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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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後日談2 竜医のおばばは知っている



 屋敷の前庭が、いきなり狭くなった。


 風が落ち、羽音が止まり、

 次の瞬間には――


 でかい。


 とにかく、でかい。


 白銀でも金でもない、深い藍色の鱗。

 背中には年季の入った傷跡。

 尾の先は少し欠けている。


 竜医のおばばだった。


 着地と同時に、地面が「どん」と鳴る。

 屋敷がきしむ。


『……うるさい屋敷じゃの』


 第一声がそれだった。


 妖精たちが一斉に頭を下げる。


『お、お待ちしておりました!!』

『至急の診察を……!!』


 おばばは翼を一度畳み、首だけを屋敷の中へ突っ込んだ。


『どれ』


 視線が、一直線にアルシェへ向く。


 アルシェは、完全に固まっていた。


『……』


 尾が、わずかに揺れている。

 緊張している証拠だ。


 アランは一歩前に出て、短く言った。


「人化できません」


『見りゃ分かるわ』


 ばっさりだった。


『で、いつからじゃ』


「今朝です」


『ふむ』


 おばばは、ずいっと距離を詰める。

 圧が強い。

 若竜なら即座に伏せる距離だ。


 アルシェの鼻先に、自分の額を軽く当てる。


『……ほう』


 次に、腹の辺りを見る。


 その瞬間。


 おばばの目が、きらりと光った。


『……はぁ?』


 妖精たちがざわつく。


『え』

『は、はぁ?』


 アルシェが、恐る恐る聞いた。


『……なに』


 おばばは、じっと腹を見てから、ゆっくり言った。


『おぬし、いつから重くなった』


『……?』


 アルシェは混乱したまま答える。


『重くない』


『重いわ』


 おばばは、断言した。


『中におる』


 屋敷が、一瞬で静まり返った。


 アランが眉を寄せる。


「……中?」


 おばばが、鼻で笑った。


『卵じゃ』


 ――ずこっ。


 妖精たちが、物理的に転びかけた。


『た、卵!?』

『え!?』

『今、卵と……!?』


 アルシェが、完全にフリーズした。


『……』


 尾が止まった。

 翼も動かない。


 アランは、数秒遅れて理解した。


「……あ」


『遅いのう』


 おばばが即ツッコミを入れる。


『そりゃ人化できんわ』


『……』


 アルシェの声が、震えた。


『……私』


『孕んどる』


『……』


『しかも、順調じゃ』


 その一言で、妖精たちが爆発した。


『おめでとうございます!?』

『え、え、え!?』

『え!?!?』


 屋敷中が騒然となる。


 アルシェは、ゆっくりアランを見た。


『……だから?』


 おばばが、あっさり言う。


『だから人型に戻れん』


『……なぜ』


『身体が卵を優先しとる』


 アルシェは、完全に思考が追いついていない顔だった。


『……私壊れてない?』


『壊れておらん』


『……死なない?』


『死なぬ』


『……』


 そして、ぽつり。


『……怖かった』


 その一言で、アランは全部を察した。


 アランは、竜の額に手を伸ばした。


「……大丈夫だ」


『……』


「ちゃんと、生きてる」


『……うん』


 おばばが、ふんと鼻を鳴らす。


『番が落ち着いておるなら問題ない』


 アランが顔を上げる。

 妖精たちが、こそこそ頷く。


 アルシェが、小さく聞いた。


『……私、おめでた?』


 おばばは一瞬きょとんとしてから、豪快に笑った。


『馬鹿者』


 尾で地面を叩く。


『竜が番を作って、十五年で卵ができた。早いくらいじゃ。喜べばよかろ』


 その言葉に、アルシェの目が見開かれた。


『……早い?』


『早い』


 断言だった。


 アランが、乾いた笑いを漏らす。


「……竜基準、怖いな」


『慣れとるじゃろ』


「まあ……」


 アルシェは、しばらく黙ってから、そっと腹に視線を落とした。


 自分でも、まだ実感がない様子だ。


『……動かない』


『まだじゃ』


 おばばが即答する。


『もう少ししたら、分かる』


 アルシェが、小さく息を吐いた。


『……だから、人になれなかった』


『そういうことじゃ。そもそも人型で過ごすやつの方が竜は珍しいわ』


 アランは、ゆっくり言った。


「……初めてならパニックになるなって方が無理だな」


 アルシェが、小さく頷く。


『……知らなかった』


「俺も今知った」


『……一緒』


「一緒だな」


 おばばは、満足そうに翼を広げた。


『よし』


『屋敷は使える』

『番は慣れとる』

『妖精も優秀』


 妖精たちが一斉に胸を張る。


『はい!!』


『当分、ここで大人しくしておれ』


 アルシェが、ようやく小さく笑った。


『……ここは安全』


 アランは、その横顔を見て言った。


「そうだな」


 竜は人になれなくなった。

 でも、失ったものは一つもない。


 むしろ――


 守るものが、増えただけだった。


読んでくださり、ありがとうございました。

もし少しでも楽しんでいただけましたら⭐︎やブクマで応援していただけると嬉しいです。


☆☆☆☆☆→★★★★★ (*_ _)人


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