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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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10/50

9 偽物の顔の男 前編



 広間が静まり返った。


 空気が止まる。

 呼吸が止まる。

 王の威厳も止まる。


 止まってるのに。


 アルシェだけは、動いていた。


 指先がほんの少し揺れたまま、空間の“縫い目”を撫でるようにする。

 見えない糸を引くみたいに。

 軽い動きなのに世界の方が「はい」と従う感じがして、アランは背筋が冷えた。


 ユリウス伯は微笑みを消したまま、静かに息を吐いた。


「……おや」


 声色は崩れない。

 崩れないのが逆に怖い。


「竜様に“偽物”と断じられるとは。名誉あることです」


「名誉じゃない」


 アルシェの声は低かった。

 静かで、冷たい。


「私は偽物が嫌い」


「嫌い、ですか」


 ユリウス伯が目を細めた。


「“嫌い”というのは、感情で?」


「感情」


 アルシェは即答した。


「前世から」


 アランは思った。

 ここは笑っていいのか、止めるべきなのか。

 分からない。

 胃が先に死んでいる。


 レオニスが一歩前へ出る。


「ユリウス・リーヴェン伯。貴殿は王宮において虚偽の魔法を――」


 言い切る前にユリウス伯がゆっくり両手を上げた。


「誤解です。これは“礼儀”です」


「礼儀で顔を盛るな」


 アランが思わず突っ込むと、ユリウス伯が一瞬だけ笑いかけた。


 笑いかけたが。


 その笑みの奥に虫みたいな冷たさがいる。


「第十七候補。あなたは素晴らしい」


「褒めるな。怖い」


「嗅覚の鋭さ。観察眼。そして――竜様がその言葉を聞いてくださる」


 会場がざわつく。


 貴族たちが囁き合う。


「聞いてくださる……?」

「竜様が……?」

「ただの冒険者が……?」


 アランの胃が悲鳴を上げそうだ。


 アルシェがアランの袖を掴む。

 ぎゅ、と。

 痛くないが逃げ道を塞ぐ圧がある。


「アラン」


「……何」


「近寄らないでって言って」


「え、俺が?」


「うん」


「おまえが言え!!」


 アルシェは真顔だった。


「あなたが言うと効く」


「それ最悪の権力の使い方だぞ」


 ユリウス伯がゆっくり距離を詰める。


 その瞬間、アランの鼻がまた反応した。


 匂い。


 甘い香の奥に古い香木みたいな匂い。

 そして、鉄。

 血じゃない。誓約の匂い。

 祈りの匂い。


 宗教じみた匂いだ。


 アランは喉の奥で呻いた。


「……やっぱ神殿かよ」


 ユリウス伯は微笑んだ。


「いかにも」


 会場がざわっと広がる。


 王が顔を強張らせる。


「神殿だと……?」


 ユリウス伯がゆっくり振り向き、王へ一礼した。


「王よ。恐れながら。これは世界の均衡のため」


 言葉が丁寧すぎて、逆に刺さる。


「竜という災厄を、人の手に収める必要があります」


 その瞬間。


 アルシェの指先が止まった。


 止まったのに空気が震える。

 壁の装飾が小さく鳴る。

 絨毯の毛足が逆立つ。


 アランは反射的に立ち上がった。


「おい!!」


 ユリウス伯は動じない。


「竜様。あなたは強すぎる。あなたの“気分”ひとつで世界が揺らぐ」


「揺らがせてない」


 アルシェの声が、氷みたいになる。


「今は」


 ユリウス伯が続ける。


「だから我々は提案する。花婿は神殿が選ぶ。あなたの“好み”を満たしつつ、世界の安全を」


 アランの背筋が凍る。


 それは、つまり。

 竜の“弱点”を握る宣言だ。


 アルシェはゆっくり言った。


「……私の好みを利用するの?」


「利用ではありません。導きです」


 ユリウス伯の声は優しい。

 優しいから余計に悪い。


 アルシェの目がすっと細くなる。


「導きは嫌」


 アランは、ここで理解した。


 アルシェは「宗教が嫌」なんじゃない。

 宗教が“介入”してくるのが嫌なのだ。


 自分の意思を奪われるのが嫌。

 偽物が嫌。

 押し付けが嫌。


 竜なのに妙に人間くさい地雷。


 そして、その地雷を踏んだ相手を。


 竜は、容赦しない。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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