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布団敷き→背中の薬塗り→グッジョブ

 押し入れを開けて布団を出す。シーツと枕カバーと布団カバーも一緒に入れてあった。

うん、カバー掛けからね。たしかに、あの握力ではちょっと大変かも。

 ここでは、一週間ごとの各カバー交換ルールがあるので、作業は慣れている。週に二回それぞれのカバーの洗濯日があって、どっちかで交換する。まあ、朝時間なかったりするから、結構さぼるけどね。

洗濯は係の人がしてくれるので、洗濯を出して新しいのを交換に持ち出せばいい。ユキさんみたいにたまに泊まりに来る人のところは、ばばちゃまか亜希さんがやってくれる。ユキさんのところだけでも、私がやることにしようかなあ。入れるし。

 作業を終えてからスマホで英語アプリをいじっていると、ユキさんが戻ってきた。

「そういえば、寒くない? 大丈夫?」

 一応エアコン入ってるから大丈夫だけどね。勝手にユキさんの座布団に座ってるし。

 それにね、うちは広いから寒いのよ基本的に。でも昔、大火事があったから、ストーブは電気でも個室では使用禁止なのよね。

「御覧の通り、綿入れ半纏ともこもこパジャマにもこもこ靴下二重履きですから問題ありません」

 着ぶくれている。ユキさんは、スエットの上下に裸足だ。

「大丈夫ならいいけど。俺は基本的に暑さ寒さは感じないからね。外に出るときは、天気予報に合わせて服を選ぶんだよ」

「じゃあ、清めの水路は全然平気なんですね?」

「平気だね。何日も籠るときは夜、風呂代わりに泳いでるよ」

「十五度ですよー」

「平気平気」

 神宮様用のお風呂はあるけど、さすがに借りるわけにいかないんだろうなあ。普通は三交代だからね。清めの水路の排水先は庭に二本ある水路のうち、鯉が泳ぐ方だから問題ないし。

「今回は五日も籠ってたから、神宮様のお風呂の掃除ついでに下着の洗濯してたんだよ。水路で石鹸使うわけにいかないからねえ」

「頭洗ってないじゃないですか」

「頭も体も水路で泳いだだけだったね。神宮様と同じで、そんなに内側からは汚れないんだよ。髪も爪も伸びが遅いしね」

「新神宮様だからですか?」

「だからなんだろうねえ。神宮様は最初と最後の年は少し伸びるけど、間の五年くらいは全然伸びないよね、七年で十センチも伸びないんじゃないかね、髪。切れないから伸びなくなったのかな。爪はお務め終わるころは結構邪魔っぽいよね。俺のは伸びないけど切れるから、気を付けないと大変。一回頭ぶつけて二針縫ったんだけど、周りの髪をちょっと切られてね。傷はすぐ治るんだけどねえ、髪が復活しなくて、まだ短いよ、一年経つのに」

 ユキさんはそう言いながら、脳天あたりをなでている。

「お仕事でケガしたんですか?」

「そう。片付いたと思ったら、上から桶が落ちて来た」

「なんで桶!?」

 ドリフか? あれは(たらい)か。

「昔の温泉宿だったんだよね、現場が。いたずらで梁に桶が並べてあって、それが全部落ちて来た。無傷で仕事を終えたと思ったのに、みんな打撲だらけになって。五針縫った人もいたからね。ついでに縫われちゃったんだよねえ。車一台ででかけて、翌日また同じ車で帰って来たんだけど。会社に着いた頃にはみんな治ってたよ。俺。便利な男だから」

 ユキさんの近くにいると軽傷軽症はすぐ治ると聞いた。まあ、亜希さんと父母と私くらいしか知らないことだけどね。

「そうだ、お薬塗りましょうか? 冬だから乾くでしょう?」

 傷の保湿剤。

「大丈夫ならお願いするけど、大丈夫かな?」

「まあ、何事も初めてというものがありますから」

「そうだね、何事もねえ」

 なんか、言い方がいたずらっ子みたいだぞ、ユキさん。

 カバンから薬を出して渡してくれたので、私は蓋を開ける。ユキさんは、ガバッと上半身の服を脱いだ。

 昨夜はランプ一つの明かりだったけど、今日はちゃんとした照明の下だ。

 痛ましい傷がはっきりと見えた。

「右肩のは、ちょっと皮膚弱そうですね」

「うん、あと、この髪に隠れてるあたりもね。それと、荒く縫ってあるやつの左側のとこがよく出血する」

「ああ、本当弱そう。じゃあ、先にその三か所塗っちゃいましょうか」

「え? そこ先に攻める派?」

「私は給食は苦手なものから片付ける派でした。好きなものは最後のご褒美」

「ああ。おまかせするけど、痛がっても構わないで塗っていいよ」

「わかりました。おまかせください」

 たっぷりと右肩の一番大きい傷に薬をのせると、ユキさんはちょっとびくっとなった。そのまま固まっているので、まあ、痛いのだろう。どう塗ったって痛いのだろうから、しかたない。私は手早く問題の三か所に塗り込む。

「はい、あとはほかのとこ塗りますよ。ちょっと休みますか?」

「……うん、ちょっと、待って、ね」

 真面目に痛かったのか、固まったまま、手首から先だけ泳がせている。まあ、ちょっと待とう。

「このケガは治らないんですか? ユキさん効果で」

 新しいケガはすぐ治るのに。

「これは、穢れが濃くて。浅い傷から少しずつ消えてるけどね。深い傷は全然だなあ」

 ユキさんに傷を負わせたのは、うちの家系に憑りついていた怨霊。いったいどれだけ殺されたことか。傷つけるときに怨念が入ったということなんだろうなあ。

 そう思っていたら、すぐ外を人が歩く音が聞こえた。今度は誰だ? まあ、開けられる人は少ないし、と思ったら、ガラッとふすまが開いた。

「おいユキ……て、なんでお前いるんだ!?」

 親父かよ。

 ユキさんはふすまの方を向いていた。上半身裸で。そして、片手を挙げる。

「薬塗りです。落ち着いてくださいね、お義父さん」

 親父は、一升瓶と湯呑を二つ持っていた。うん、まあ、察する。

「どうする? あとは親父が塗る?」

「いや、お願い、塗っていって」

 さすがに義理の父に薬は塗られたくないか。そんなわけで、私は残りを素早く塗って、とっとと退散することにした。

「じゃ、お休みなさい。私、明日は学校なんで」

「朝ごはん何時頃?」

「いつも七時前くらいです」

「じゃあ俺もそのころ食堂行くよ。おやすみ」

「おやすみなさい」

 ユキさんは服を着て、文机にお酒を置いて待っていた親父に「お待たせしました」と言っている。親父も息子ができてうれしいのだろうから、まあ、ゆずってあげましょうかね。

 私は、ふすまを閉めて退散した。

 うん。親父、グッジョブ。


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