9月7日(水) エメラーダ
3000ドル? あれだけの痛い思いをして?
ピッツバーグでリザードマンと戦った時だって、もう少し賭けてたぜ。お前も利口者だって自認してるなら、もっと上手く立ち回ってくれよ!
診療所で処置してもらったし、一日寝たら気胸みたいなのは治った。もう動けるよ。咳はちょっと出るけど、これはブタクサの花粉症じゃないかってオーキッドが言ってた。彼もこの時期は全身が痒くなるらしい。
殴られ過ぎて俺の目がイカれてるのかもしれないけど、いや、やっぱりトーピードとやり合う前から思ってた。お前、今月に入ってから、ちょっと肌を焼いた? もう夏も終わりかけてるのに。それともまた、ジムの新しいマシン?
トーピードってば、さっきも呑気にバーでブラッディ・メアリーを飲んでたよ。どこかで引っ掛けてきた商売女を侍らせながら。数日前は若い男の子だったし、あれだけ暴れてもまだお盛んなのはすごい。俺はアンシャンテに誘われても、今日はごめんって断った。それに、マティーニにもしばらく会いにいけないな。
ギブソンのオヤジさんの娘さんが、離婚して帰ってきてるだろ。マティはとてもいい子だ。微笑みは春の月みたいな明るさ、夏の夜風のように爽やかな声。気立てのいい子だから、俺がこんな怪我をして店へ顔を出したら心配させちまうよ。
アスピリンのせいか頭がちょっとフワフワする。さっきもタピオカチーズティーの作り方を間違ってごめん。オーキッドはチーズが嫌いだし、飲んでくれるのお前しかいなかったんだよ……ちゃんと1218号室には正しい分を届けてきた。
ミセス・ラ・プレイスもとんだバッド・グランマだ。何にせよ、ちゃんと医者で薬を処方されてるんだから、濫用はよくない。
あのプッシャーがいなくなって、奴から薬を買ってたらしいミス・ウィング・ハートがすっかり苛立ったり消沈したり、具合が悪そうだ。サイレント・サードのじいさんが彼女の部屋の前をウロウロしてたから、入ってお見舞いに行ったらって勧めたんだけど、「病に臥した淑女の部屋を無闇と訪れるのは礼を失する」って。紳士だね。
ここのところまた、カラスが客室のゴミにいたずらする。別に巣を落としたりしていないのに。さっきなんか珍しく714号室の巨人がベランダを掃除していた。
そろそろ暑さも盛りを過ぎたから、イエティの予約が増えてる。311号室はだめだ。暖房が付きっぱなしだから。しかもあんな温室みたくなってる部屋だけど、何故かゾンビ・ラットが死んでいたらしい。何だかもう、1匹2匹の問題じゃなくて、本格的にホテル内のネズミ達の間で、ウイルスが蔓延してきてる気がしてならないな。今は抵抗力が落ちてるし、余計に噛まれたくない。
803号室の女の子達が落ち葉を集めている訳が分かった。"枯れた"最年長の女の子、メアリーを川へ流すそうだ。何か手頃な、棺の代わりになる箱がないかと聞かれたから、マルキがディズニー・ワールドで買ってきたクッキーの缶を渡してある。来月か再来月頃、ニレの葉が完全に黄色くなったら、最後の一枚をドレスに縫い付けて、アワーグラス・リバーへ流すらしい。他にも花やビーズやシーグラス、リボンや舞台衣装の切れ端にミシン用ボビン、一生懸命集めてるよ。
素敵なものを一杯に敷き詰めた缶に乗って流されて、川の果てにある妖精の国へ辿り着いたら、そこで花になって、また妖精へ生まれ変わるんだって。
ちょっと驚いたけれど、流される子も儀式の日を待ち侘びてすっかりはしゃいでる位だ。都会で暮らす妖精は、森の奥に棲む種族とはまた違った風習があるのか。そう言えば人魚だって、寿命が来たって悟れば、必ず水の中で暮らす仲間へ引き取りに来てもらう。泡になるって言うけれど、本当かな?
シャーリーに「みおくりにくるようアコードに言ってね、メアリーは彼にほれてるのよ」
って招待された。直々のご指名だ、ちゃんと立ち会えよ。
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