第4話:なにものでもない、ただのミレイア
ミレイアの瞳には強い意志を感じた。
「ミレ…。」「リラ!」
ミレイアの名前を呼びそうになったとき、ミレイアはリラの名前を呼ぶことで遮られてしまった。
二人は応接間を出て無言のままミレイアの部屋まで戻る。
部屋の扉を〝パタン〟と閉めた途端、リラがミレイアに向かって言った。
「ミレイア、わざとでしょ?」
そんなリラに対してミレイアは冷静に答えた。
「なんのこと?」
「とぼけてもわかってる!あのひと、ちょっと雰囲気違う!」
「────リラ。」
興奮するリラを落ち着かせるように、ミレイアはリラの方を向いて抱きしめた。
「あのね、よく聞いて。今回は最初から私に話が来てたの。もし断ったらあなたを確実に出すって施設長が言っていたのを私、聞いてしまったの。あなたに貴族なんて似合わないわ。ここで自由に生きて欲しい。」
リラを抱きしめるミレイアの肩は小刻みに震えていた。
「……………ミレイア…。」
リラはミレイアが自分のために決断したのだということを思うと胸が張り裂けそうになった。ミレイアを抱きしめるリラの手も…、震えていた。
「わたしっ、わたし…。」
リラの瞳からは涙が溢れ、止まらなかった。
「いいのよ、リラ。生きていればきっとまた会えるわ。」
「ミ…レイ…ア…。」
ミレイアは微笑みリラを見つめた。
「ほら、私って期待されてるでしょ?だから絶対に大聖女になってあの貴族の元を離れてやるんだから!だからきっと無下には扱わないでしょ?ふふっ。」
「ミレイア…。」
「ねぇ、リラがもし、あの貴族の元に行ったら…、きっと容赦なく扱われる気がするの。だから、私はこれが一番だと思うのよ。ね?」
「……………っ、ミレイア…!」
二人はきつくお互いを抱きしめた。
コンコンコン!
ノックする音で二人は落ち着きを取り戻した。目をこすり、涙を拭って、
「どうぞ、」
ミレイアが返事をした。
入ってきたのはルーラだった。
「施設長に言われて手伝いに来たんだけど…って、まだ何もやってないじゃない?!」
ルーラは綺麗な金髪をポニーテールにして束ねており、部屋の中を見たときに驚いた拍子に髪の束が揺れた。
「もう、何やってたのよ?!ほら、さっさと荷物出して!まとめるから!」
ルーラはリラたちよりも一つ上だ。ずっと貴族の元に養子になりたいと思っていたようで今回のことでリラやミレイアにはいいように思っていないようで口調がキツイ。
「ほら、早く!」
ミレイアと負けず劣らずな容姿を持つルーラは怒ると迫力が増す。だが、ミレイアはそんなルーラを相手にもせずに冷静に告げる。
「大丈夫よ。私達だけで。」
だが、現状何も用意出来ていないからそれは通らなかった。
「何言ってるの?!出来てないじゃない!あまりにも遅いから私が手伝いに行けって、施設長が言ったんだからね?わかってるの?」
「ねえ、ルーラ。そこまで言わなくたって…。」
リラも口を出してみたが
「は?言うわよ。事実でしょ!」
そう言われて確かに何も準備が出来ていないからリラはそれ以上言えなかった。
ミレイアは服を何着かベッドの上にパッツ、パッツと置き、リラには引き出しの中のものを机の上に出すように頼んだ。まるでルーラがそこにいないかのように振舞うミレイア。
「ちょっと、あんたねぇ、最後のときまで私を無視する気?!」
ミレイアの態度にルーラは不満をぶつけた。
ミレイアの手が止まり、ルーラを見る。
「最後のとき?…ふっ、あんた私がここに来たときに何て言ったの?覚えてないの?」
ルーラは怪訝な顔をした。この様子だと覚えていないのだろう。
ミレイアは〝フッ〟と鼻で笑って
「元お貴族さま!って呼んだのよ!」
ルーラはそれでも言い訳を始める。
「そんなの昔のことじゃない。私もまだ小さかったんだし…。」
「小さかったら何を言ってもいいの?あれ以来、あんたは私に謝ったことなどなかった。私は立場も環境も変わって大変だったのに…。」
「そんなの、知らないわよ…。」
「そうよね、だけど、リラは違ったわ。」
「は?そんなの関係ないでしょ?」
自分は小さかったからということを盾にしてルーラは一歩も引かない。二人のやり取りを見てハラハラするリラ。
「ね…ねえ、ふたりとも。喧嘩はよくないよ?やめて…。」
リラの声は二人には届かない。
「あの頃の私はみんなが腫物に触るように接してきたの、リラだけ。リラだけは私を〝なにものでもないただのミレイア〟として接してくれたのよ!」
リラは目を見開いた。
自分にとってはただ普通に当たり前のことだったのに、それがミレイアを救っていたこと、どうしてミレイアが自分だけに心を開いているのかを、この時初めて知った。
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