第二十六章 明け方の変動
明後日の朝は、予告なく来た。
計算の通りではなかった。
変動は朝ではなく、夜明けの三時に来た。カイが予測した時刻より、四時間早かった。
「カイ」
通信機が鳴った。ブラスだ。
「変動が来た。施設のハブに。三時二分」
「確認した」
計算機を開いた。変動のパターンを読む。
遮断した電波塔の経路ではない。別の経路だ。
「……別口だ」
カイは画面を凝視した。どこから来ている。
北区画ではない。東だ。東区画に、何があるか。
計算機に地図を展開した。東区画の施設一覧。治安端末の関連施設。
あった。
情報端末の管理施設だ。
「情報端末」
カイは計算機を叩いた。情報端末と治安端末の接続構造。禁書の記録を照合する。
一致した。
「情報端末から経路が来ている。電波塔が遮断されたら、情報端末を迂回路にした。昨夜の遮断に、今夜中に対応してきた」
ブラスから返信が来た。「時間は」
「発動まで、二時間から三時間だ。今夜動くか、明朝動くか、どちらかだ」
「どうする」
カイは画面を見た。
二時間から三時間。今夜中に情報端末の接続を遮断するか。待って、発動に合わせて原振の檻を守るか。
計算する。
だが、計算の前に、何かが動いた。
今夜、ヴァルクは計算している。カイが電波塔を遮断したことを知った上で、別経路を用意していた。三時間で対応した。
カイが計算している間に、ヴァルクも計算している。
計算で追いつこうとすると、相手も計算で応じる。
「……ミラ」
「うん」ミラが本棚から出てきた。
「金属片を持ってくれ」
ミラが鞄から金属片を取り出した。手の中で、振動が伝わってくる。
「今、何と言っているか」
「急いで、って。でも……なんか、怖くない感じがする」
「怖くない?」
「うん。なんか、大丈夫、って感じもする。急いでるけど、大丈夫、っていう両方がある感じ」
カイはその言葉を処理しようとした。
大丈夫。急いでいる。その両方。
「計算は間に合わないかもしれない」カイは言った。
「うん」
「だが、動く」
「うん」
カイは通信機を取った。
「ブラス、全員集めてくれ。今夜動く」
「理由は」
「計算より先に動かれる前に、こちらから動く」
少しの間があった。
「分かった」
カイは計算機を鞄に入れた。記録書を一枚、持った。禁書を二冊、選んだ。
「ミラ、金属片を持ってくれ」
「うん」
「タウに連絡を入れる。今夜、歌が必要になる」
「分かった」
ミラが通信機を取った。タウへの文を送る。
カイは記録書の今夜の欄を開いた。一行だけ書いた。
「計算が完了する前に動く。初めて。理由は説明できない。だが、間に合う気がする。根拠はない。それでも動く」
ペンを置いた。
扉を開けた。
帝都の夜気が入ってきた。冷たかった。だが、鞄の中の金属片が、確かに熱かった。
カイは、夜の帝都に出た。




