第15話:たった一人の理解者
その日以降、リラは夜にこっそりミレイアと会う約束をした。
ミレイアは上級聖女候補であり、貴族のため、個室が与えられていた。
隣の部屋に付き人兼見習い聖女の部屋がある。つまりララがその部屋にいる。そしてララと同室の子がミレイアと同じレベルの子の付き人になる。
隣の部屋にララがいるからリラは見つからないように、そ~っと、そ~っと歩いてくるのだ。
「リラ?あなた靴をわざわざ脱いできたの?」
そう、リラは靴で足音が響くということを理解していたので、脱いでやってきたのだ。部屋に入った途端、そのことに気付くのは流石ミレイアだ。
そういうことを何度も繰り返していくうちに、ミレイアはリラが来る頃に、桶にお湯を用意していた。
「さあ、ここに足入れて。洗ってあげるわ。」
ミレイアはそう言うが、リラは首を大きく横に振って、
「じ、自分で出来るからっ。」
そう言って足を洗っていた。
「気にしないのに…。」
ミレイアは小さく息を吐いたが、リラにとっては例え親友であっても今は彼女は貴族にったし、ここでは上級聖女候補なのだ。どうしても身分が頭に過る…。
「ここで二人っきりのときは、昔のわたしだと思って接してほしいわ。」
ミレイアはそう言う。だが、リラは頷かずにただ、口角を上げて笑うだけ。
「…………………………。」
ミレイアはそんなリラの顔を見て、再び、今度は大きな息を吐いた。
「そうよね、あなたの立場なら、そういうわけにもいかないものね。それに咄嗟の時に態度に出たら困るのはリラね。仕方ないわ。」
そう言ってミレイアはニッコリと笑った。それを見てリラは安心した。
「さあ、集中力を高めるための訓練を始めましょう。」
ミレイアは容赦なく言った。
それはリラのためを思ってのことだと、リラ自身もわかっているからこうして毎晩やってくるのだ。
リラは大きく頷いた。
こうして二人で特訓を行う日々が続いた。
それでも中々リラの聖力はすぐに効果を出さない。
ミレイアが見本を見せる。
スッと右手の人差し指を立てて、ミレイアはその指先に集中する。
小さく、静かに 息を吸う。
そして指先がほんのりと光を帯びてきた。
〝……………ポワッ……〟
綺麗な銀色だ。
〝ミレイアは銀色の光を放つのね……………。私もミレイアのようになりたい…!〟
リラは小さな胸の中で静かに灯りを灯した…。
ミレイアに見惚れていたリラ。ふっと集中を緩めてミレイアがリラに向かって言った。
「さあ、やってみて。」
きっとミレイアにとっては簡単なことなのだろう、が、リラはここ数日頑張ったけど効果が出ずに気持ちが沈んでいくばかりだった。リラの視線が落ちた…。
ミレイアはそのことに気付いて、リラの手を取って
「わたしは信じているわ。リラ。あなたはいつも努力してきた。」
そう言ってリラの瞳をじっと見つめた。
〝ずっとそばにいてくれたミレイアが言うのだから、もしかしたらいけるかも…。〟
リラはどこから湧いてきたのかわからない自信に満ちていた。
スッと右手の人差し指を立てて、深呼吸をして、指先を見て集中した。
ミレイアも息をするのを忘れるくらいに、じっとリラを見守っている。
〝…………………………………………………………………。〟
カチ、コチ、カチ、コチ、カチ、コチ………………………………………………
ミレイアの部屋はただ、時計の針が進む音だけが響いていた。
だが、リラの指先はほんの少しの光すら出ない。
リラの手が震えている…。
ミレイアは咄嗟にリラの手の上に自分の手を重ねて
「いいの、ゆっくりでいいのよ。」
そう言って、そして、リラを抱きしめた─────。
「う…ん、」
リラは小さく返事をした。
〝今度こそ出来そうな気がしたのにな。おかしいな…。やっぱり私には聖女は無理なんだわ…。〟
リラは小さな胸が張り裂けそうになるくらい、震えていた。ミレイアは黙ってリラを抱きしめている。
そんな夜をいくつか越えて、今日はミレイアたち、聖女候補生は神殿の外へと出向いて行く。
先輩聖女について行き聖力の使い方を学ぶのだ。まだ扱いに不安定な候補生たちが失敗しても周りに被害がない場所だからだ。
課外授業。それは全員参加。だからリラも今回は一緒に出ていく。
だが、ペアを組む相手がいない。
「あ、あの…。私の指導者がいなくて…。」
リラは震える声でリアーナ神官見習いに声をかけた。
リアーナはふっとリラを見てから聞こえなかったようなふりをした。あまりにも露骨だ。
「神官見習いさま。」
声を掛けたのはミレイアだった。
「どうしましたか。上級見習い生ミレイア。」
─────ピクッツ。
ミレイアは神官見習いのその言い方に棘を感じた。
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