10月27日(木) アコーダンス
スペイン風邸宅の物件管理人に電話をした。滞在開始時期を伝えて、頭金として3000ドルを渡せば、3ヶ月は仮押さえをしてくれるらしい。このままじゃ埒が開かない。いっそのこと金のことは一旦脇へ置いておき、時間を区切って動いてみるのも良いかもしれん。短期集中型だ。
そもそも俺達は、昔から走り続けていないと死ぬ性格なんだ。この都会でぬるま湯じみた生活へ浸かっていってすっかり忘れていたが。リュートン高校が誇る恐怖のランニング・バックコンビとして、デトロイト中の選手を震え上がらせた時代を思い出す必要がある。
チェリーはすっかり憔悴している。とにかく、ミスター・スプリッツァーは足の親指を失った以外は、ほぼ五体満足で戻ってくるんだろう。ならきっと、どうにかなるさ。俺もまた、適当に顔を出す。
マティはお前に随分アタックしてるじゃないか。応えてやればいい、男が廃るぞ。それに、彼女とファックすれば、南の島で抑制剤を使う試験にもなる。
711号室のスコッティの背中に乗って、妖精達がベランダからベランダへと歩き回っている。近頃物騒だ、そうでなくても、ここは決して治安のいい場所じゃないんだから気をつけろと注意した。なのにドロレスと言やあ、とんでもなく無邪気な目をしたまま首を傾げて、「なにかあったら、アコードやエメがまもってくれるでしょう?」と来る。お手上げだ。
そもそも彼女達があんなに能天気なのは、お前が甘やかすからだ。この前もフォンダンショコラをサービスしてやってただろう。シャーリーが靴に溶けたチョコレートを付けて、フロントの上に足跡を作ってたぞ。今度のハロウィンで菓子をやるのに、有り難みが薄れる。
何よりも悪いのは、小さい頃からいい目を見させれば、そうされるのが当然と思うようになることだ。あの子達のためにも良くはない。
1217号室のミセス・ティフィンは、オーダーで氷嚢を持っていったお前に目を付けている。3人でしないかと誘われたが、断っておいた。彼女は人間で、無知だ。何か、盛大な勘違いをいくつかしているらしい。
1006号室は人狼で、粘着テープクリーナーをオーダー。自分でいくらか掃除したらしいが焼石に水で、ベッドなんざ悲惨極まりない。とはいえ、その心掛けは立派だ。お前も彼女を見習え。今度アマゾンでクリーナーを買ってやるから、仮眠室に常備しろ。
ゲイバーを捜査しているおまわりは今日も顔を見せた。どうやら権利団体から突き上げを喰らって、熱心に捜査をしているらしい。被害者の写真を見たが、確かに吸血鬼だ。牙はデカいが、最近は自分の牙のサイズへコンプレックスのある奴も多いから、グリルズを嵌めている可能性もある……そう考えれば、吸血鬼とも断定は出来ないか。
トーピードからテキストがあった。予定が狂わなければ、来月の頭に帰ってくるらしい。それまで荷物は預かっておいてくれとのことだ。
彼女、お前の肺のことを心配してたぞ。CPはそこまで軟弱じゃない、とっくに完治したと伝えてあるが。
お前は昔からトーピードに可愛がられていた。そもそも、SOGの超自然種族部隊で最先任上級曹長だった彼女と、最初に知己を得たのはお前だったからな。本格的に鍛えられたのは、除隊後にフラフラとあちこちを旅して、このニュー・アンジェへ流れ着いた時だったが。
それに、彼女は童顔が好みだ。お前のそのタッパでベビーフェイスもクソもあるかと思うが、まあ、彼女はトーピードだからな。考えていることはよく分からん。
何で俺がこんなお前のことへ一々拘わされなきゃならん。思えば昔からずっとそうだ。高校生の頃も、俺が行く手を阻む敵を潰してやっている間に、お前は好き放題にフィールドを走り回る。フルバックを追い抜いて敵のど真ん中へ突っ込んでいくハーフバックがあるか。
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