第11話:居場所のない聖女候補
リラは名前が違う事に気付かないまま、洗礼式に挑むことになる。
神官長がリラの前に来て、カップに手を入れる。
────チャポン…。
そしてリラの頭にその雫をポタポタポタ…と垂らす。
リラは頭を下げて俯いたまま、黙って目を閉じていた。
神官長は次々と同じようにしてカップの聖水を聖女候補達にかけていく。
そして儀式が終わり、カップを回収する時に、担当はリラを知る文字の読める子だった。
「………?」
リラのカップを回収するとき、彼女はリラの前で黙ってしまった…。
そして直ぐに気付いた────!
「────────名前が違う!」
彼女は思わず声に出して叫んでしまった。
その声を聞き、辺りは騒然とした。
「何故名前を確認するように言われたのにしていないのだ?」と言う者から「これは聖女候補が減ってしまったな」と言うもの、それから「ではその名前の者はどうなってるんだ?」と言う者、色々だった。
リラはそれらの声を聞いて何が起こっているのか理解した。
〝違う名前の聖水で洗礼を受けてしまった。〟
すぐさま神官長の指示で他の人のカップの名前も確認された。
「────神官長!ここにっ、ここにリラと書いたカップがあります!」
誰かが叫んでいた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ────っ!!」
その人の前にいる聖女候補は衝撃のあまり泣き出してしまい、その場に蹲ってしまった。
「ララッ!」
彼女のそばにいた友人らしき人物が彼女に近付いてそう呼んでいた。
どうやらその人物も自分の名前が読めなかったようた。
ひたすら泣き叫んだかと思うと今度はリラに向かって睨みつけてきた。
「あんたのせいよ!あんたが候補になったから…!あんなちっちゃな光のせいで…っ!私が、私がもう…っ!!」
彼女は肩を震わせてリラに向かって叫んだ。
リラは衝撃のあまり、動けずに、ただ、その言葉を聞いているほかなかった。
一連の様子を見ていてミレイアは疑問をもった。
〝カップを手渡す時、名前の確認をしているはずなのに…おかしいわね…。〟
神官長はこの場の騒ぎを抑えるために
「二人とも変わらず神殿へ迎え入れよう。間違った聖水を使った場合でも、力のある者は1年以内に戻ると言われている。だから気にしないように。」
彼の言葉でようやくララは落ち着いた。
しかしリラは気が気じゃない。
〝私のせいで…?〟
自分と間違えられた彼女を不憫に思った。リラは自分が間違われても仕方ないと思っていたからだ。
それだけ、〝この髪色〟は異質で「排除」したいと思う人間が多かったのだろう。
〝でも、何とかなって良かったわ…。〟
自分の心配よりも他人を優先するリラ。
〝これこら神殿での生活が待っているのね…。〟
リラは緊張した。綺麗な金髪ばかりの中、淡いクリーム色の髪の自分がどれだけ異質なのかは自分が一番よく分かっていたからだ。
〝あ…。私、選ばれると思ってなかったから入室の準備をしていなかったわ…。〟
リラは心配した。だが、神官長から説明があり、それを聞いて安心した。
「候補生の方は、生活必需品はこちらで用意します。持って来て頂いたものは別室にてお預かりします。」
つまり、リラの行動で充分だった。自分で準備してきた者は神殿預かりという名の“没収”だ。
各自部屋へと案内される。聖女候補にもランク分けがあり、上位者には上位者同士の部屋組みで下位であるリラはこの中で一番下のランクのようだ。
一般的の下位ランクと言われている聖女見習いからもクスクスと笑われていた。
〝いつものことだもの…。気にしない、気にしない。〟
リラは平然としていた。
その様子を見た笑っていた者たちは面白くない。
上位ランクの聖女候補たちには身の回りの世話をする下位ランクの聖女候補たちが付く。それは上位ランクについて、修行をするような意味があるからだ。
だが、リラは誰の元にもつけなかった。
「あの、私のお仕えする方がいないのですが…。」
リラはおずおずとしながら、神官長に尋ねた。
神官長は煩わしそうにリラの顔をジッと見てから大きく息を吐いて
「お前は自力で何とかしなさい。どうせあのとき光ったのは偶然であろう。その上、聖水も間違って受けたのだから、ほとんど見込みがないのだ。そんな者がわざわざ誰かについてどうするのだ?その分、下働きの手伝いでもしていなさい。」
〝─────下働き…。〟
リラは衝撃を受けた。
ここで〝聖女見習い〟として過ごすものだとばかり思っていたからだ。
「なんだ?不服か。だったら、今すぐにでも市井へ行ってもらうが?」
神官長はそう言ったが、そば仕えの者が口出しをした。
「神官長さま。それでは陛下からの指示に反することになります。」
そう。1年は神殿預かりなのだ。1年の間に力が戻って変化が訪れたらその時は「正式な聖女候補」として扱うことになるからだ。
「はぁ──────────、」
神官長は長く息を吐いた。
「仕方ない。陛下のご命令だったな。一年やる。その間に自力で存在意義を証明してみせよ。下働きをしながらな。」
そう言って、リラは返事をしようがしまいが、関係なく神官長は部屋を出た。
翌日からは下位ランクの者たちによるリラ虐めが始まる。




