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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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28 竜の里へ 前編



 火山の縁で、風がふっと向きを変えた。


 硫黄の匂いじゃない。

 もっと冷たくて、古くて、誇り高い匂い。


 竜の里の匂い。


 アランはその言葉を脳内で反芻して、胃が嫌な予感で鳴るのを感じた。


「……竜の里ってさ」


『うん』


「“里”って言うけどさ」


『うん』


「絶対、里じゃないよな」


 白銀の竜が、堂々と胸を張った。


『里だよ』


「里の規模が違うって言ってんだよ!!」


『大きいの、好き?』


「質問が雑!」


『でも顔が赤い』


「火山のせいだ!!」


 竜は一拍置いて、のんびりした声で言った。


『じゃあ、火山じゃないところに行く』


 アランの胃が、安心と恐怖を同時に吐きそうになった。


「……移動って、まさか」


『飛ぶ』


「来た」


『恋人、落ちない』


「落ちるかどうかより、俺の精神が落ちる!」


 竜の巨大な翼が、ゆっくり開いた。


 風景が変わる。

 火山の熱気が一瞬だけ引っ張られて、雲海がざわりと割れる。


 あの翼は、山を覆える。

 覆える、って言葉が比喩じゃない。


 アランは無意識に一歩下がって、踏みとどまった。


(俺、さっき影の翼出したんだよな……?)

(この本体の前で?)

(正気か?)


 竜が首を下げる。


『触っていい?』


 許可。

 距離。

 竜がそれを守るたびに、胃が少しだけ落ち着くのが腹立つ。


「……いい」


 鼻先が、頬のあたりにそっと触れた。

 熱くない。冷たくない。

 圧だけが、ふわっとほどける。


『抱える』


「言い方が怖い!」


『落ちないため』


「落ちないための抱え方って何だよ!」


 次の瞬間、世界が“持ち上がる”感覚が来た。


 アランの体がふわりと浮く。

 竜の前足というより、胸元というより、よく分からないところに“安全に置かれる”


 巨体の中心に、ひとり分の居場所がある。


 アランは呼吸を止めた。


「……おい」


『なに』


「俺、今……運ばれてるよな」


『うん』


「……抱っこかこれ」


『抱っこ』


「即答するなぁぁぁ!!」


 竜が楽しそうに喉を鳴らす。

 火山がそれに釣られまたゴォ……と鳴る。


 その音が、遠ざかる。


 翼が一度、ゆっくりと動いた。


 ばさ、じゃない。

 世界の空気を一枚めくるみたいな動きだ。


 視界が変わる。

 雲海が足元に落ち、火口の赤が小さくなる。


 アランの胃が、いつもの調子で死にかけた。


「うわ……」


『怖い?』


「怖いっていうか……高い!」


『高いの、好き?』


「質問が雑って言ってんだろ!」


 でも、本当に落ちない。

 竜の“抱っこ”が、理不尽なくらい安定している。


 そして、妙なことが起きた。


 寒くない。


 上空は冷えるはずなのに、頬が痛くならない。

 息が白くならない。


 アランは瞬きをした。


「……あれ」


『気づいた』


「寒くない……俺、寒くない」


『進んでる』


「うわ、今それ言うな!」


『でも嬉しい』


「嬉しいな!!こっちは怖い!」


 竜の声が少しだけ柔らかくなる。


『恋人の怖いは、減らす』


 その言葉が、変に優しくて。

 アランは返せなかった。


 雲が頬を撫でていく。

 遠くで鳥の群れが見える。

 でも鳥の群れはすぐに、こっちを見て散った。


 竜が飛ぶ空は、鳥の道じゃない。


 アランは息を吐いた。


「……なあアルシェ」


『なに』


「このまま行くとさ……」


『うん』


「俺、竜の感覚に慣れちゃわない?」


『慣れる』


「即答すんな!」


『慣れたら、楽』


「楽って言うな! 俺の人生が軽くなる!」


『軽いの、好き?』


「質問が雑!」


『でも顔が』


「火山のせいだ!!」

 

 ◇


 少しして、景色の匂いが変わった。


 石の匂いじゃない。

 硫黄でもない。

 鉄と雪と、古い骨みたいな匂い。


 山が見える。

 山なのに、山じゃない。


 山が“竜の形”をしている。

 尾根が背骨みたいに連なり、谷が翼の折り目みたいに見える。


 アランは喉を鳴らした。


「……里じゃねぇ」


『里だよ』


「里の主張をやめろ!」


 山の奥で、光が動いた。


 銀じゃない。白でもない。

 黒い鱗に、青い光が走る。


 空に、もう一匹の竜が浮かんだ。


 でもアルシェと違う。

 圧が違う。

 威圧ではなく、統率の圧。


 “長”の匂い。


 その竜が、こちらに向かって飛んでくる。


 アランの胃が鳴った。


「……来たな」


『甥っ子』


「“かわいい甥っ子”ってやつか」


『うん』


「絶対やばいパターンだ」


 竜が近づくにつれて、空気が締まる。

 世界が“ここは竜の領域です”って札を出してくる。


 アルシェが低く言った。


『行儀よくする日』


「おまえの行儀は時間制だったな!」


『今日は一日』


「延長するな!!」


 黒い竜が、ゆっくりと輪を描いて近づいた。


 そして、距離を取って止まる。

 ちゃんと距離を取る。

 ……竜族の礼儀なのか、アルシェへの遠慮なのか分からない。


 黒い竜の声が、胸に響いた。


『……叔母上』


 男の声だ。

 若い。

 けど若いのに、古い。


『久しい』


『久しいね』


 アルシェの声が、竜のまま返る。


『アンフィス、元気?』


『元気だ。……それより』


 黒い竜の視線が、アランに刺さる。


『それは、何だ』


 アランは心の中で叫んだ。


(何だって言うな! 人間だよ! 今抱っこされてるけど!!)


 アルシェが誇らしげに言う。


『恋人』


 アランの胃が、今度こそ死んだ。


「やめろぉぉぉ!!」


 声が出た。

 出たのに風に消えない。


 黒い竜が一拍止まった。


『……恋人』


 復唱。

 確認の復唱。

 “公式に記録する”みたいな復唱。


 アランは顔を覆った。


「復唱するな……!」


 黒い竜の声が、少しだけ変な温度になる。


『叔母上』


『なに』


『……顔で選んだな』


 アランが叫ぶ。


「そこは分かるな!!」


 アルシェが堂々と答える。


『うん。顔がいい』


「言うな! 本人の前で!!」


 黒い竜が、ゆっくりと息を吐いた。

 たぶん笑ってる。


『叔母上が“顔がいい”と言うのは、相当だ』


「最悪の評価基準が公式になる!!」


 黒い竜が、アランをじっと見る。


『匂いが……少し変わっている』


 アランの背筋がぞわっとした。


『叔母上。魂を進めたのか』


『少し』


『……早い』


『恋人だから』


「そこに帰結させるな!!」


 黒い竜が、短く言った。


『見せびらかしに来たな』


『うん』


「認めるな!!」


 黒い竜が翼を少しだけ広げる。

 合図だ。招きだ。


『来い。里へ』

 


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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