第17話:2人の秘密の特訓、ミレイアに広がる不安
あの日、確かに光った指先─────。
リラは掃除の途中で自分の指をジッと見ていた。今は他のみんなは聖女見習いの講義を受けている。今もリラは課外授業以外はこうして聖女見習いの部屋を掃除させられているのだ。
〝確かにあのとき、光ったのに…。〟
リラは心の中で呟いた。
そう、あれから一度も光らないのだ。教会の講堂でも礼拝堂でも、一度も光らなかった。他の聖女候補、特にリラを目の敵にしているララは、「まぐれ」だと言って何かとリラに突っかかってくる。
神官見習いのリアーナでさえ、「たまたま」だとか、「偶然」だとか言ってまともに取り合ってくれない。
序列の厳しいここでは明らかにリラは最下位だ。もはやランクにも参加出来ていないだろう。
「はぁーーーーーっつ。」
リラは大きく、長く、息を吐いた。
そして窓から空を眺めた。今日もいいお天気だ。
「空さん…。私はいつまでも出来損ないなポンコツなんだって…。」
すると〝ふわり〟と風がリラの近くで舞った。
「風さん。…慰めてくれてるの?」
リラはそう言って少しだけ笑った。
「わたしにはみんながいるから平気よ。」
そう言ってリラは微笑んだ。風がリラの頬を撫でて空へと帰って行った。
「よし!こんな凹んでらんないもん、やるぞ!」
リラは気合を入れて掃除を続けた。
リラが掃除をしたあとの部屋はどこか綺麗に見える。
その夜、ミレイアはこんなことを言った。
「そう言えば…。今、この部屋の掃除ってリラが?」
「うん、そうだよ。」
リラは笑って答えた。
「……………。何だか、講義から戻ってこの部屋にきたら身体がふわりと軽くなる気がするのよね。」
「そうなの?」
「うん…。ちょっと嫌なことがあったってすぐに気持ちの切り替えが出来るし…。不思議だなって思っていたのよ。」
「ふぅ~ん、部屋が綺麗になったからかなぁ?」
「確かにあんたが掃除すると他の人と違ってやたら綺麗なんだよね…。」
「そうなの?それは嬉しいっ!」
「もう、リラってば。あんた聖女候補なんだから、もっとこう…っ。」
そう言いかけてミレイアは言葉に詰まった。これはリラだけの問題ではない。ここの制度の問題だ。明らかにおかしな序列。そのせいでリラは不当な扱いを受けているのだろう。
「悔しいわね…。」
ミレイアは表情を曇らせた。
リラはそんなミレイアを見て、少しだけ嬉しくなった。
「ミレイア。私、ミレイアがそう言ってくれて、思ってくれてるだけで本当に充分なのよ。」
「リラ…。ごめん、あんたのために何かしてあげたいのに…。」
リラは首を横に振って笑った。
「私はミレイアがそうだから大好きだよ。」
「──────────!」
ミレイアは真っ赤にして
「もう、リラってば…。」
そう言ってははにかむように笑った。
「そう言えば、あれから集中力の訓練は?」
「続けてるのだけどね、全然なのよ…。本当にあのとき光ったのかなぁって思うくらい。」
「確かに光っていたわよ。それも誰よりも強く、長く。」
「そうなの?」
「ええ、あなたはそれどころじゃなかったかもしれないけど、いつもあれを出せたらきっと序列がひっくり返るわね!」
そう言ってミレイアは笑った。
「私は序列なんて気にしないわよ?それよりも早く誰かの役に立ちたいんだもん。」
「ほんと、リラらしいわね。欲がないのよね、あなたは。」
リラは首を傾げた。
みんなが幸せであったらどんなに幸せだろうか、リラはそう考えているからだ。そしてそれはリラにとっては当たり前なことだから。
「さあ、もっと訓練を続けましょう。何かのきっかけでちゃんと使えるようにきっとなるからね。」
「そうだね、頑張るよ、私。」
リラは協力してくれるミレイアがいるからこそ、辛い訓練も乗り越えられる。そう思った。
一方、ミレイアはこの前見たリラの力が怖かった。
〝筆頭聖女候補だなんて言われているけど、もしあのときのリラの力が本物なら、私なんて足元にも及ばないわ…。〟
ミレイアは人一倍努力してきた。だからこそ、リラが怖くて堪らないのだ。本当は大好きなリラ。そんなリラをライバルとして見なくてはいけない…。
その不安は、胸に落ちた一滴のインクのように静かに広がっていった。
〝リラ……。わたし……、〟
ミレイアは明るく微笑むリラを見ながら〝チクン〟と胸が傷んだ…。
そんなミレイアを見ていたリラは不思議そうに首を傾げていた。
〝ミレイア…、元気ないわ…。〟
リラはそっとミレイアに近付いて
ギュッとミレイアを抱きしめた。
なんてことのない、リラの行動がミレイアの心をホッとさせた。
〝リラ…。お願いだから、そのままのリラでいて。〟
二人はギュッと抱きしめてお互いを大切な存在だと改めて認識した。
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