第7話:苦手だったあなたへ
あの日以来、ルーラはご機嫌だった。
いつも小さい子にすら文句を言っていた子なのに、
「あら、気にしてないわよ?」
と、きたものだ。どれだけ鑑定結果に喜んでいるのかが見て取れる。
「みなさんとも間もなくお別れだなんて、寂しいわぁ~~。私はこれから教会でお世話になるんだもの。ふふふ~。」
あまりにも露骨な態度に
「ルーラってば、もう自分が〝聖女さま〟になったつもりなのかしら…。」
そういう声も出て来た。
あっという間の一週間が過ぎようとした────
同じ年ごろの子がルーラしかいないのに、そのルーラが出て行くとなるとリラ一人で作業をしなくてはならない。
「んしょ、んしょ…。」
リラはいつもは二人で運ぶ洗濯物も一人で運ばなければならないので量を減らして何度も往復することを選んだ。
「んしょ、んしょ…。」
リラが重い洗濯籠を運んでいるとき、女の子の足が視線の先に見えた。
「────!ルーラ!」
そこに立っていたのはルーラだった。
ルーラはリラを手伝うわけでもなく、ただジッと見ていた。
「……………?な、なに?」
リラはおどおどとルーラに聞いた。
ルーラは大きく息を吐いて、リラの籠の片方に手を伸ばして持った。
何も言わず、そのまま黙ってルーラは洗濯籠を運んでくれた。
「ありがとっ、ルーラ!」
リラはいつものように屈託のない笑顔で言った。
ルーラは自分が聖女として素質があると言われて喜んでいたが、今のリラを見ていると、そんな自分が恥ずかしく思えた。
「はぁ、なんであんたにミレイアがあそこまで構うのかがわかった気がするわ…。」
ルーラはため息を吐いて言った。
「…?どういうこと?」
「あんたって、本当に色んな意味で鈍感ね。」
「────!」
リラは驚いていた。面と向かって〝鈍感〟と言われたのは初めてだからだ、
「これから私もいなくなるんだし、あんた一人で毎日この量をこなすつもり?」
「え…、うん、そうだけど?」
あっけらかんと答えるリラに呆れながらも
「あのね、こういうことは絶対に二人じゃなきゃいけないことないの!だから、小さい子だったら二人で一人分だって考えなくちゃ!」
「二人で一人分?」
「つまり!小さい子二人とあんたでしたらいいってことよ。わかった?ちょっと考えなさい!」
「おおー。」
ルーラは空いた口が塞がらなかった。
「あんたがそこまでおバカさんだと思わなかったわ…。」
「え…、だって。私が頑張ればいいだけでしょ?」
ルーラはリラの顔を見た。
彼女からは〝人を頼る、人を使う〟という考えがなようだった。本心でそう思っているのだろう。
「んー、リラ?それは美徳であるけど、全てじゃないわ。出来ないことはちゃんと出来ない、助けて、手伝ってって言うことは悪いことじゃないのよ?」
「え。でも…。」
お人よしなのか、天然なのか…。ルーラは自分まで去ったあとのリラのことが心配になってきた。
「あのね、リラ。じゃあ、逆に考えて。」
「逆?」
ルーラはそっと頷いた。
「私があなたのように無理をしていたら、あなたはどう思う?」
「それはっ、手伝おうって思う。」
「うん、そう。きっと小さいながらもあの子たちはあなたを手伝いたいって思ってるはずよ?ね?みんな。」
ルーラがそう言うと少し離れたところから何人かぞろぞろと出て来た。
「そうだよ、リラおねえちゃん。ひとりでがんばるの、だめ。」
「うん、僕らも手伝える!」
「私達だって、そうだよ。みんなでやろう!」
小さい子たちが自分のために必死に語り掛けてくれるのを見てリラは胸が震えた。
「…みんな…。」
ルーラはそんなリラの横顔を見てフッと小さく笑った。そしてそっと姿を消していた。
〝リラ。私は昔からあんたが苦手だった。なぜだかわかったのは最近だけど、あんた、立派な金髪じゃないくせにいつだって光り輝いているんだもの、悔しかったのよ。私は教会へ行って聖女になる。あんたはこの先、どうなるかはわからないけど、強く生きなさい。〟
ルーラは心の中でリラに別れを告げた。
教会から迎えがくるのは明後日だが、ルーラは見送られるのが苦手で、荷物だけあとで送って自分だけ先に行こうと決めていた。
だが、気掛かりだったのは要領の悪いリラのことだった。
苦手で、どちらかというと好きじゃない、どんくさい女の子。憧れのミレイアには相手にされないのに、リラにだけ特別視するから余計にリラに対していい気持ちをしていなかった。
だが、これでもう会うことがないと思うと、何故か胸が痛んだのだ。
〝ははっ、これが寂しいってことなのかな…。〟
ルーラはその日、誰にも告げずに10年過ごしてきた施設を後にした────。
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