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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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11 意思のない少年 前編



 扉が閉まる音がやけに静かに響いた。


 少年は一礼した。

 所作は綺麗だが型にはまっていない。

 誰かに教わった礼じゃなく、「そうするのが自然」のような礼。


「第四十九応募者、名を名乗れ」


 王が声を張った。

 張ったがさっきまでの威厳はちょっと薄い。

 胃が薄くなってる顔だ。


 少年は顔を上げた。


「……ミカ」


 短い。


 貴族たちがざわめく。


「名だけ?」

「姓は?」

「身分は?」


 少年はそのざわめきを見ていない。

 見ているのは、壇上のふかふか椅子。


 正確には、その椅子に座る白銀の女。


 アルシェだ。


 少年の目は澄んでいた。

 澄んでいるのに底が見えない。


 アランの鼻が嫌な予感でぴくりと動く。


 匂い。


 香はない。

 香水もない。

 汗も少ない。

 代わりに冷たい匂い。


 石。

 水。

 ……そして、祈り。


「……またかよ」


 アランが呻くと、レオニスが即座に耳元で囁いた。


「神殿系の匂いですか」


「おまえ、俺の鼻を信仰し始めてない?」


「事実に基づく評価です」


「やめろ、その言い方!」


 少年の背後にいる白いフードの集団が同時に一歩前へ出た。

 歩幅が揃っている。

 統率が取れている。

 いかにも「会議で決めてきました」みたいな顔をしている。


 ……妖精じゃなくて神殿版だが。


 王が顔色を変える。


「貴様ら! ここは王宮だぞ!」


 白いフードのひとりがゆっくりフードを外した。


 男。

 目の下が青い。

 寝てない目。

 でも口元だけは微笑んでいる。


「王よ。恐れながら。これは“儀式”です」


「儀式?」


 アランが反射で突っ込む。


「また儀式かよ! 何でも儀式にすんな!」


 男は、なぜかアランに礼儀正しく頭を下げた。


「第十七候補殿。先ほどは大変見事なご判断でした」


「褒めるな! 怖い!」


 男は微笑んだまま続ける。


「しかし、我々は“従わせる”ために来たのではありません」


 アルシェがふかふか椅子で足を揺らしながら言った。


「縛ろうとした人間は嫌」


「承知しております」


 男は即答した。

 即答が怖い。


「竜様。竜様の“好み”に我々は口を出しません」


 会場がざわつく。

 さっきのユリウス伯を捕まえた直後にそれを言う度胸がすごい。

 度胸というより命知らず。


 アルシェは目を細めた。


「じゃあ、何しに来たの」


 男は少年の肩に手を置いた。


「この者は、竜様の“好み”を満たします」


 アランの胃がぐらっと揺れる。


 少年の顔は、確かに良い。

 良すぎる。

 整い方が「作為」じゃなく「最初からこうでした」みたいな顔。

 それが一番危険だ。


 アルシェが、じっと少年を見る。


「……顔、好きかも」


 アランの胃が死ぬ音がした。


「やめろ!! 今それ言うな!!」


 アルシェは首を傾げた。


「どうして?」


「釣り餌だろ! 見ろ! 後ろの白フードの笑顔!」


 白フードの男は、まだ笑っている。


「釣り餌ではありません」


「“釣り餌ではありません”って言うやつの大半が釣り餌なんだよ!」


 アルシェが少し考える。


「アラン、うるさい」


「うるさくなるだろ!! お前の一言で俺の胃が!」


 レオニスが咳払いをした。


「神殿の者。ここは王宮です。応募者の護衛として同行することは許可していない」


 白フードの男は静かに言った。


「護衛ではありません。証人です」


「証人?」


 王が眉を寄せる。


「何の証人だ」


 白フードの男は、淡々と言い放った。


「竜様が“選ぶ”証人です」


 その瞬間、会場の空気がまた一段重くなった。


 アルシェがふっと笑った。


「私が選ぶのは当たり前でしょ」


「はい」


 男が頷く。


「ですから、その“選び方”を世界に示す必要があるのです」


 アランは理解した。


 こいつら。

 “従わせる”んじゃない。

 “正当化”しようとしてる。


 竜が伴侶を選ぶという行為を「神殿の儀式」に変換して、世界のルールに組み込みたい。

 そうすれば、次は「竜の儀式の管理者は神殿」という流れになる。


 やり口が丁寧で最悪だ。


「なあアルシェ」


 アランは低い声で言った。


「こいつら、結局お前を管理したいだけだぞ」


 アルシェは頷いた。


「管理したい顔は嫌」


「顔で言うな!」


 少年が初めて口を開いた。


「……ねえ」


 声は小さい。

 でも不思議と通る。


「君がアラン?」


 アランは固まった。


「……そうだが何だ?」


 少年は真っ直ぐ見た。


「僕と同じ匂いがする」


「は?」


 アランの鼻が反射する。

 少年から同じ匂いがした。


 石。

 水。

 そして、薄い祈り。

 でもアランの半竜の匂いとどこか似ている。


「……おいレオニス」


 アランは小声で言った。


「こいつ、候補っていうより……」


「あなたと同系統の改造を受けた可能性がありますね」


「即答すな!」


 少年はアルシェに視線を移した。


「竜様」


 呼び方が自然すぎる。

 敬意でも恐怖でもない。

 ただ、呼んでるだけ。


「君が、僕を選ぶなら」


 少年は言った。


「僕は逃げない」


 会場がざわめいた。

 アルシェの瞳がほんの少しだけ揺れた。


「……そう?」


 アルシェが興味を示している。

 アランは歯を食いしばった。

 白フードの男が穏やかに言う。


「竜様。彼は神殿で育ちました。嘘をつきません」


「神殿で育った、がもう嘘っぽいんだよ」


 アランが吐き捨てると少年が首を傾げた。


「嘘じゃないよ」


 澄んだ目。


「僕は、神殿で“作られた”」


 会場が凍った。


 王が唇を震わせる。


「……作られた、だと?」


 少年は淡々と言う。


「竜様の好みに寄せて」


 アランの胃が終わった。


「やっぱり釣り餌じゃねぇか!!」


 アルシェの表情がすっと消える。

 笑みも、興味も、遊び心も。

 ただ、無機質な冷たさが残る。


「……誰が作ったの」


 白フードの男が胸に手を当てる。


「神殿です」


 アルシェが立ち上がった。


 ふかふか椅子がきゅっと鳴る。

 そんな音がやけに現実的で逆に怖い。


「私の好みを、材料にしたの?」


 白フードの男は穏やかに頷いた。


「竜様が望む顔を、竜様が望む言葉で」


 アルシェの目が細くなる。


「……偽物の顔は嫌」


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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