表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/50

後日談1 竜が人になれない朝



 その朝は、いつも通りだった。


 窓から差し込む光。

 屋敷の静けさ。

 妖精たちの羽音。


 違ったのは――起き上がる音が、ひとつ多かったことだ。


 どん、と低く響く振動。


 アランは半分寝ぼけたまま、目を開けた。


「……?」


 天井が、やけに遠い。


 いや、違う。


 床が低い。


 正確には――視界の端に、白銀の鱗がある。


 アランは一拍置いて、ため息をついた。


「……おはよう、アルシェ」


 返事が、来ない。


 代わりに。


 どさっ、と羽が畳まれる音。

 尾が床を叩く、落ち着かない音。


 アランは上体を起こして、隣を見る。


 そこにいたのは、人間ではなかった。


 白銀の竜。

 屋敷の寝台に収まりきらず、半分床に落ちている。

 翼は畳まれているが、爪がわずかに立っている。


 ――緊張している。


 アランは、すぐに分かった。


「……人型に戻らないのか?」


 竜が、びくりとした。


 首が持ち上がり、金の瞳がこちらを見る。

 いつもの余裕が、ない。


『……戻れない』


 低い声。

 落ち着こうとして、失敗している声。

 大きさだけは調整して無理矢理屋敷に収まっているようだが、人化ができなくなっているようだった。


 アランは目を瞬かせた。


「戻れない?」


『できない』


「……?」


 アルシェは、翼を一度だけ広げて、すぐ畳んだ。

 狭い屋敷でそれをやると、壁が軋む。


『おかしい』


 その一言が、決定打だった。


 アルシェが「おかしい」と言う。


 それは、世界が多少歪んだ程度では出てこない言葉だ。


 アランは、ゆっくり息を吸って言った。


「……落ち着け」


『落ち着いてる』


「嘘つけ」


『……』


 竜は否定しなかった。


 ◇


 数分後。


 屋敷は、完全に騒がしくなっていた。


『戻れない!?』

『人化が!?』

『い、いつからですか!?』

『朝からです!?』


 妖精たちが、文字通り飛び回っている。


 タオルを持つ者。

 記録用の紙を広げる者。

 意味もなく走る者。


 アランは竜の前に立って、腕を組んだ。


「よし、一個ずつ行こう」


『……』


「まず、痛いところは」


『ない』


「熱は」


『いつも通り』


「息苦しいとか」


『ない』


「意識は」


『はっきりしてる』


 妖精の一人が叫ぶ。


『それなら大丈夫では!?』


 アルシェが、珍しく強い声を出した。


『大丈夫じゃない』


 妖精たちが、ぴたりと止まった。


 竜は、少しだけ首を下げる。


『……戻れないのは、困る』


 その言葉は、弱音だった。


 世界を焼ける竜が。

 神を昼寝でやり過ごす竜が。


 「困る」と言った。


 アランは一歩近づいて、竜の額に手を置いた。


「……理由、分かるか」


『分からない』


「最近、無茶は」


『してない』


「俺と一緒になって十五年だ。その間何もなかったんだぞ」


『……それは、長い』


「長いな」


 アランは一瞬だけ考えてから、妖精たちを見る。


「竜の里に連絡」


『はい!!』


『竜医ですね!?』


「多分な」


 アルシェが、ぴくりと反応した。


『……竜医』


「知ってる顔だろ」


『……おばば』


 その言い方に、アランは少し笑った。


「久しぶりだな」


 アルシェは、しばらく黙ってから、小さく言った。


『……怖い』


 その一言で、屋敷の空気が一段静かになった。


 妖精たちが、慌てて声を落とす。


『だ、大丈夫です!』

『すぐ来ます!』

『何かあっても……!』


 アランは、アルシェの額から手を離さずに言った。


「ほら俺がいるだろ」


 竜の瞳が、少しだけ揺れた。


『……うん』


 その返事は、いつもの即答じゃなかった。


 ◇


 屋敷の外で、風が鳴った。


 重い羽音。

 懐かしい圧。


 妖精の一人が、窓から顔を出して叫ぶ。


『来ました!』

『竜医のおばばです!!』


 アルシェが、思わず尾を動かした。


『……早い』


「竜の里基準だ」


 アランは、竜の額に軽く額を当てる。


「大丈夫だ」


『……』


「生きてる」


『……うん』


 不安を隠しきれない竜と、

 それを抱え込めるようになった男。


 十五年は、ちゃんと積もっていた。


読んでくださり、ありがとうございました。

もし少しでも楽しんでいただけましたら⭐︎やブクマで応援していただけると嬉しいです。


☆☆☆☆☆→★★★★★ (*_ _)人


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ