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鳴素の共鳴  作者: 佐々木勇二


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第十章 覚醒

山の塔の最深部。彼は塔のシナプスに指先を浸した。祈るように。

膨大な鳴素が逆流した。視界が白く染まり、力が満ちていく。胸の奥で、何かが熱を帯びた。正しいと思っていたことが、もっと正しく、純粋に、輝いて見えた。迷いが溶け、疑いが蒸発する。これこそが、秩序だ。これこそが、救いだ。

それが、危険な兆候だとは——気づかなかった。

軍事施設の守備隊を、言葉一つで跪かせた。

「争いは無意味だ。私に従え」

従った者たちの瞳から、光が消えていくのを、彼は静かに見つめた。

二つの塔が、彼の思念に染まった。溢れ出した支配の波紋は、止まることを知らず、次なる四つの楔へと手を伸ばす。四つの塔が彼の思念に侵食され始めた瞬間、世界の基底振動が、大きく歪んだ。

振動が、跳ねた。

塔の中で、何かが噛み合わない。

声が重なる。一つじゃない。絡まって、途切れながら、直接、脳に届く。

『……違う』  『……それは』

『……押しつけるな』

波がぶつかる。弾く。拒む。

「……何だ」

彼の思念が、揃わない。同期しない。受け付けられない。

『……共鳴、では……ありません』

低く、沈む。どこからでもない。

「私は世界を救おうとしている。秩序こそが——」

言葉が、裂けた。

振動が内側から押し返してくる。強制しようとした波が、逆流する。

その瞬間。脳裏に浮かんだのは、あの夜の光景だった。

隣人が隣人を殴っていた。友人が友人のものを奪っていた。

誰も悪人じゃなかった。ただ、怖かっただけだったのかもしれない。

自分と、同じように。

「……私は、ただ」

拒絶の波が、内側から弾けた。

塔が、答えた。静かに。一言だけ。

『器ではない』

「黒」の存在が、霧散した。

最後に残ったのは、答えの出ないまま消えていく、一つの問いだけだった。

「……私は、何を恐れていた?」

静寂が、すべてを包んだ。

しかし、事態は止まらなかった。主を失った七つの塔は、誰の意志にも従わないまま、ただ振動を流し続けていた。世界から感情がゆっくりと抜け落ち、人々の顔から色が消え、街の音が薄くなっていく。

その夜、三人は荒野の端にいた。

遠くの共鳴尖塔が、一つ、また一つと赤く染まっていくのが見えた。レムは手帳を胸に抱いたまま、黙って空を見つめていた。ゼンは地面に腰を下ろし、短い棒で土を突いていた。タウは少し離れた場所で、膝を抱えていた。

しばらく、誰も何も言わなかった。

タウが、ふと息を吸った。

小さな、息のようなハミングが零れた。父が庭の挿し木の前で歌っていた、あの歌。震える声で、それでも確かに届けようとしていた旋律。

タウの声は弱く、途切れがちだった。でも、夜の冷たい空気に、静かに溶けていった。

レムは手帳から顔を上げた。ゼンは棒を動かす手を止め、火のない地面を見つめたまま耳を傾けた。

タウは歌を止めず、最後の一節まで静かに歌い切った。

ハミングが消えたあと、風だけが三人の間を抜けていった。

赤く染まる尖塔が、静かに脈打っていた。

「……行くぞ」

三人は立ち上がり、夜の道を歩き出した。



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