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とても素敵な勇者様。  作者: はまちんぐ
第3章:暗殺ギルド壊滅と神話竜テイム編
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第15話:お盆と極大魔法

狂信的な部下たちによる「要塞の完全密閉化」という、サトーにとって最悪にして致命的な善意が実行されてから、数日の時間が経過していた。


王都の最下層、スラム街のど真ん中にそびえ立つ酒場『踊る豚亭』の内部は、太陽の光が一筋も差し込まない、完全なる暗黒と絶望の密閉空間と化していた。


唯一の換気口であった天井の隙間は、分厚い鋼鉄の板と強固な溶接魔法によって、文字通り一ミリの隙間もなく完全に封鎖されている。

空気の循環は完全に途絶え、店内にはシルヴィママが火にかけ続けている『超濃縮深海クラーケン・プロテイン』の強烈なアンモニア臭と、百名のならず者たちのむせ返るような汗と熱気が、逃げ場を失ってドロドロと滞留していた。


「ハァ……ハァ……。息が……空気が……重い……」


厨房の片隅で、サトーは三十キロの錆びついた全身甲冑を着込んだまま、床に這いつくばって極端に浅い呼吸を繰り返していた。


ただでさえ体力値が「3」しかない貧弱な肉体が、この極限の酸欠とサウナのような蒸し暑さによって、急速に生命力を削り取られている。

心臓は早鐘のように激しく脈打ち、こめかみの奥でドクンドクンと危険な血流の音が鳴り響き、視界は常に真っ黒に暗転したり、チカチカと点滅したりを繰り返していた。


しかし、そんなサトーの絶え間ない死へのカウントダウンなど露知らず、要塞化された酒場の内部では、常連客たちと狂信者たちによる奇妙な交流が繰り広げられていた。


「ウィーッ……。外の光が入らねえってのは、時間がわからなくて最高だなぁ。昼間から飲んでても罪悪感がねえや……。おい兄ちゃん、俺のジョッキにもう一杯注いでくれ」


カウンターに突っ伏したドワーフのドン・ガンが、顔を真っ赤にしてくだを巻く。

その横では、左遷魔術師のルーシーが「ふふふ……私の闇の魔力も、この暗闇の中でなら真の力を発揮できるわ……えいっ!」と、グラスの水を赤ワインに変える宴会芸を虚ろな目で繰り返している。

元・伝説の暗殺者であるポチに至っては、「この完全なる闇……我が暗殺術を極めるのに最適な修練場だ。スミス将軍、貴方様の用意したこの環境、我が血肉とさせていただきます」と、独り言を呟きながら、暗闇の中で音速の皿洗いを続けていた。


「おお! 常連の皆様も、将軍の用意されたこの『闇の修練場』の意図を正しく理解しておられるのですね!」


レオンが感動の涙を流しながら、ドン・ガンの空のジョッキにエールを注ぎ足した。


「太陽の光という甘えを完全に断ち切り、己の感覚のみを研ぎ澄ます究極の密閉空間! スミス将軍は、この酒場にいるすべての者の戦闘力を底上げするために、あえてご自身もこの過酷な環境に身を置かれているのだ! バルタ、我々も負けてはいられんぞ!」


「おうよ! 大将の背中を見てると、俺の血も沸騰してきやがる! 息が苦しいくらいがちょうどいいハンデだぜ! 野郎ども、スクワット一万回だ!」


狂戦士バルタの号令とともに、百名のならず者たちが狭い店内で一斉に激しい筋力トレーニングを開始する。

彼らの熱気と呼気が、ただでさえ薄い酸素をさらに奪い、酒場内の不快指数を限界突破させていった。


(死ぬ……。暗殺者に狙われる前に、確実に窒息死する……。こいつら、なんでこんな環境で普通に生きてられるんだ……。なんとかしないと。どこか、外の空気に繋がる抜け道を見つけないと……!)


サトーは、朦朧とする意識の中で必死に生存への道を探った。

一階のフロアも、二階の屋根裏部屋も、すべての窓と扉は分厚い鉄板で封鎖され、レオンとバルタ率いる部下たちが、瞬きすら惜しむように血走った目で監視を続けている。

地上からの脱出は、絶対に不可能だ。


(……待てよ。地下だ。地下の貯蔵庫ならどうだ?)


サトーの脳裏に、一条の希望の光が差し込んだ。

踊る豚亭の厨房の奥には、酒樽や食材を保管するための、古くてカビ臭い地下貯蔵庫が存在している。

その地下貯蔵庫の壁は、スラムの古い石積みで作られており、さらにその奥には、王都の地下を網の目のように張り巡らされている『古代の下水道』が隣接しているはずなのだ。


(あそこの石壁を崩して、下水道に穴を開けることができれば……! 新鮮な空気が吸える! うまくいけば、そのまま下水道を通って、誰も俺を知らない遠くの街へ完全に逃亡できるぞ!)


サトーは、極限の酸欠状態の中で、起死回生の脱出計画を閃いた。

運良く、シルヴィママからは「サトー、新しく煮上がったプロテインの樽を、地下の奥に運んで保管しておきなさいな。あんたの修行よ」という命令を受けていたところだ。

地下貯蔵庫に一人で籠もっていても、誰にも怪しまれることはない。


「よし……やるぞ。俺の平穏なモブ生活を、綺麗な空気を取り戻すんだ……!」


サトーは最後の力を振り絞って立ち上がると、自分よりも巨大なプロテインの木樽を台車に乗せ、カシャンカシャンと重々しい音を立てながら、地下貯蔵庫へと続く暗い階段を下りていった。


◆ ◆ ◆


ヒンヤリとした冷気が漂う、踊る豚亭の地下貯蔵庫。

地上階の地獄のような熱気と悪臭に比べれば、いくらかマシな環境ではあったが、依然として空気は淀んでおり、サトーの呼吸は苦しいままだった。


「ハァ、ハァ……。急ごう。誰かが見回りに来る前に、壁に穴を開けるんだ」


サトーはプロテインの樽を部屋の隅に押しやると、貯蔵庫の最も奥にある、ひときわ古びた石積みの壁の前に立った。

壁の表面にはびっしりと黒い苔が生え、石と石の間のモルタルは長年の湿気でボロボロに風化している。

これなら、腕力値2のサトーでも、硬い道具を使えば崩せるかもしれない。


サトーは、厨房からこっそりと持ち出してきた『巨大な鉄の肉叩きハンマー』を両手で構え、震える腕で石壁の隙間に向かって振り下ろした。


ガコンッ!

パラパラ……。


「よし! いける! 石が動いたぞ!」


サトーは歓喜に胸を震わせ、三十キロの甲冑の重さとテコの原理を利用して、石壁の隙間にハンマーをねじ込み、体重をかけて必死に崩し始めた。

それは、かつて地球のブラック企業で、終わりの見えないデータ入力作業を徹夜でこなしていた時の、あの血を吐くような単純作業の連続を彷彿とさせた。


ガコンッ! ゴリッ! ガコンッ!


(空気……! 酸素……! 自由……! 定時退社……!)


もはや何の呪文かわからない言葉を心の中で唱えながら、サトーは無我夢中で壁を叩き続けた。

心拍数は限界に達し、全身の神経が悲鳴を上げているが、生き延びたいという生存本能だけがサトーの身体を動かしている。


そして、作業を開始して小一時間が経過した頃。


ズゴゴゴゴゴ……ッ!!


突如として、サトーが叩いていた石壁の一角が、まるで砂上の楼閣のように、内側から崩落するように大きく崩れ落ちたのだ。


「うわっ!?」


サトーは慌てて後ずさりし、濛々と舞い上がる土煙が晴れるのを待った。

目の前には、人間がすっぽりと通れるほどの、巨大な暗い穴がポッカリと口を開けていた。


(やった! ついに下水道に繋がったぞ! これで外の空気が……!)


サトーが歓喜の涙を流し、兜のスリット越しに穴の奥を覗き込もうとした、その瞬間だった。


『……グルルルルルルル……』


穴の奥深くから、地響きのような、いや、星そのものが地殻の底で低く唸っているかのような、途方もなく恐ろしい獣の鳴き声が響いてきたのである。


「えっ……?」


サトーの全身の血液が、一瞬にして完全に凍りついた。

呼吸が止まり、心臓が極限の恐怖で激しく収縮する。


穴の奥から吹き出してきたのは、期待していた新鮮な空気などではなかった。

何百年、何千年もの間、光の届かない地下の底で澱み、圧縮され続けてきた、濃密で禍々しい『死の瘴気』と、肌を焼くような異常な熱気であった。


そして、果てしない暗闇の奥で。

巨大な二つの黄金色の眼球が、カッと見開かれ、サトーの矮小な姿を真っ直ぐに見据えた。


『……我が永き眠りを妨げる、愚かなる小さき者よ……』


その声は、空気を震わせる音ではなく、サトーの鼓膜を通り越し、直接脳髄を揺さぶるような圧倒的なテレパシーとして響いた。

穴の奥の暗闇が蠢き、その全貌がゆっくりと姿を現す。


それは、全長数十メートルにも及ぶ、岩とマグマで構成されたような巨大なドラゴンの頭部であった。

全身の鱗は鋼鉄よりも硬い黒曜石で覆われ、山のように巨大な顎の隙間からは、すべてを灰に変える超高熱の炎がチロチロと漏れ出している。


魔王軍の魔物などというチャチな次元ではない。

人間の歴史よりも遥か昔、神話の時代にこの王都の地下深くに封印されたと言われる、生きた災厄の化身。

『古代地竜(エンシェント・アース・ドラゴン)』であった。


(ヒィィィィィィィィッ!? な、なんだこいつ!? 下水道じゃないのかよ! なんで俺の家の地下に、ラスボスみたいなバケモノが埋まってんだよォォ!)


サトーは兜の中で白目を剥き、完全に思考がショートしてパニックを引き起こした。

腰が完全に抜け、その場にガシャンと尻餅をつく。三十キロの甲冑の重さもあり、もはや立ち上がることすらできない。


『……我は飢えている。千年の封印を破りし貴様の肉と魂、我が目覚めのささやかな糧として食らってくれよう……!』


古代地竜が、地盤そのものを揺るがすほどの咆哮を上げ、巨大な口をカパァッと大きく開いた。

その口内は、すべてをドロドロに溶かす超高熱のマグマの海である。近づくだけで甲冑の表面が赤熱し始めるほどの温度だ。


(殺される! 食われる! 跡形もなく溶かされる! 誰か! レオォォォンッ! バルタァァァッ! 助けてくれェェェ!)


サトーは無様に這いずりながら後ずさりしようとした。

しかし、極限の恐怖で手足の神経が完全に麻痺しており、思うように身体が動かない。


ジリッ、と。

サトーの後ずさりした鉄靴の踵が、背後の『何か大きな硬いもの』にぶつかった。


それは、先ほど自分が台車で運んできた、自分よりも巨大な木樽。

シルヴィママ特製の『超濃縮深海クラーケン・プロテイン(約百リットル)』が波々と詰まった、厳重に密閉された樽であった。


(あっ……!)


サトーが踵をぶつけた衝撃で、不安定な台車の上に載っていた巨大な木樽が、大きくグラリと傾いた。

そして。


ゴロゴロゴロゴロゴロッ……!!


なんとその巨大なプロテインの木樽が、台車から滑り落ち、サトーが開けた石壁の穴に向かって、緩やかな下り傾斜を猛スピードで転がり始めたのだ。


『……ム? なんだ、その小さな木箱は。我への供物のつもりか……? 愚かな。そのようなもので我が飢えが満たされるとでも……』


古代地竜は、自分に向かって転がってくる木樽を、人間が放った貧弱な魔法兵器か何かだと勘違いし、それを文字通り『丸呑み』にしてやろうと、マグマの口をさらに大きく開いた。


スポンッ!

ゴクンッ。


巨大なプロテインの木樽は、寸分違わぬ完璧な軌道で、古代地竜の大きく開いた喉の奥深くへと吸い込まれ、そのまま灼熱の魔力器官の奥底へと丸飲みされてしまった。


「ああっ! ママさんのプロテインが……!」

サトーが絶望の声を上げる。プロテインを丸々一樽も無くしたと知れれば、スクワット一万回の刑は免れない。自分が食べられる恐怖と、上司(ママ)に怒られる恐怖が拮抗している。


しかし。

奇跡は、いや、真の地獄の光景は、その直後に古代地竜の体内で引き起こされた。


『……ん?』


樽を丸飲みした古代地竜の動きが、ピタリと止まった。

その傲慢に満ちていた黄金色の眼球が、信じられないものを見たかのように、極限まで見開かれる。


ドグンッ……!


地竜の体内の超高熱マグマによって、飲み込まれた木樽が一瞬で燃え尽き、内部に圧縮されていた百リットルの『超濃縮深海クラーケン・プロテイン』が一気に解放され、瞬時に気化したのである。


深海クラーケンの生臭い触手の煮汁。

腐敗した謎の有毒ハーブ。

オークの骨髄のドロドロの脂。

それらが超高熱で一気に沸騰し、気化することで発生した、生物の存在そのものを根底から否定するような、究極の悪臭と劇物のガス。


それが、古代地竜の体内のすべての粘膜と繊細な神経細胞を、内側からダイレクトに破壊し尽くしたのだ。


『――――――――――――ッッッ!?!?!?』


古代地竜は、声にならない、悲鳴すら上げられないほどの凄まじい絶叫を上げた。

黄金色の瞳から、滝のような大粒の涙がボロボロと溢れ出し、硬い黒曜石の鱗が苦痛で波打つように逆立っている。

口からは、燃え盛るマグマの代わりに、紫色のブクブクとした激臭の泡を大量に吹き始めている。


(えっ……? な、なんかめちゃくちゃ苦しんでる……?)


サトーが唖然として見つめる中。

神話の時代から恐れられ、王都を一夜で滅ぼす力を持つはずの古代地竜は、あまりの不味さと、体内で爆発した致死量の悪臭ガスに耐えきれず、白目を剥いてその場にドスーン!と倒れ込んだ。


ズドォォォォォォォォンッ!!!!!


地下空間全体を激しく揺るがす、凄まじい地鳴り。

そして、古代地竜は、苦痛に身をよじらせながら、サトーの目の前で完全に仰向けになり、最も無防備な大きなお腹を天井に向けて晒して、ピクピクと痙攣し始めたのである。

それは、いかなる野生動物も絶対的な強者に対して見せる、完全なる『服従(降伏)』のポーズであった。


◆ ◆ ◆


「将軍ゥゥゥゥゥッ!! 何事ですかァァァ!」


地下からの凄まじい地鳴りと衝撃を感じ取り、レオンとバルタが血相を変えて地下貯蔵庫の扉を蹴り破って飛び込んできた。

彼らの後ろには、武器を構え、殺気を放つ百名のならず者部隊が続いている。


そして、彼らの目に飛び込んできたのは。


地下貯蔵庫の壁が大きく崩落し、その奥に広がる巨大な地下遺跡の空間。

そこで白目を剥いて紫色の泡を吹き、完全に仰向けになって降伏のポーズをとっている、神話クラスの巨大なバケモノ『古代地竜』の姿。

そして、その地竜の目の前で、三十キロの甲冑を纏ったまま、微動だにせず(※腰が抜けて動けないだけ)、静かに腕を組んで(※手が固まっているだけ)立ち尽くす、スミス将軍(サトー)の圧倒的な後ろ姿であった。


「こ、これは……!」

レオンが、白目を剥いている古代地竜と、サトーの背中を交互に見比べ、驚愕に息を呑んで後ずさりした。


「間違いない……。あの漆黒の鱗、あの圧倒的な魔力の残滓……。建国神話に語り継がれる、王都の地下に封印されし災厄、『古代地竜』だ! なぜこんな酒場の真下に……!」


「な、なんだと!? 神話のバケモノだと!?」

バルタが、自慢の戦斧を取り落としそうになるほど腕を震わせた。

ならず者たちも、本能的な恐怖で一斉に後ずさりする。


「そんなバケモノが復活しちまったら、王都なんて一瞬で灰になっちまうぞ! なのに大将は……剣すら抜いてねえぞ! いったいどうやってあのバケモノを倒したんだ!?」


「見ろ、バルタ!」

レオンが、床に転がっている『砕けた木樽の破片』と、地竜が口から吹いている紫色の泡を指差した。


「将軍は……この酒場の地下に、神話のバケモノが眠っていることを、遥か以前から完全に察知しておられたのだ! だからこそ、あえてこのスラムの酒場を我々の『要塞』に指定し、バケモノが目覚めるその瞬間を、たった一人で地下に籠もり、待ち構えておられたのだ!」


「なっ……! じゃあ、大将が毎日女将から作らされていた、あの強烈な悪臭を放つ『プロテイン』ってのは……!」


「そうだ!」

レオンが、全身の毛を逆立て、狂気に満ちた歓喜と畏怖の絶叫を上げた。


「あれはただの飲み物ではない! 古代地竜の魔力器官を内部から破壊し、その精神を完全に屈服させるために将軍が綿密な計算のもと調合を指示していた、対地竜用の『支配の秘薬(テイム・エリクサー)』だったのだ!

将軍は、剣を交えて王都の民に被害を出すことを避け、ただ一つの樽を投げ込むだけで、一滴の血も流すことなくこの災厄を完全に『調教(テイム)』してしまわれたのだ!!」


「ば、バケモノだ……! いや、神だ!」

バルタが、床に崩れるように膝を突き、サトーの泥まみれの鉄靴に向かって深く深く平伏した。


「神話のドラゴンを、一滴の血も流さずにペットにしちまうなんて……。大将の慈愛と底知れぬ軍略は、魔王軍どころか、この星の歴史すらひっくり返しちまうぜ……!」


「「「おおおおおおおおおおっ!! スミス将軍バンザイ!!」」」


百名のならず者たちが、腹を見せて気絶している巨大なドラゴンを見つめ、サトーの次元を超越した神業に、狂ったような感嘆と畏怖の雄叫びを上げた。


(違う! 違うってば! 息がしたくて壁に穴を掘ったら偶然バケモノが出てきて、俺がビビって樽を蹴っ飛ばしただけだよ! 秘薬じゃなくてただのクソ不味いスープだよ! お願いだから目を覚ましてくれドラゴン! お前まで俺の嘘に加担するな!)


サトーは甲冑の中で、全身の神経を焼き切られそうな恐怖でガタガタと激しく痙攣していた。

しかし、その小刻みな震えは、またしても彼らの目には「最強のドラゴンを服従させ、静かに支配の闘気を放ち続けている達人のオーラ」として完全に自動翻訳されていた。


「将軍……! 貴方様というお方は、我々の知らない暗闇の底で、たった一人で世界を救っておられたのですね!」


レオンが、サトーの足元にすがりつき、ボロボロと滝のような涙を流して感謝の言葉を紡いだ。

しかし、次の瞬間。レオンの顔がハッとして、何かを閃いたような最高に輝かしいものへと変わった。


「……素晴らしい! 気づかれましたか、バルタ! これで、我々の『踊る豚亭・完全要塞化計画』の、最後のピースが完璧に埋まりましたぞ!」


(えっ? レオン、お前まさか……やめろ、それ以上恐ろしいことを思いつくな……)

サトーの心臓が、ヒュッと冷たく縮み上がり、絶望のビートを刻み始める。


レオンは立ち上がり、血走った目で百名のならず者たちに高らかに宣言した。


「皆の者! 地上と空の防衛はすでに我々が完璧に固めた! そして今、スミス将軍の神業により、唯一の死角であった地下からの侵入ルートには、この『古代地竜』という絶対無敵の番犬(ガーディアン)が配置されたのだ!!」


「おうよォォォッ!! これで地下からどんな暗殺者のネズミが潜り込んできても、竜のブレスで一瞬で消し炭だぜ!!」


「これで将軍の要塞は、天と地、すべての死角が消滅した真の『絶対不可侵領域』となった! スミス将軍の御命は、我らとならず者と古代竜が、永遠に死守するぞ!!」


「「「スミス将軍バンザイ! 絶対要塞バンザイ!!」」」


地下空間に響き渡る、狂信者たちの熱狂的な大合唱。

そして、ようやく目を覚ました古代地竜までもが、サトーの姿を見るなり「ヒンッ……」と子犬のような情けない悲鳴を上げ、サトーの足元に巨大な頭をすり寄せて、尻尾を振りながら完全な服従の姿勢を示している。


「やめてええええええええええええええっ!!!」


サトーは兜の奥底で、完全に魂の形が崩壊し、細かい粉のようになって異次元の彼方へ消え去る音を聞いた。


逃げたかっただけなのに。

下水道からこっそり抜け出して、自由な空気を吸いたかっただけなのに。

その切実な命がけの行動が引き起こした奇跡的な『古代竜の餌付け』によって、最後の脱出ルートは完全に、そして物理的に「最強の番犬」によって塞がれてしまったのだ。


地上は百名の狂信者。

空は鋼鉄の装甲。

そして地下には、サトーを恐れて一歩も外に出そうとしない神話のドラゴン。


もはや、サトー自身が外に出ることすら、絶対に不可能な『真の監獄』。

それが、サトーの今後の生活環境として、永遠に確定してしまったのである。


(もうダメだ……逃げ道が……どこにもない……。俺は一生、このドラゴンと一緒に、地下室の底で息を詰まらせて生きていくんだ……。誰か、嘘だと言ってくれ……)


最強の特務大将としての伝説が星の歴史を覆すほどに高まれば高まるほど、彼の脱出の希望は極限のマイナスへと突き進んでいく。



―――つづく。




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