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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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12 意思のない少年 後編



 アランが一歩前に出る。


「アルシェ」


 呼ぶと、アルシェの指先が止まった。


 止まっただけで空気が少し楽になる。

 会場の人間が一斉に息を吸う。


「やるなら、静かに、やり方は優しくな」


 アルシェがアランを見る。


「優しく?」


「昨日みたいに“半分戻す”とかやめろ。あれは俺の胃が死ぬ」


「分かった」


 即答。


 白フードの男が目を細めた。


 あ、こいつ。

 今、確信した顔をした。


 “第十七候補は制御装置になる”と。


 アルシェは白フードの男に言った。


「あなた、不合格」


「我々は応募者では――」


「あなた、不合格」


 同じ言葉を、二回。

 その二回目が世界に刺さる。


 空気がぐっと沈む。


 白フードの男の足元の影が揺れた。


 今度はアルシェの影が動く。

 でも鎖じゃない。

 ただ、影が“境界線”になる。


 床に、細い黒い線が一本引かれる。

 それだけ。


 それだけなのに、白フードたちは線を越えられない。

 見えない壁がそこにあるみたいに。


「……これは」


 白フードの男が息を呑む。


 アルシェが静かに言う。


「王宮から出て」


「拒否すれば?」


 男が笑う。


「我々は神の――」


「神の話、うるさい」


 アルシェの声は小さい。

 でも空気がびり、と鳴った。


 アランは即座に言う。


「アルシェ、静かに! 静かに終わらせるんだろ!」


 アルシェは一拍置いて、頷いた。


「……うん」


 そして、指を一本立てた。


「じゃあ、静かに」


 その指が、ふっと下がる。


 白フードの男の口が、開いたまま止まった。

 声が出ない。

 出ないのに、息はできる。


 昨日の勇者と同じだ。


「おい!」


 アランが叫びかけて、止まる。

 昨日は数年レベルって言ってた。

 でも今は王宮。

 外交問題になる。

 胃薬が死ぬ。


 アルシェがすぐ言った。


「一時間だけ」


「最初からそう言え!!」


 レオニスが即座に騎士団へ指示を飛ばす。


「神殿関係者を別室へ。拘束は最小限。発言は記録せよ」


 王が震える声で言った。


「……竜様、感謝を」


「別に」


 アルシェは淡々と言う。


「私の推し活を汚されたのが嫌だっただけ」


「おしかつ!?」


 アランが反射で叫ぶ。


「何だそのワードは?! 説明してくれ意味がわからん!」


 アルシェが首を傾げた。


「後で説明する」


「せんでいい!」


 少年, ミカがぽつりと言った。


「……僕は」


 アルシェが少年を見る。


「あなたは、応募者なの?」


 少年は頷いた。


「うん。僕は応募者」


「神殿の作った顔なのに?」


「顔は僕の顔だよ」


 少年は静かに言う。


「僕は、僕のまま。……そう教わった」


 アランの鼻が反応する。


 嘘の匂いは、薄い。

 薄いが。

 薄いのが怖い。


 つまり、この少年は“嘘をついてる”んじゃなくて、“嘘を本当だと信じてる”可能性が高い。


 アルシェが椅子に座り直す。

 ふかふかが鳴る。


「ミカ」


「うん」


「あなた、逃げない?」


「逃げない」


「静かに話せる?」


「話せる」


 会場が息を止める。


 アランは胃を押さえながら横から差し込んだ。


「待て。質問が足りない」


 アルシェが瞬きをした。


「足りない?」


「足りない。これは二次審査だろ」


「そう」


「なら、俺が質問する」


 会場がざわめく。

 王もざわめく。

 レオニスは頷いた。

 もう全部慣れてるのが怖い。


 アランは少年を見る。


「ミカ。おまえ、何歳だ」


「……わからない」


「わからない!?」


「神殿にいたから」


「こわ……」


 アランは深く息を吐く。


「じゃあ、次。おまえは“自分で”ここに来たのか」


 少年は迷わず言った。


「来た」


「神殿に言われたんじゃないのか」


「言われた」


「……は?」


 少年は澄んだ目のまま言う。


「僕は、言われたことをする。でも、それをするって決めるのは僕」


 アランは頭を抱えた。


 やばい。

 理屈が綺麗すぎる。

 完璧に洗脳されている。


 アルシェがぽつりと言った。


「……それ、私に似てる」


「似ないでくれ。あと大元の理屈が真逆だろ」


 アランは少年に言う。


「じゃあ最後。おまえ、竜になりたいのか」


 少年は一拍置いて答えた。


「……なりたい、って言えば」


 アルシェの目が細くなる。


「言えば?」


「僕は価値があるって、認めてもらえる」


 会場が静まり返った。


 アランの胸の奥が嫌な音を立てた。


 これ、駄目だ。

 これは“花婿”じゃない。

 “道具”だ。


 アルシェはゆっくり言う。


「誰に認めてもらえるの」


「神に」


 少年が答えた瞬間。


 アルシェの表情がすっと冷たくなる。


 アランは反射で言った。


「アルシェ、静かに。静かに終わらせろ」


 アルシェは一拍置いて、頷いた。


「……うん」


 そして、少年を見る。


「ミカ」


「うん」


「あなたの顔は好き。でも」


 一拍。


「あなたの“意思”は、まだあなたのじゃない」


 少年が瞬きをした。


「……え?」


 アルシェは淡々と言う。


「不合格」


 会場がざわめいた。


 少年の顔が初めて揺れる。


「でも、僕は逃げないって」


「逃げないは加点。でも」


 アルシェが言った。


「それ、あなたの言葉じゃない匂いがする」


 アランは息を呑む。


 竜。

 彼女は意思の所有者を見てる。


 怖い。

 でも。


 どこか優しい。


 少年が小さく震えた。


「……じゃあ、僕は」


 アルシェは、少しだけ声を柔らかくする。


「帰りなさい。神殿じゃない場所に」


 少年が目を見開く。


「帰る場所、ない」


 アランが口を挟むより早く、レオニスが言った。


「王宮で保護します」


 即答だった。


 王が慌てて言う。


「おい待て! 勝手に決めるな!」


 レオニスは淡々と言う。


「神殿の介入案件です。王都の治安案件でもある。保護は妥当です」


「……おまえ、便利だな」


 アランがぼそっと言うと、レオニスは一瞬だけ表情を緩めた。


「仕事です」


 アルシェはふかふか椅子で満足そうに頷いた。


「いい。面倒が減る」


「面倒って言うな!」


 アランが叫ぶと、アルシェがにこっとする。


「アラン、今日もうるさい」


「王宮がうるさいんだよ!」


 王がこわごわ言う。


「竜様……選考会は……続行で?」


 アルシェは頷いた。


「続行」


 アランが呻く。


「続けるな!!」


 アルシェがアランを見る。


「あなた、逃げる?」


 アランは息を吸って吐いた。


 逃げない。

 逃げないと決めた。


 決めたけど。


 今日だけで胃が三回死んでる。


「……逃げない」


 声が弱い。


 アルシェが満足そうに笑った。


「いい顔」


「だからやめろって!!」


 そして会場の外。

 廊下の奥から誰かの声が聞こえた。


「失礼いたします」


 聞き覚えのある、よく通る声。


 振り向くと。


 白フードじゃない。

 黒いローブ。

 でも神殿の紋が袖にある。


 しかも。


 顔が良い。


 泣きたくなるほど。


 男は優雅に礼をした。


「神殿代表代理, 大司祭補佐。……ヴィクトルと申します」


 アランの胃が、四回目の死を迎えた。


「……増えるなって言っただろ!!」


 アルシェが小さく言った。


「顔、好き」


「やめろ!!」


 ◇


 理の中間層。


 妖精たちは机に突っ伏した。


「増えた……」

「顔も神殿も増えた……」

「胃薬が足りない……」


 議長妖精が泣きながら叫ぶ。


「第十七候補を守りなさい!!世界が持つまで!!」


 誰も知らない。


 竜が一番守りたいものがもう“世界”じゃなくなりかけていることを。


 そしてそれが、世界にとっての希望であり絶望であることを。

※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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