表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/50

40 帰宅



 帰路は、来た時ほど騒がしくなかった。


 アルシェは竜型のまま、谷の外れで一度だけ翼を広げる。

 風が巻き上がるが、若竜たちは追ってこない。

 送るだけで満足したらしい。


 アランは一歩、前に出た。


「……なあ」


『なに』


「帰りも、抱えるやつか」


 アルシェは一拍、考える。


『今日は、違う』


「……違う?」


 白銀の竜が、少しだけ首を下げた。


『立って』


 アランは眉を寄せながらも、言われた通り立つ。


 地面は安定している。

 風も強くない。


 アルシェの翼が、ゆっくりと影を落とした。


『跳ぶ』


「え」


『小さく』


「……昨日より急じゃない?」


『今日は、練習』


 アランは一瞬、胃に手を当ててから深呼吸した。


「……落とすなよ」


『落とさない』


「信用していいな?」


『見てる』


 その言葉で、十分だった。


 ◇


 アランは一歩、踏み出した。


 跳ぶ、というより――身体を前に預ける。


 その瞬間。


 足裏が、地面から離れた。


「……っ」


 浮いた、と思うより先に、風が背中を押した。

 下に落ちる感覚はない。

 横に“進む”だけだ。


 ほんの一拍。


 そして、着地。


 ぱし、と軽い音。


 アランは瞬きをした。


「……今」


『浮いた』


「……浮いたな」


『うん』


 アルシェの声が、少しだけ嬉しそうだった。


『怖かった?』


「……ちょっと」


『でも、逃げなかった』


「逃げたら余計落ちる」


『学んだ』


「犬みたいに言うな」


 でも、胸は変に静かだった。

 心臓はちゃんと動いている。


 もう一度、アルシェが翼を広げる。


『今度は、少し遠く』


「条件増えるの早くない?」


『帰るため』


「帰るためなら……まあ……」


 アランはもう一度、踏み出した。


 今度は、少しだけ長い。


 風が頬をなぞる。

 景色が、流れる。


 怖さより先に、変な感覚が来た。


(……あ、これ)


(落ちない)


 着地。


 今度は、音すらしない。


 アルシェが、ゆっくり頷いた。


『できた』


 アランは息を吐いた。


「……できたな」


 ◇


 そこから先は、アルシェが運んだ。


 でも、抱える位置が少し違う。

 “連れて行く”じゃなく、“一緒に進む”位置。


 アランはそれに文句を言わなかった。


 空は高く、風は穏やかで、胃は静かだった。


 ◇


 屋敷が見えたのは、空が少し傾き始めた頃だった。


 最初に見えたのは、灯り。


 次に、音。


 羽音。


 そして。


『――おかえりなさいませ!』


 妖精たちの声が、重なって飛んできた。


 アルシェが屋敷の前に降り立つ。

 人型に戻るのは、その後だ。


 アランが地面に足をつけた瞬間、妖精たちがわらわら集まってきた。


『ご無事で……!』

『汚れてませんか!?』

『お腹は!?』

『お疲れでは!?』


「ちょっと待て、一気に来るな」


 アランが言う前に、妖精の一人がぱっとタオルを広げた。


『座ってくださいませ!』


「え、今!?」


「今です!」


 別の妖精が水を差し出す。


『喉!』

『甘いのもあります!』

『胃に優しいやつです!』


 完璧だ。

 竜の里より扱いが丁寧だ。

 竜対応から人間対応になっただけなのだが。


 アランは思わず苦笑した。


「……ただいま」


 その一言で、妖精たちが一斉にほっと息を吐いた。


『おかえりなさいませ』

『本当に……』


 アルシェが少し離れたところで、その様子を見ている。


 介入しない。

 距離を保つ。


 でも、目は柔らかい。


 アランがそれに気づいて、小さく言った。


「……ちゃんと帰ってきたな」


 アルシェが頷く。


「うん」


 一拍置いて。


「帰る場所」


 妖精たちが、一斉に頷いた。


『はい!』

『ここです!』


 アランは背もたれに身を預けて、ようやく完全に息を吐いた。


 世界は静か。

 屋敷は安全。

 胃も今は味方だ。


 竜の里から戻ったばかりなのに。


 不思議と、ここが一番現実だった。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ