12.5閑話 最強竜の面食いな理由
『……改めてお伺いしてもよろしいでしょうか、竜様?』
「なに?」
『なぜ、そこまで“良い顔”にこだわられるのですか』
「んー? 私が面食いな理由?」
『はい。竜族にも優秀で見目の良い若者はおりましたでしょう』
『……人型になれないことを除けば』
『甥っ子様など特に可愛がっておられますし』
「そうねぇ」
アルシェは雲に寝転び、両手を後頭部に回した。
「実はね、私。前世の記憶があるのよ」
『はい?』
妖精の羽音が一斉に乱れた。
「人間だった頃のやつ」
『……それは初耳ですが?!』
「言ってなかったっけ?」
『聞いていません! いえ、前世は聞いたことがありますが記憶までは……報告書にありません!!』
「まあ細かいことはいいのよ」
『よくないです!』
アルシェは軽く手を振る。
「でね。前世の私は“推し活”をしてたの」
『……おしかつ?』
「お気に入りを応援する活動よ」
『応援……信仰とは違うのですか?』
「似てるけど、もっと欲望に正直」
妖精は慎重に頷いた。
『なるほど……危険な文化ですね』
「そうとも言う」
アルシェは楽しそうに続ける。
「キャラクターとか、役者とか、スポーツ選手とか。とにかく“好き”な存在を全力で応援するの」
『……キャラクター?』
『……スポーツ……せんしゅ……?』
「あー、この世界にはない概念だったわね。気にしないで。“好きな存在”って理解でいいわ」
『はぁ……』
「ねえ」
アルシェは、ちらりと妖精たちを見る。
「あなたたち、世界神ゼウスの配下でしょう?」
『はい』
「でも本音では、神様の中で誰が一番好き?」
妖精たちは顔を見合わせ、正直に答えた。
『……妖精の間では、美の女神アディーテ様が一番人気です』
「でしょ?」
アルシェは、にこっと笑った。
「それが“推し”よ」
『……!』
「理屈じゃないの。好みなの。私はね、推しがたくさんいたわ。広く浅く」
『節操が……』
「でも共通点があった」
アルシェは指を立てる。
「顔が良いこと」
『……』
「ビジュが優勝してれば幸せだしそれだけで一日頑張れた」
妖精が小さく呟く。
『俗……』
「ええ、俗よ」
アルシェは即答した。
「たくさん働いたわ……仕事なんてクソ喰らえって思いながらね。でもお金がないと推しに貢げないじゃない?」
『……貢ぐ』
「だから働いて……働いて働いて働いて働いて…………」
指折り数えて、止めた。
「……そこで記憶が途切れてるのよね」
『……』
「たぶん過労死」
『重い話を軽く言わないでください!!』
「でも後悔はないわ」
アルシェは、空を見上げて言った。
「推しに貢いで終わった人生だもの」
んふっとご機嫌よくアルシェが笑う。
『それで良かったのですか……』
「良かったわ」
即答だった。
「だからね」
アルシェは、くるりと体を起こし自分の顔を指さした。
「顔って、大事なのよ」
『……』
「目の保養、心の栄養、生きる糧」
『世界の理より優先順位が高い理由がようやく分かりました……』
「でしょう?」
アルシェは、満足そうに頷いた。
「この長い竜生で、退屈しないためにも」
一拍。
「イケメンは、譲れないの」
妖精たちは深く、深くため息をついた。
『……了解しました』
『竜様の面食いは、世界安定装置の一部ということで』
『胃薬を増やします』
「お願いね」
今日も世界は、最強竜の推し活精神によってかろうじて保たれていた。
※完結まで毎日投稿です。
よろしくお願い致します。




