらい月日が過ぎて、リラも16歳になった。
明日は聖女テストの日だ。
リラはドキドキして中々眠れずにいた。
〝明日で私の今後が決まるのね…。明日、ミレイアも来るかなぁ…。〟
緊張の中に久しぶりにミレイアに会えると思うと楽しみで、やっぱり眠れないリラだった。
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