12・燃える成果
「俺がどこから来たかは、今言った通りってわけだよ。……それで、そっちのロボ姉さん、あんたはどこのSF出身なの? まさかメイドインこの世界なんかじゃないよな?」
だとしたらその方がびっくりだ。
『……無論、私は、この世界で作られたものではありません。現時点で得ているデータから、推測される……この世界の文明レベルでは……私のようなガイノイドの作成は、完全に不可能です』
「だよな」
自分で動ける人型ロボどころか人が動かす四輪すら作れないだろうな、この感じだと。
『私の存在していた……私が、災獣への対策として、制作された世界……パナガイア。それは……この世界にも、あなたの属していた、世界にも……該当しません……』
パナガイア。
うん、聞いたこと全然ないな。パナ○ニックなら知ってるけど。
「パナガイア……聞いたこともない名前ね。異世界の名称なんだから、それも当然でしょうけど。こっちのボクちゃんがいたという世界──地球ってのと同様に、初耳ね」
ちゃん付けやめてくんないかな。子供じゃ……まあ、この姉ちゃんから見たら俺って子供か。
見たとこ二十歳超えてそうだし、なら、十三歳の──今年の夏に十三歳になるからまだ十二歳だったりする──俺なんて、幼く見えても仕方ないよな。
ならいいや。
よっぽど馬鹿にした、ムカつく呼び方でなければ、サラっと流せばいい。
このくらいのいじりは許容範囲だ。
「そういえば、この世界にも名前ってあんの?」
「あるに決まってるでしょ……って、それも知らないのよね。こちらに来たばかりだから」
「まあね」
「それなのに、この世界の言葉はそんな流暢に喋れるのよね。それって……ちょっと矛盾してない?」
「ああ、そこ引っかかるか。確かにおかしいよな。実は……女神から授けられたんだ。こっちに来ても、読み書きどころか会話すらできないのは不便だろうってことで、勝手にココにさ」
額を、軽く握った拳でコンコンと小突いて見せる。
「もうやりたい放題ね」
魔女が苦笑した。
「だから神さまなんだろ」
ありがたさもあるけど怖さもあるところが、まさしく神だ。
ここの連中がどんな思いを神って存在に抱いてるか知らないが、俺はそう思う。日本人的な発想なのかな、これって。
「ジオセナティア。それがこの世界の名前よ」
ジオセナティア。
これも聞いたことない。
これに至っては、似たような名前すら聞いたことがない。
「やっぱり知らないようね。ピンときてない顔してるもの。この短時間に何回も見た顔をね」
「顔に出やすいタイプなのかな俺」
「そのようね。他人と交渉したいときは仮面でもかぶることをおすすめするわ」
「検討しとくよ」
俺の正直な面の皮については、ともかくとして。
「そんなわけだから、えーと…………ミス、ミストルティンだっけ」
『はい』
「あんたにとって、この魔女さんは倒す対象じゃないのはさ、これまでの話でわかったろ? 気が短くて手の早い危険な存在ではあっても、その、あんたがいうところの災獣とは違うってことが」
『……それは、肯定せざるを得ないと、言えます』
「ならやめたら? あんたがやめたらこっちの、テ、ティ、ティラ」
『ティリファーナ・イストリア』
「そうそう、そうだった」
さすがロボ、記憶力凄いな。
「あんたさえ刃を──この場合は槍の穂先かな? それを収めたら、このティリファーナお嬢さまが炎を飛び散らせて暴れることもなくなる。この国に平和が戻る。良いことずくめだ」
平和というよりバッドエンドだけど。
「その後は、それぞれ、三者三様に自分の道を進めばいいんじゃないかな。どうだろ? 悪い話じゃないと思う──」
「それなんだけど」
「ん?」
「あなた──私の使用人にならない?」
「はあ?」
いきなり何をわけのわからんことを。
「使用人って言い方が嫌なら、護衛とかでもいいけど?」
「それ俺に何のメリットがあんの。あんたもそうだけど」
「それがそうでもないのよ」
つかつかとこちらに近寄ってくる炎の魔女。
「一国に壊滅的な被害を与えた私を、私の首を狙う者がこれからいずれ出てくると、そう思わない? 私なら出てくるほうに賭けるわ」
「あんたの仕業だってわかるはず……」
そこまで言って、気づく。
「わかったみたいね。そうよ。守りの結界が暴走し、天から炎が国中に降り注いだ──いったい、どこの誰がそんな規模の大きい破壊を引き起こせるの? 私以外にいるかしら? いないわよね?」
魔女は、にやにやと笑いながら、
「証拠なんかなくても消去法で私に決まるわ。災いをもたらす灰白姫。聖女の皮をかぶっていた魔女。他に犯人候補などいない」
「それはわかった。だけど、そのことと、俺を雇うことに何の関係があるわけ?」
「この国に居座ろうと、よそに行こうと、女が一人でいれば何かと危険はつきもの。その度にこんな風になって戦っていたら、目立って仕方がないわ。自分の正体を積極的にさらけ出すようなものよ」
「まあ、そうだね。その考えは正しい」
髪の毛が燃えてる人間とか、この姉ちゃんの他にいるはずないしな。
そんな衝撃的で斬新なヘアスタイルを目撃されようものなら、あっという間に噂がそこらじゅうに広がっていくに違いない。
……なるほどね。
話が見えてきたぞ。
「だから、俺に代わりに火の粉を払えと。正体がバレないよう、目くらましになってくれってことね。はいはい、やっと理解したよ、あんたのもくろみ」
「あなたにとっても、悪い話じゃないでしょ?」
「そうでもない。火事場泥棒の成果があるんでね。あれだけあれば、どこか、よその国に行くまでは余裕で持つさ」
「成果って、そこで燃えてる袋のこと?」
「…………なぬ?」
振り向く。
いや。
すぐには、振り向けなかった。
あまりに至るところで燃えていたから、気づくことができなかったのか。
そんなことに気を取られている場合ではなかったから、この二体にだけ意識を傾けていたから、そのせいなのか。
恐る恐る、ゆっくりと、
亀のように、のろのろと、
最悪の事態を想像しながら、そんなことは起きないでいてくれと願いながら。
振り向く。
「────ぬああああああああ!!」
みっつあった、パンパンに膨らんでいたズタ袋。
そのうちのふたつが燃え、残るひとつに火が燃え移って──!
バシバシと叩いて火を消す。水なんぞ川から汲んでくる暇なんかない!
「やばいやばい!」
夢中で叩く。
その勢いに抵抗できず、火はすぐに消えた。
──しかし、失ったものは大きい。
大きすぎる。
二袋は火葬。
残る一袋は、上のほう、全体の四分の一ほどが無惨に焼けた。
残ったのはこれだけ。
あれほどあった、空腹を癒すアイテムや換金アイテムが、たったそれしか残ってない。
思わず、膝をつく。
もし気づくのが遅かったら、魔女から言われるのが遅かったら、何もかも失っていたところだった。
そんな風にポジティブに思いたいが、思えない。
「こんなことなら豪遊しとけばよかったよチクショーめ!!」と、どこぞの総統閣下みたいに叫びたくなるのを、こらえる。他人がいるのに発狂モード入るのは恥ずかしいからだ。
「……それだけで、何とかなりそう?」
「渋りながら食い繋げば、やれないこともない」
「やせ我慢しないの。素直に引き受けなさいな。私なら、この国の地理にも詳しいし、食べられそうな動物や果実も、少しくらいなら知識があるわよ? いざとなれば、あなたを抱えて長距離を飛んでもいいし……ね?」
と、言われた俺は。
一分ほど、黙って悩み。
観念して、俺は首を縦に振り、護衛任務を受けることにした。
こうして俺は、魔女と、なぜかしつこくつきまとうようになったガイノイドと共に、隣国へと旅立つことになったのだった──
というところで第一章完です




