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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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10 偽物の顔の男 後編



 空気が沈む。


 会場の誰も動けない。

 王すら息を止めている。


 ユリウス伯が最後の一押しをするように言った。


「竜様。あなたの力は神の領域。ならば神に――」


「違う」


 アルシェが言った。


 短く。

 よく通る声で。

 大声ではないのに、全員の鼓膜の裏まで届く。


「私は、私」


 そして、ぽつりと続けた。


「神になんて、なりたくない」


 アランの心臓が跳ねた。


 この竜。

 自覚が薄いだけじゃない。

 “神格に近い”と言われるのをどこかで嫌がっている。


 だから人型で暮らす。

 だから椅子に喜ぶ。

 だから生活に執着する。


 壊せるのに壊したくない。


 壊せるから、怖い。


 ユリウス伯が微笑んだ。


「ならばなおさら。あなたを“縛る”必要がある」


 次の瞬間。


 ユリウス伯の足元の影がすっと伸びた。


 アルシェの影ではない。

 ユリウス伯の影が勝手に動く。


 宗教魔術。

 影に祈りを織り自由自在に動かす高度な魔術。


 影が鎖の形になり、壇へ向かって走る。


 狙いはアルシェ。


 アランは反射的に動いた。


 体が勝手に前に出た。

 逃げないって決めたからじゃない。

 半竜の反射が先に走った。


「……っ!」


 影の鎖がアランの足元に絡みかける。


 その瞬間、アルシェが指を鳴らした。


 ぱちん。


 音は小さい。

 でも“世界が返事をする音”だった。


 影の鎖が止まる。


 止まっただけじゃない。


 ほどける。

 祈りの糸がほどけて、ただの影に戻る。


 ユリウス伯の顔が初めて歪んだ。


「……なぜ」


 アルシェが静かに言う。


「私の影は、私のもの」


「それはそうだろ!!」


 アランが叫んだ。


 アルシェがアランを見る。


「あなたの影も、あなたのもの」


 アランは息を呑む。


 それは。

 昨日の「意思を奪うな」に対する返事みたいだった。


 ユリウス伯が低い声で言う。


「竜様。あなたは危険です。だから我々は――」


「面倒」


 アルシェが即答した。


「面倒で済ませるな!!」


 アランが叫ぶと、アルシェが少しだけ目を和らげた。


「アラン、うるさい」


「うるさくなるだろ!!」


 アルシェはため息をつく。


「じゃあ、静かに終わらせる」


「それが一番怖い!!」


 ユリウス伯が一歩引いた。


 そして、肩口の装飾から小さな護符を取り出す。


「ならば、これはどうでしょう」


 護符が光る。

 光が形を成し、空中に“顔”を映した。


 美しい顔。

 作り物みたいに整った顔。

 アルシェが好きそうな“系統”に寄せた顔。

 “アランにそっくりな顔”


 アランの胃が凍った。


「……おい、やめろ」


 ユリウス伯が言う。


「竜様の好みを研究しました。あなたが求める“顔”は、提供できる」


 アルシェの瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。


 その揺れを見てしまって、アランは焦った。


 妖精が言っていた。

 “好みだと判断力が下がる”って。


「アルシェ!」


 呼ぶと、アルシェがこちらを見た。


 アランは言葉を探す。

 顔だけで見るな、じゃ足りない。

 偽物は嫌、だけでも足りない。


 だから、息を吸って言った。


「お前逃げてるだろ」


 会場がざわめいた。


 ユリウス伯が眉を寄せる。


「何を」


 アランは続ける。


「好みを釣り餌にして、意思を奪う。逃げ道を塞ぐ。そういうのは――逃げてるのは相手じゃなくて、おまえだ」


 言ってから、自分で思った。


 俺、何言ってんだ。

 冒険者のくせにお貴族様説教してさ。


 でも。


 アルシェの表情が少しだけ変わった。


 嬉しそうでもない。

 怒ってもない。


 ただ、静かに納得した顔。


「……うん」


 アルシェが頷いた。


「逃げる顔は嫌」


 ユリウス伯が薄く笑う。


「竜様。彼はあなたに取り入っているだけだ」


 アルシェは即答した。


「取り入られてもいい」


「えっ」


 会場がざわつく。


 アルシェは続ける。


「でも」


 目を細める。


「私を“従わせたい”人間は嫌」


 ユリウス伯の目がほんの少しだけ揺れる。


 図星だ。


 顔が良ければ勝てると思っていた。

 でもその顔が竜に対して効力がなければ勝てないと分かっている。


 アルシェが言った。


「ユリウス伯」


 名前を呼ばれたユリウス伯の肩が僅かに跳ねる。


「あなた、不合格」


「なぜ」


 アルシェは、淡々と答えた。


「その偽物の顔は合格。でも」


 一拍。


「嘘の匂いが嫌」


 ユリウス伯が歯を噛みしめた。


「竜様。これは世界のためだ!」


「世界のため、って言う人間は」


 アルシェが静かに言う。


「だいたい自分のため」


 アランは思った。


 この竜。

 顔しか見てないみたいで案外、人間の“欲”の方を見てる。


 見えすぎるから、危ない。


 だから、妖精たちは胃を壊す。


 アルシェが指をもう一度鳴らした。


 ぱちん。


 ユリウス伯の護符がただの紙になって落ちる。

 偽りの顔が霧みたいに消える。


 そして。


 ユリウス伯本人の顔が変わった。


 いや、正確には。


 “元に戻った”


 さっきまでの銀髪ではない。

 瞳の色も違う。

 皮膚の張りも違う。


 整ってはいる。

 整ってはいるが――別人だ。


「……やっぱり偽装じゃねぇか!!」


 アランが叫ぶ。


 王が青ざめる。


「捕らえよ!!」


 騎士たちが一斉に動く。


 だがユリウス伯は、薄く笑った。


「遅い」


 床に落ちた紙が舞い、光の紋を描く。


 転移陣だ。


 逃げられる。


 ここで逃したら、また介入が来る。

 世界が面倒になる。

 必要な胃薬が増える。


 アランが一歩出る。


「レオニス!」


「はい!」


 即答が返ってくる。

 仕事が早い。


 だが間に合わない。


 転移陣が光った、その瞬間。


 アルシェが、静かに言った。


「逃がさない」


 ユリウス伯が凍りつく。


「……なにを」


「逃げるのは嫌」


 アルシェが指先で空を“なぞる”


 書くような動きではない。

 世界の縫い目を指で摘むみたいな動きだった。


 転移陣の光が途中で引っかかる。


 扉の向こうに行きかけたユリウス伯が半分だけ“戻る”


 すごく嫌な絵面になった。


「やめろ!!」


 アランが叫ぶ。


 アルシェがアランを見る。


「殺してない」


「殺してないじゃない!!“やり方”!!」


 アルシェが一瞬だけ黙る。


 そして、ふっと息を吐いた。


「……じゃあ、あなたの言う通りにする」


「え?」


 アルシェが指を動かす。


 転移陣が“ほどける”


 ユリウス伯は床に落ち、咳き込む。


 生きてる。

 ちゃんと全部戻ってる。

 やり方が怖かっただけで結果は優しい。


 騎士たちが一斉に取り押さえる。


 レオニスが低い声で言った。


「確保」


 王が震える声で言う。


「アルシェ様……感謝を……」


「別に」


 アルシェはふかふか椅子に深く座り直した。


「私の好みを弄ばれたのが嫌だっただけ」


「理由が私情!!」


 アランが叫ぶと、アルシェがにこっとする。


「私情、大事」


 アランは頭を抱えた。


 でも。


 さっき。


 アルシェは、アランの「やめろ」を聞いた。


 聞いて、やり方を変えた。


 それがどれだけ異常か。

 そして、どれだけ希望か。


 会場は大混乱だったが妙な静けさもあった。


 貴族たちは理解したのだ。


 竜を動かすのは、王ではない。

 神殿でもない。

 武力でもない。


 ――第十七候補の一言だと。


 アランの胃が別の意味で死んだ。


「……俺、今日から命狙われるやつじゃん」


 アルシェが小さく頷いた。


「狙われる」


「即答すな!!」


「だから」


 アルシェは当然みたいに言う。


「私が守る」


「重い!!」


「竜基準では軽い」


「信用ならん!!」


 ◇


 その頃、理の中間層。


 妖精たちは胃薬を抱えて泣いていた。


「神殿派を確保した!!」

「世界が一旦持った!!」

「でも今度は第十七候補が標的!!」

「胃薬、足りない!!」


 議長妖精が叫ぶ。


「増やしなさい!!世界が持つまで!!」


 誰かが震え声で言った。


「……ところで」

「はい」


「竜様、今ちょっとだけ“空間”弄りましたよね」


 沈黙。


「……書いてないからセーフ?」

「セーフじゃない」

「でも書いてない」

「書いてなくても危険」

「胃薬追加」


 ◇


 王宮の大広間。


 王が震える声で言った。


「アルシェ様……選考会は……続行で?」


 アルシェは頷いた。


「続行」


 アランは呻いた。


「続けるな!!」


 アルシェがアランを見る。


「あなた、逃げる?」


 アランは、息を吸って吐いた。


 逃げない。

 逃げないと決めた。


 決めたけど。


 この世界、俺の胃が先に折れる。


「……逃げない」


 声が弱い。


 アルシェが満足そうに笑った。


「いい顔」


「だからやめろって!!」


 そのとき、レオニスが名簿を読み上げる。


「次の応募者。第四十九応募者――」


 扉が開いた。


 入ってきたのは、少年だった。


 顔がいい。


 だがそれより。


 目が怖いほど澄んでいる。


 そして、背後に。


 王宮の誰も連れていないはずの“白いフードの集団”が静かに立っていた。


 神殿派。


 残党。


 アランは心底思った。


 ……増えるな。


 胃薬も事件も。


 でもアルシェは、ふかふか椅子で小さく言った。


「顔、好きかも」


 アランの胃が悲鳴を上げた。

 

※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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