↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/23

第14話:密室と熱湯飛沫

アーゼンベルフ王国の最下層、スラム街のど真ん中にそびえ立つ酒場『踊る豚亭』は、もはや酒場などという牧歌的な代物ではなくなっていた。


前夜、暗殺ギルド【幻影蜘蛛】の襲撃(※サトーが転んで熱湯プロテインをぶちまけただけの事故)を重く見たレオンとバルタの指示により、王都中の鉄板と魔導結界石が買い占められ、建物全体が分厚い鋼鉄の装甲で完全に覆い尽くされたのだ。


屋根も、壁も、そして僅かな外の光を取り入れていた小さな窓すらも、分厚い鉄板と太いリベットで何重にも封鎖され、太陽の光は一筋たりとも内部に入り込まなくなっていた。


結果として、現在の踊る豚亭の内部は、昼夜の区別すらつかない『完全密閉の暗黒要塞』と化していたのである。


その鋼鉄の要塞の扉の前で、レオンとバルタは直立不動のまま、鋭い眼光でスラムの闇を睨みつけていた。


「……なあ、レオン。時々、夢を見てるんじゃないかって思うことがあるぜ」

巨大な戦斧を地に突き立てたまま、狂戦士バルタがポツリとこぼした。その顔の巨大な傷跡が、松明の炎に赤く照らされている。


「一ヶ月前まで、俺は上官を殴り殺しかけて懲罰房で腐っていた、ただの狂犬だった。お前は、腐敗していく王国の軍隊で、絶望を抱えながら見回りをしているだけの小隊長だった。……だが今はどうだ。俺たちは、世界最強の英雄の直属部隊として、大陸中の暗殺者を相手にこの要塞を守っている」


「……ああ。すべては、スミス将軍との出会いが変えてくれたのだ」

レオンは銀の剣の柄を固く握りしめ、熱を帯びた声で応じた。


「我々は幸運だ、バルタ。あの御方は、どれほどの権力や富を提示されても決して王宮の贅沢に染まろうとはしない。あえてこのスラムの薄暗い密室に身を置き、己の精神と肉体を極限まで追い詰める『狂気の修行』を続けておられる。……今この瞬間も、厨房という名の密室の中で、我々には想像もつかないほどの高度な精神統一と、魔力制御の訓練を行っているはずだ。我々にできるのは、将軍のその神聖な時間を、命に代えても守り抜くことだけだ」


「違いねえ。大将の背中を見てると、自分の未熟さが恥ずかしくなってくるぜ。よし、野郎ども! アリの一匹もこのバリケードを通すんじゃねえぞ!」


狂信者たちの士気は、サトーの沈黙によってさらに神格化され、天井知らずに高まり続けていた。


しかし。

彼らが「高度な精神統一」と信じて疑わないその厨房の内部で、当のサトーは、文字通り生死の境を彷徨う決死のサバイバルを繰り広げていたのである。


(暑い……。息苦しい……。空気が……空気が最悪すぎる……!)


厨房の片隅で、サトーは三十キロの錆びついた全身甲冑(フルプレートアーマー)を着込んだまま、酸欠の金魚のように口をパクパクとさせていた。


ただでさえ風通しが完全にゼロになった密閉空間に、シルヴィママが火にかけっぱなしにしている『超濃縮深海クラーケン・プロテイン』の強烈なアンモニア臭と、厨房の手伝いをしている筋肉質なならず者たちが発する男たちの汗と熱気が充満しているのだ。

換気扇などという便利な電化製品が存在しない異世界において、この密閉空間は文字通り地獄の蒸し風呂、あるいは有毒ガスの実験室であった。


甲冑の内部温度は、すでに四十度を優に超えているだろう。全身の毛穴から噴き出した汗が、鉄靴の底に水たまりを作っているのがわかる。


(もう限界だ……。酸素がない。息を吸うたびに、腐った魚の臭い肺にこびりつく。このままじゃ暗殺者に殺される前に、熱中症と一酸化炭素中毒で確実に死ぬ……)


サトーの心臓は、危険を知らせる非常ベルのようにドクンドクンと激しく打ち鳴らされ、呼吸は極端に浅く、視界の端がチカチカと真っ黒に暗転し始めていた。

神経が限界まですり減り、前職のブラック企業で社長に怒鳴り散らされていた時の幻聴すら聞こえ始めている。


(空気が吸いたい。ただ一口でいい、新鮮な空気が……。どこか、一箇所くらい外気に繋がってる隙間はないのか……?)


サトーはフラフラと立ち上がり、壁沿いを這うようにして厨房の奥へと向かった。

すると、天井近くの壁の高い位置に、かつて換気用に取り付けられていた小さな『通風口』があるのを発見した。

そこも外側から分厚い鋼鉄の板で塞がれていたが、バルタたちが大急ぎで突貫工事を行ったためか、板と壁の間に、ほんの数ミリだけ、微かな隙間が空いているのが見えた。


(あそこだ! あの鉄板の隙間を何か硬いものでこじ開ければ、外の空気が吸える! 太陽の光が見える!)


サトーは、広大な砂漠のど真ん中でオアシスを見つけた遭難者のような虚ろな目を輝かせた。


◆ ◆ ◆


その頃。

踊る豚亭から直線距離にしておよそ三キロ離れた、王都を見下ろす小高い岩山の上。


『……目標、スラム街の鋼鉄の要塞。座標の完全固定を完了しました』


黒い軍服に身を包んだ魔王軍の砲兵が、巨大な機械仕掛けの兵器に組み込まれた精密な照準器を覗き込みながら、震える声で報告した。


『うむ。ご苦労』


その報告を背中で受けたのは、身長三メートルを超える四本腕の巨大な魔族。

魔王軍・戦略遠距離砲兵部隊の最高司令官、『邪眼のゴリアテ』であった。


彼の目の前には、全長十メートルにも及ぶ、禍々しい漆黒の砲身を持つ超巨大な大砲が設置されていた。

魔王軍が誇る、城塞殲滅用・戦略魔導兵器『極大殲滅魔力砲(アナイアレイション・カノン)』である。

莫大な量の高純度魔石を動力源とし、小山を一つ丸ごと吹き飛ばすほどの超高熱プラズマを、音速の三倍の速度で撃ち出す、まさに必殺の戦略兵器だ。

本来であれば、人間の王都そのものを陥落させるための最終兵器である。それを、たった一つのスラムの酒場に向けるなど、本来の軍事常識からすればあり得ない暴挙であった。


しかし、ゴリアテの顔に余裕はなかった。彼の巨大な額からは、滝のような冷や汗が流れ落ちている。


『司令。いくらなんでも、たった一人の人間のために、この極大魔力砲を撃つなど……魔王様の許可は得られるのでしょうか?』

副官が恐る恐る尋ねるが、ゴリアテは四本の腕をギリッと強く握りしめ、血走った目で眼下の王都を睨みつけた。


『馬鹿め、わかっておらんのか! あの鉄仮面の男……特務大将スミスは、もはや個人の武力という次元を超越したバケモノなのだ!』


ゴリアテの声には、隠しきれない恐怖が滲んでいた。


『魔将ザルバ様を屠り、我らが最大の兵站基地を一瞬で灰にし、あまつさえ大陸最強と謳われた【黒き牙】と【幻影蜘蛛】の精鋭たちを、手傷一つ負わずに全滅させただと? ……あんな存在をこのまま生かしておけば、魔王軍の士気は根底から崩壊する! 奴は運命そのものを捻じ曲げる悪魔だ! 真正面から剣を交えれば、我々もまた不可解な死を迎えることになる!』


ゴリアテは、三キロ先の豆粒のように小さく見える鋼鉄の要塞(踊る豚亭)に照準を合わせ直した。


『ならば、奴の知覚能力の遥か外側……三キロという絶対の死角から、要塞ごと、あの男が存在する空間そのものを跡形もなく蒸発させるのみ! 音速の三倍を超える我が魔力砲の光線は、発射音を聞くよりも早く標的に着弾する! いかに神がかった反射神経を持とうとも、飛来に気づくことすら不可能な絶対の死だ!』


『ゴリアテ司令! 魔力炉の臨界点、突破します! いつでも発射可能です!』

砲兵が絶叫する。

巨大な大砲の砲口に、太陽をそのまま圧縮したかのような、直視できないほどのまばゆい極光が収束し始めていた。


『ククク……さらばだ、人間の英雄よ! 貴様の無敗伝説も、今日この瞬間に完全に終わる! 撃てェェェェェッ!!!』


ゴリアテの咆哮とともに、巨大な引き金が引かれた。


◆ ◆ ◆


一方、その絶体絶命の数分前。

完全密閉された暗黒の厨房の中で、サトーは決死のサバイバルを繰り広げていた。


(届かない……。あと少しなのに、高すぎて手が届かない……!)


サトーは、厨房の隅にあった空のワイン樽を三つ重ねて即席の足場を作り、三十キロの甲冑をガシャンガシャンと鳴らしながら、必死の思いでその上に登っていた。

ぐらぐらと激しく揺れる不安定な足場の上で背伸びをし、天井近くの通風口の隙間に向かって、プルプルと震える両手を伸ばしている。


サトーの右手には、一枚の巨大な『銀の配膳盆』が握られていた。

それはつい先ほど、元・伝説の暗殺者であるポチが、自身の持つ『暗殺対象を鏡のように映し出す隠密研磨術』のすべてを注ぎ込み、光子レベルでチリ一つなくピカピカに反射するまで完璧に磨き上げた、特大の純銀製のトレイである。


(このお盆のフチを、あの鉄板の隙間にねじ込んで、テコの原理で押し開けるんだ! そうすれば、新鮮な空気が……俺の肺に、待ちに待った酸素が……!)


サトーは、酸欠でチカチカと明滅する視界の中で、震える両腕で銀の配膳盆を構え、通風口の数ミリの隙間めがけて、渾身の力を込めてその縁を突き立てた。


ガチィィッ!!


「入った……! 隙間に、お盆が挟まったぞ!」


サトーは歓喜に胸を震わせ、そのまま全体重をかけて、配膳盆を斜め四十五度下へ向かってグググッ!と押し下げた。

分厚い鋼鉄の板が、軋むような音を立てて外側へ向かってわずかに歪み、数十センチほどの隙間がパックリと口を開けた。


その瞬間。

塞がれていた隙間から、外の新鮮な空気がヒュオオオッ!と勢いよく厨房内へと流れ込んできた。


(あああっ! 空気だ! 酸素だ! 生き返るゥゥゥ!)


サトーは通風口に顔を近づけ、兜のスリット越しに、まるで砂漠で何日も彷徨った末に水を飲むように、その冷たく新鮮な空気を肺の奥底まで深く、深く吸い込んだ。


そして、彼が幸せの絶頂で大きく息を吸い込んだ、まさにそのコンマ数秒のタイミングであった。


三キロ先の岩山から放たれた、音速の三倍で飛来する超高熱のプラズマ光線。

視認することも、回避行動をとることも絶対に不可能な、完全なる死の光。


その致死の極光が、踊る豚亭の厨房に向かって、寸分違わぬ悪魔的な精度で突き刺さろうとしたのである。


しかし。

その光線の直撃コース上には、サトーが通風口をこじ開けるためにテコとして挟み込み、全体重をかけて押し下げていた『完璧な四十五度の傾斜角』を保つ、鏡のようにピカピカに磨き上げられた『特大の純銀の配膳盆』が存在していた。


ズッッドォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


鼓膜が物理的に粉砕されるような、この世のものとは思えない規格外の轟音が、サトーの目の前で弾けた。


「ひぎゃあああああああああああああっ!?」


サトーの目の前、わずか数十センチの距離で、巨大な太陽が至近距離で爆発したかのような超絶的な閃光が弾けた。


飛来した極大プラズマ光線は、ポチの神業によって分子レベルで平滑に磨き上げられていた純銀の配膳盆の表面に直撃。

そして、サトーがテコの原理で押し下げていた『完璧な四十五度の傾斜角』によって、光線の莫大な破壊エネルギーは一ミリたりとも相殺されることなく、完全に鏡面反射(パリィ)されたのだ。


「あばばばばばばっ! 熱い! なに!? 雷!? 目がァァァ!」


凄まじい衝撃波と反動がサトーの両腕を襲い、足場にしていたワイン樽が木っ端微塵に砕け散った。

三十キロの甲冑を着たサトーは、純銀の配膳盆を両手で強く握りしめたまま、空中で無様に回転し、厨房の床に積まれていた亀の甲羅の山の上に、ガシャンッ!と派手に墜落した。


◆ ◆ ◆


一方、その頃。

三キロ離れた岩山の上で、魔王軍の司令官ゴリアテは、完全なる勝利の確信とともに高笑いを上げていた。


『フハハハハハ! 撃ち抜いたぞ! いかにスミスといえども、この距離からの光速の砲撃を防ぐことなど絶対に不可能! 要塞ごと跡形もなく消し飛んだわ!』


ゴリアテの言葉は、最後まで続くことはなかった。


彼がスコープ越しに見つめていた、鋼鉄の要塞。

そこから、放ったはずの極大プラズマ光線が、全く同じ軌道、全く同じ速度で、自分たちの方へ向かって一直線に『跳ね返ってきている』のが見えたからだ。


『……は? 反射、した……? 手鏡ほどの的で……戦略魔力砲を……?』


魔王軍が誇る最高司令官が、その生涯の最後に漏らした言葉は、あまりにも間抜けで絶望的な一音だった。


ピカァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!


次の瞬間。

岩山の頂上に、王都のどこからでも目視できるほどの、巨大で禍々しい火柱と極彩色のキノコ雲が立ち昇った。


自らが放った城塞殲滅用の極大プラズマ光線の直撃を受け、魔王軍の戦略遠距離砲兵部隊は、巨大な魔力砲もろとも、たった一瞬で完全に蒸発し、分厚い岩山ごと木っ端微塵に消し飛んだのである。


◆ ◆ ◆


「将軍ゥゥゥゥゥッ!! 何事ですかァァァ!」


厨房での凄まじい爆発音と、建物全体を根本から揺るがす強烈な衝撃波を感じ取り、レオンとバルタが血相を変えて厨房の扉を蹴り破って飛び込んできた。


彼らの目に飛び込んできたのは。


亀の甲羅の山の上に仰向けに倒れ込み、微動だにしないスミス将軍(サトー)。

その両手には、超高熱のプラズマを反射した影響で、ドロドロに赤熱して半ば溶けかかっている『純銀の配膳盆』がしっかりと握りしめられている。

そして、将軍の頭上、通風口のわずかな隙間からは、三キロ先の岩山が巨大な火柱を上げて大爆発している光景が、はっきりと見えていた。


「こ、これは……!」

レオンが、赤熱する配膳盆と、遠くのキノコ雲を交互に見比べ、驚愕に両目を見開いて後ずさりした。


「間違いない……。あの岩山から立ち昇る凄まじい魔力の残滓、あれは魔王軍の戦略兵器『極大殲滅魔力砲』だ! 敵は三キロも離れた完全な死角から、この要塞ごと我々を蒸発させようと狙撃を仕掛けてきたのだ!」


「な、なんだと!? 三キロ先からの狙撃だと!?」

バルタが、自慢の戦斧を取り落としそうになるほど太い腕を震わせた。


「音速の三倍で飛んでくる魔力砲だぞ!? 発射の光を見てからじゃ絶対に防御なんか間に合わねえ! なのに大将は……」


「そうだ!」

レオンが、全身の毛を逆立て、狂気に満ちた歓喜と畏怖の絶叫を上げた。


「将軍は、敵の狙撃手の殺気と、引き金を引くコンマ数秒のタイミングを、三キロの距離を超えて完全に先読みされていたのだ! そして、一切の防御魔法を使うことなく、ただ手元にあった『配膳盆』を完璧な角度で構え、飛来する極大魔法を真っ向から鏡面反射(パリィ)してのけたのだ!!」


「ば、バケモノだ……!」

バルタが、床に崩れるように膝を突き、溶けかかった配膳盆を握りしめるサトーに向かって、深く深く平伏した。


「音速の三倍の砲撃を、ただのお盆一つで跳ね返して敵陣を消し飛ばすなんて……。もはや神の領域だ。大将の知覚能力は、この大陸のすべてを覆い尽くしてるってのか……。俺たちは、とんでもない男を主君にしてしまったぜ……!」


「「「おおおおおおおおおおっ!! スミス将軍バンザイ!!」」」


物音を聞きつけて集まってきた百名のならず者たちが、遠くで燃え盛る岩山の炎を見つめ、サトーの次元を超越した神業に、狂ったような感嘆と畏怖の雄叫びを上げた。


(違う! 違うってば! 息がしたくて換気口を開けようとしたら、急に目の前で爆発しただけだよ! お盆はテコに使ってただけだよ! 手が痺れてお盆が離せないんだよォォ!)


サトーは亀の甲羅の山の上で、全身の神経を焼き切られそうな恐怖でガタガタと激しく痙攣していた。

しかし、その小刻みな震えは、またしても彼らの目には「極限の反射(パリィ)を成功させ、静かに闘気の余韻を散らしている達人の姿」として完全に自動翻訳されていた。


「将軍……! 貴方様というお方は、我々が気づくことすらできない遥か遠方の危機から、常にこの身を挺して守ってくださっているのですね!」


レオンが、サトーの足元にすがりつき、ボロボロと滝のような涙を流して感謝の言葉を紡いだ。

しかし、次の瞬間。レオンの顔がハッとして険しいものへと変わった。


「……しかし、敵は我々の想像を絶する長距離から命を狙ってきていることが明白となりました! このわずかな通風口の隙間ですら、将軍の命を脅かす致命的な弱点です!」


(えっ? レオン、お前まさか……やめろ、それ以上考えるな……)

サトーの心臓が、ヒュッと冷たく縮み上がり、絶望のビートを刻み始める。


レオンは立ち上がり、血走った目で百名のならず者たちに怒鳴りつけた。


「皆の者! 敵の狙撃はまだ続くかもしれん! 直ちにこの通風口の隙間を、鋼鉄の楔と溶接魔法で完全に、一ミリの隙間もなく完全に封鎖しろ! スミス将軍の御命を守るため、この要塞を真の『完全密閉の鉄の棺』へと昇華させるのだ!!」


「おうよォォォッ!! 大将の身体に、外の風一吹きすら当てさせねえぞ!!」


バルタとならず者たちが、熱狂的な咆哮とともに、巨大な鉄板と溶接の道具を持ち出し、サトーが命がけでこじ開けた唯一の空気穴を、ガツンガツンと完全に塞ぎ始めた。


「やめてええええええええええええええっ!!!」


サトーは兜の奥底で、完全に魂の形が崩壊し、細かい粉のようになって宇宙の果てへ消え去る音を聞いた。


息がしたかっただけなのに。

新鮮な酸素を、一口だけ吸いたかっただけなのに。

その切実な命がけの行動が引き起こした奇跡的な『配膳盆パリィ』によって、部下たちの防衛意識はさらに、もはや重篤な病的な領域へと暴走してしまった。


唯一の換気口は完全に溶接され、一筋の光も、一陣の風も入らない、正真正銘の完全密閉空間。

それが、サトーの今後の生活環境として永遠に確定してしまったのである。


(もうダメだ……空気が……酸素がない……。俺は一生、この臭い鎧を着たまま、息を詰まらせて生きていくんだ……)


最強の特務大将としての伝説が天を突くほどに高まれば高まるほど、彼の生活環境は極限の酸欠地獄へと突き進んでいく。



―――つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。