11・居場所のない十三歳
「異世界……から、来た?」
「そっスね」
「女神さまと会って、直々に頼まれて、引き受けた?」
「断る理由もないし、なんなら渡りに船というか、元の世界にあんま未練もなかったもんで、二つ返事であっさり」
「その、チュウガクとかテイガクというのはいまいちわかりかねるけど……要は返り討ちをやり過ぎて、しかも親子仲も最悪なときに女神さまから声をかけられたと。そういうことでいい?」
『中学というのは……前時代に存在した、学問所の一種です。十代半ばの、男女民が……無償で教育を受けられる……機関。停学とは、反社会的行為に及んだ……男女民の、学問所への……一時的な、通所禁止命令……です』
「なんか所々で変なワード混じってるが、でも、だいたいそんな感じだな、うん」
そう。
この俺こと柊葉介は、十三歳の春に、市立第一中央中学校(第一中もしくは中中の略称で知られている)に入学したのだが。
まだ一学期の五月後半だというのに、なんと二週間の停学を食らったのだ。
理由は喧嘩。
俺が人並み外れた肉体と体力の持ち主なのを聞きつけた、よその小学出身のイキリ男子。
真っ赤に染めた頭が特徴的なそのニワトリに、ゴールデンウィーク明けに喧嘩を売られ、それを軽く撃退した。
これはおおやけにはならなかった。
問題なのはその後だ。
一週間後。
友達数人と下校中に、ニワトリが仲間をつれて襲いかかってきたのだ。
当然、友達も巻き込まれた。
あいつらには悪いことをしちゃったよな。殴られて怪我してたし。
その元凶のニワトリだが、まともにやっても勝てないから数でカバーしようとしたんだろうな。
でもそんなの俺には関係ねえ。
ニワトリの仲間を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げていると。
馬鹿ニワトリの野郎、よりによって、サバイバルナイフなんか出してきやがったのだ。
こうなったら、もう容赦できない。
中途半端にやったところで、さらにエスカレートしてまた襲ってくるかもしれない。それは面倒だし、周りにも迷惑がかかる。友達が俺のせいで重傷を負ったりしたら、ちょっと嫌だしな。
だから、わからせた。
そしたらわからせすぎた。
ニワトリは半身不随。
残りの人生が、車椅子生活になった。
もう喧嘩ってより殺人未遂からの正当防衛だけど、やり過ぎてしまったのがまずかった。過剰防衛と判断されて、二週間の停学となったわけ。
俺の友達はおとがめ無し。ニワトリの仲間は三週間から一ヶ月の停学。
間の悪いことに、今の柊家は大揉めの真っ最中。
横領だかやらかして左遷された父さんと、家の貯金を株かなんかで溶かした母さんが毎日のように口論してるときに、この停学の件が飛び込んできた。火に油を注ぐような展開。
父さんも母さんも、離婚するにしても、どちらが俺を引き取るか……ではなく。
うっかりミスでできちゃった婚の産物である俺を引き取らせるかでギャーギャーやかましいったらありゃしない。
と、まあ。
俺の居場所は無くなりつつあった時に。
夢の中にあの女神が現れたのである。
『うちの世界がガタきそうなんで、楔の役目をしてくんない?』
『いるだけでいいから。ただ普通にこっちで生活してればいいだけだから』
『世界の危機を救えとか、そんなミッションとかもないよ。それはもう英雄たちが終わらせたんでね。でも楔にはなれないんだよねアイツら。そこまでの力がないから、せいぜい魔王やドラゴン退治やるのが関の山』
『だから引き受けてよ、特異点くん?』
こんな感じの、台詞だけだとノリが軽そうなギャルっぽいが実際は棒読み口調の女神さまに頼まれ、その誘いに乗ったのでしたとさ。
「──嘘はついてなさそうだけど、とはいえ、おいそれと信じることはできないわ。けれど、その話が本当だとしたら辻褄が合うのも確かではある。信じがたいけど……」
俺が並外れた世間知らずで並外れたスキル持ちなのと、この剣が並外れた聖なる力を有しているのも、今の話で全て納得がいくとは思ってるんだな。
でも、そんなことあり得るのかと。
あまりにも疑わしいと。
別の世界の人間を、この世界の神さまがスカウトするなんてことが、あり得るのかと。
しかし信じざるを得ないと。
それで困惑しちゃってるんだな。
無理もない。
この姉ちゃんじゃなくても、こんな話聞かされたら誰だって困惑するさ。
「そんなわけだからさ、こいつをあんたらに壊されたり差し出したりってのは、お断りしたいんだ」
聖刀の鞘を、手でポンポンと叩きながらそう言う。
危険視してるのはわかるが、でも、それだけの理由で神さまからのありがたいプレゼントを失うってのはね……あまりにも損しかない。
納得できないね。
「俺としては、今のとこ、できるだけのんびりしたいんでね。右も左もわからぬ異世界に来たばかりで、揉め事は遠慮させてほしいかな」
「敵対する気はないってことね」
「そーいうこと。何がなんでもどうしても見逃せないってんなら……こちらとしても、腹をくくるかな。面倒だけど、やるときはやるしかないからさ」
「なるほどね。嫌いじゃないわよ、その考え方。やられたらやり返すべきだもの。私も同感よ。以前の私なら、我慢に我慢を重ねたけれど、吹っ切れてこうなった以上、もう他人のやってくることに耐える意味も理由もない」
「なら、俺もさっき焼かれた仕返しをすべきなのかな、あんたに」
「それはまた別の話ね。交渉の末に起きた不幸な出来事だから忘れなさい。……で、そうなると……」
しれっと正統性を主張しやがった魔女の視線が、
俺から、俺の左方向へと、
ミストルティンと名乗った女性型の戦闘用ロボのほうへスライドしていく。
「あとは、そこのゴーレムとの決着をつければ、私に刃向かう者はいなくなるということね」
「いや待った待った」
今にでも手から炎を噴き出しそうな魔女をなだめる。
なんでこうも好戦的なんだ。
反転して魔女になった副作用か? それとも生まれつきの狂犬なのか?
「なにかしら?」
「なにかしら? じゃないよ。俺の身の上を聞いたんなら、今度はそいつの身の上やどこから来たのか詳しく聞くターンだろ。落ち着けよマジで」




