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お布団を、敷いてあげました。

「じゃあ、ばばちゃまたちに報告だけしましょう」

 私たちは戻って、三人で巨頭会談をしているところに割り込んで鍵が壊れたことを伝えて、曲がった鍵を渡した。

「じゃあ、ユキちゃんのお部屋用意するわね」

「いいですよ、どうせ開けられる人、限られてるし」

 亜希さんが言うのに、ユキさんが返す。うん、この二人、仲いいよね。

「新婚なんだし、みゆの部屋に泊まりゃいいだろ?」

 ビシッと、ユキさんと私が固まった。何言ってんだこのくそ親父は。

「女子寮側に男性は泊められません」

 亜希さんがスパッと返した。うん、さすが亜希さん。

「鍵の予備あるんじゃないの?」

 私が言うと、「男衆みんな酔っぱらってるから無理ね」とのこと。親父も酔っ払いか。まったく顔色に出てないけど。そういえば、ユキさんもさんざん飲まされていたよなあ。

 ちらりと見ると、目が合った。

「何?」

「いや、ユキさんもお酒強いなあって。全然顔色変わってないから」

「ああ、味はわかるけど、アルコールってわからないんだよね」

 何それヤバイ。

「ユキちゃんどんくらい飲んだの?」

 亜希さんが尋ねると、

「さて。バケツ二杯ぶんくらい?」

とのこと。バケツ換算かい。

「明日は休みにしてもらいましたけど、家事も溜まってるだろうし、早めに帰りたいんですけどね。電車で帰るけど、駅までどうしよう? バスでもいいけど」

 ユキさんが言う。この状況でユキさんが村の周遊バスで……うん、ヤバいね。

「俺が家まで送ってやるよ。ここにいても面倒しかなさそうだ」

「そうですね。今回のことは相談役事務室の方で対応しますから、家長は新神宮様対応ということで出ていてください」

 うんうん、とうなずきながら、親父はそばにおいてあったウォーターサーバーから水を汲んでいる。食堂も遠いからね、階段のところに置いてあるんだよね、ウォーターサーバー。親父は紙コップをユキさんに渡して、自分の分を汲みなおしている。ユキさんはおとなしく水を飲んだ。亜希さんも続けて自分で汲んでいる。亜希さんは少し顔が赤いかな。

 亜希さんもお酒に強い方らしいけど、この二人はお酒に関してはザルらしい。神宮様もだけど。私はどうなのかなあ、母もザルだからなあ。

「じゃあお札作りますね。みゆちゃん、机貸して。あとで入れる人のところ回るけど、誰入れるようにする?」

「えーと、ばばちゃまと亜希さんと、母と妹かな」

「俺は?」

 親父が言う。

「親父はダメ」

「俺は?」

 ユキさんが言う。

「……いいです」

「俺の部屋ならいいですよ、お義父さん」

「……一応入れてくれ」

 そんなわけで、亜希さんたちは食堂で待っていてくれることになり、三人は食堂で続きを話し合おうということになって去って行った。親父の背中は、ちょっと哀愁がただよってた。

 ユキさんが、私の学習机にいるっていうのも、変な感じね。

 私はベッドのうえで正座しながら、その背中を見守った。気が散ったらいけないから、英語アプリもできないしね。

 ユキさんは画板みたいな板を出して広げて、お札サイズの紙束から紙を三枚出し、さらに筆の筆記具セットみたいなのを出して並べると、さらさらとお札を作っていった。

 さすがプロ。慣れている。

 書き終わるとちょっと机から椅子を離して、何かぶつぶつ言いながら手を動かしている。おお、圧がくる。ユキさんの霊力みたいなものなんだろうなあ、これ。キスするときのとは全然違う。さっきの冷たい手を繋いだときのとも違う。

 うん、やっぱり、あの温泉な感じがいいよなあ。

 ついうっかり、またほわほわ思い出してしまう。

 お札はすぐに作り終わり、ユキさんが椅子ごと振り返る。

「みゆちゃん、ダダ洩れ……」

 んひっ!

「いや、温泉行きたいなって!」

 私はあわてて暴れた。思い出したのは温泉であってキスではない!

「温泉?」

「そう。なんか温泉。美肌系微発泡でとろみがあるやつ!」

 ユキさんが首をひねる。

「なるほど?」

 なんか納得された。

「温泉は探してあげるから、とりあえず食堂行こうか」

 妹のお札もあるので、隣室のまゆにも出て来てもらって三人で食堂に行く。

 食堂はまだ、盛り上がっていた。ユキさんに飲ませようとする人たちは亜希さんが追い払ってくれた。

 作業は簡単だった。部屋の主は両手で一分ほど札を持つ。そのあと、それぞれのお札を、部屋に入っていい人が十秒ずつ、その部屋の人が持つ札の端を持つ。それだけ。

 ばばちゃまと亜希さんと私は全部屋。父はユキさんとまゆの部屋。母は私とまゆの部屋。まゆは私の部屋には入れる。ユキさんもお札の作成者なので全部入れてしまうそうだけど、妹もお兄ちゃんだし! と言って許してくれた。

 ユキさんが「妹……」と、なんかちょっとショックを受けていた。

 ユキさんは死んだお姉さんと二人姉弟だったから、妹って存在は初めてなわけだね。私からしたら増えてないなあ。身近なところでは、ユキさんが同居している甥の杞冬が、私の甥に昇格するくらいか。うん、こーちゃんと呼んでやろう。

 あとは二階に戻って、まずはまゆの部屋のふすまの内側にぺったりとお札を貼った。うーん、シュールだね。ふすまにお札。

「上にポスターとか貼っていいからね」

「わかりました」

 まゆを部屋に残し、次は私の部屋。

 私の部屋はすでにふすまに好きなロックバンドのポスターを貼ってあったので、ちょっと剥がしてからお札を貼り、また元通りにした。

 私は部屋に戻るユキさんにくっついて部屋を出た。

「最後までつきあいます」

「そう?」

 カルガモのように、ユキさんの後ろについて行く。

 女子寮は、静まりかえっていた。私が蹴り破った部屋は、いびつなふすまを無理やり貼り付けられているけど、隙間があるのでね。なんか、すでにカーテンさえなくなっているように見えたなあ。

 ユキさんの部屋は鍵が壊れたので、引けば開く。一緒に中に入ると、ユキさんがすでに貼ってあったお札を剥がして、代わりに新しいものを貼り付けた。

「これで終わり。みゆちゃん、時間ある? ああ、受験生だから勉強しなきゃか」

「今日はもうあきらめてますよ。ユキさんはもうお風呂行って早く寝た方がいいですよ?」

「睡眠時間は短いんだよ、俺は。でももうおなかいっぱいだしねえ。少し、話する?」

「そうですね。でもとりあえずお風呂入って来たらどうです? 宴会終わったら混みますよ」

「そうだね。じゃあ、悪いけど布団敷いといてもらってもいい? ここの布団重いんだよね」

「わかりました。じゃあ、この部屋で待ってていいですか?」

「うん。行ってくるね」

 ユキさんはカバンから着替えを出して、出て行った。

 えーと、お布団ね。て、昨日は一緒に敷いちゃうかもとか言ってたんですけど。

 今いないから大丈夫よね。って、戻ってきたら敷いてあるんじゃん!

 ヤバイ。でも頼まれたしね、敷かないとね。


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