第13話:信頼した分、傷つく
リラは必死に掃除をしていた。箒で掃いて、そのあとは拭き掃除で床を磨き上げる。
上位見習いの部屋から順番にこなしていくのだ。
〝さっさとしなくちゃ、誰かきたらまた邪魔されるかもしれない…。それだけは嫌だもの。〟
リラはひたすら無言で床を磨きあげた。
そして次の部屋へと移動していく。
お昼の時間が来てもリラは気付ずに掃除をしていた。
心配したリアーナがリラを探しに来たようで、部屋でリラを見て驚いたように言う。
「ちょっと、あんた、ご飯も食べないで何してるの?!」
リラにそう言ったあと、ふと、部屋の様子がリアーナの目に留まった。
「ん?……これ、本当にあんた一人でしたの?」
リアーナの問にリラは落ち着いて答える。
「……?そうですけど…?」
どうしてリアーナが不思議そうに言うのかリラはわからなかった。
「だって…、これ、どう見たってひとりじゃ無理でしょ?こんな…、」
明らかに動揺しているリアーナ。
でもリラはキョトンとしている。
「こんなに綺麗に出来るわけないじゃないのーっ!」
リラは驚いた。そんなにびっくりするほど綺麗になったのかしら?そう思って顔を上げて部屋中を見回した。
「……あ、れ…?」
どこもかしこも光輝いてすら見える。リラは自分の目をこすって、もう一度部屋を見た。
〝……………変わらない…。〟
そしてさっきどうしても落としきれなかったところを見た。
「……消えてる…。」
〝ここだけはどうしても頑固な汚れがあって取れなかったはず…。どうして?〟
リラは不思議に思った。
だが、すぐにリアーナは大きな息を吐いて、
「あんたにこんな能力があったとしても、何の役にも立たないものね。」
そう言った。
リラはガッカリした。
この人は他の人とは違うと思っていた分、胸がズキンと痛んだ。
「聖女はやっぱり聖力を使って治療を行うのが基本なの。あとは瘴気を浄化したり…。これはただの汚れ落とし…。やっぱり聖女には程遠いようね。残念だわ。」
そう言ったリアーナの顔が醜いものでも見るかのような表情をした。
「──────────!!」
リラは眉をしかめた。動揺のしすぎで目が泳いでいる…。
〝ダメだ…。ここで泣いたりしたって意味ないもの。余計に邪魔者扱いされるだけだもの…。でも、でも…。〟
リラは胸が苦しくなって息が詰まりそうな感覚に襲われた。だが、グッと我慢をした。
「それで?ご飯はもういらないの?」
リアーナはリラに素っ気なく聴いた。
リラは俯いたまま静かに首を横に振った。
「……………あっそ。じゃ、残り全部仕上げてしまいなさい。」
リアーナはそう言って戻って行った。
彼女が部屋を出た瞬間、床にポタッツ、ポタッツ…と、涙が零れ落ちた。
「……………ふっ。ダメよリラ。こんなの、慣れてるじゃないの…。」
リラは小さな声で自分を戒める。
──────慣れていたはずだった。
だが、いっときでも彼女を信頼しかけていた。それがいけなかった。
「……………ふっ、ぅぅっ、慣れてても、それでも、どうしても…、信頼してしまうの…。」
リラは思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
〝今だけ…。誰も来ない、今だけ…。〟
リラは泣きじゃくった。
パサパサパサ…。
どこからか小鳥がやってきた。
そしてリラの頭の上に止まった。
「キャッ、な。なに…?」
泣いていたリラも流石に驚いて涙が止まった。
「ピー。ピー。」
リラの頭の上で小鳥が鳴く…。
「え?嘘っ、小鳥??」
リラが自分の頭を触ろうとしたが、頭の上で小鳥はリラの手から上手く逃れる。
「え、この鳥さん、どうしてそんなに器用なの?やだ、私と変わってよ…。」
と、無茶なことを言っている。
「ククク…。」
小鳥はまるで笑っているかのような鳴き方をする。
「え?やだもうぅ~~。わたし、ひょっとして馬鹿にされてるの?」
リラはもうすっかり泣いていたことすら忘れて、今は頭の上にいる鳥をどうにかしようと必死になっていた。
すると─────
バサバサッツ…。
小鳥はリラの頭から飛び立って、テーブルの上にチョコンと止まる。
「もう、あなたね!」
リラは怒りながらも、何だかおかしくて
「ふっ、ふふふっ。」
笑いだした。
ひたすら笑っていた。
小鳥はそんなリラをじっと見ているかのようだった。
そしてバサバサッと再び窓の外へと出て行ってしまった。
「─────あ。小鳥さんっ!」
リラは思わず手を伸ばしていたが、小鳥は神殿の敷地内の緑豊かな場所へと飛び立っていってしまった。
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