10月26日(水) エメラーダ
どれだけ一生懸命貯めても気付けば振り出しに戻る、だ。金なんてすぐに無くなるもんだな。
ストライキか。思ったよりも大事だね。時々ネクタイの染み抜きとかもお願いしてたから困ったな。
寝泊まりしていた奴らはリネン室を追い出されて、閉鎖中の317号室に移った。一々クロックに告げ口したりしないけど、ホイスト辺りが知ったら点数稼ぎでチクったりするかも。そうなるとまた、お前がしたみたいに脅しつけなきゃいけなくなる。
でも、しばらくは大人しくしてるだろうけどね。あいつ、今日のシフトは休むって。代わりに俺が連勤してる。相当ひどく懲らしめたんだな。マルキに聞いたら、話をするだけなのにぶるぶる震えてた。
お金がないって、チェリーが正直に教えてくれた。しゃぶったら黙っててくれるのか、何とかしてくれるのかって言われたから、そんな事しなくていい、誰だってツイてない時はそんなもんだ、困ったならペーシャン通りのYMCAに行けばいいって住所を教えておいた。
アルクディアも最近、ミス・オーロラに首ったけで他の女になんか見向きもしないしな(あいつが荷物をまとめて帰宅してくれて本当に助かった。俺が仮眠してても、ヘッドホンを付けずに大音量で動画を見たりするんだから)
ミスター・スプリッツァーは明後日には戻れそうらしい。腐ってもエルフの血が混じってるから、そう簡単にくたばることはないだろう。
406号室はもう、1匹目の赤ん坊が生まれた。今日1311号室をチェックアウトした吸血鬼から処分するよう頼まれた死体を、ベビーフードとして引き渡してある。この調子ならもう1、2体は必要かもしれない。ヤク中の屍はやめてくれって頼まれてる。
ミス・ウィング・ハートはようやくベッドから出られるようになったみたいで、今日はサイレント・サードの爺さんとチェスをしていた。薬を絶った訳じゃないみたいだけど、ああ言うのって、気に掛けてくれる誰がいたら、少しは律しようって気になるものだろう。
901号室からサンドイッチのルームサービスがオーダーされたんだけど、レッドスナッパーへ取りに行こうと思ったら、マティが持ってきてくれた。ついでに俺の分もツナ・サンドを作ってきてくれたんだ。2匹で昼休み、中庭で食った。今はニレもちょうどいい塩梅に色付いているし、秋風も涼し過ぎずにちょうどいい。
彼女は長く着込んでよく手入れされた、とっても柔らかくてシックなラムレザーのジャケットを、レースのタイトスカートの上から羽織っていた。仕事中はジーンズとネルシャツでいかにも西海岸風なのに、オフの時はハッとなるおしゃれな服を着ている。元旦那はあんな優しく魅力的な子をいじめたなんて、信じられない。
アズールはお前がほとんど料理なんか出来ないって知ってて、レシピを教えてくれたのかな。ちゃんと作ったって報告して、写真を送ってやれよ。また怒られるぞ。
俺も一通り見てみたから、簡単そうな奴から試してみるつもりだ。大部分が手の込んで、仕事からへとへとになって帰って作ってみる気はとても起こせないものだけど……あいつらしいよ。
昼過ぎに警察が訪ねてきた。25番街のゲイバーで多発している連続失血死事件に、吸血鬼が関わっているんじゃないか、心当たりはないかって。知らないと答えておいたけど、ここのところ吸血鬼も、人間に目をつけられるような下手なやり方をする奴も増えてる。ホテルでだってそうだ。昔なら淘汰されているだろう弱い奴らも、最近は隙間を縫うようにして細々と生きているから、それだけ玉石混交になるんだろうな。俺はエクソシストなんか大嫌いだけど、迷惑な奴らを片付けてくれるなら……いや、近頃はエクソシストだって駄目だ。この前みたいなモグリの配信者もいる。
それと、ここのところ小人や妖精の密猟者が多いから注意しましょうってチラシも置いていった。803号室の子達に渡しておこうかな。
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