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9月8日(木) アコーダンス

 メアリーって誰だ。803号室にはまだ子供、よくて80やそこら(編註:人間換算で25歳ほど)の子達しかいないだろう。

 いや、妖精は俺達よりも遥かに長生きするのか。あんな小さいドロレスやシャーリーだって、数百年は軽く生きているはずだ。

 デトロイトに妖精はいなかったし、俺はあまり精霊達との付き合いがないから、詳しいことは分からん。しかし、川へ流すとは……やはり彼女達は理解が及ばない生き物だ。

 招待されていて、しかも重要な儀式となれば参加するのが礼儀だろう、断ったらおかしな呪いをかけられる可能性もある。参ったぞ。


 お前、ホテルのネズミを食ってるんじゃないだろうな。やめとけと何度言えば分かる。

 そうでなくても、920号室の客なんざは、床を走り抜けたネズミがゾンビ・ラットじゃないかと大騒ぎして呼びつけてきた。最近はニュースでも連中の存在が周知されつつある。ネズミの他にもゴキブリやらハエやらがゾンビ化してると馬鹿げたデマまで流れる始末だ。ここまでくると一種の集団パニックだな。


 迂闊といえば、さっきのお前は全く情けなかったぞ。あのヤク中どもめ。大方ラリって術式を間違えた挙句、防音じゃなくて封鎖結界が発動したんだろう。俺が気付かなけりゃお前も、更に6時間は1匹で部屋へ閉じ込められてるところだった。

 破壊した壁についてはお前の証言で、まあ、クロックは明らかに納得してなかったが、それでもあの楽団から全額徴収することで話はついている。しばらく411号室と412号室は封鎖、奴らは出禁処分、後で俺が領収書を持って”ベラドンナ”へ行ってくる。あの楽団連中が払わずとも、店のオーナーから直接取り立てれば問題ない。せっかく増えたピサンを減らしてたまるか。


 お前、まだ本調子じゃないのか。咳をして毛玉ばっかり吐いてやがる。神経症みたいに髪を櫛でといてやがるし、そのうち禿げても知らんぞ。

 心配したミセス・ラ・プレイスがお前にと、リコリス・ドロップを一袋預かってる。ロッカーに入れておいた。次に出勤してきたら礼を言っておけ。


 そのうち一粒は、途中で寄った1105号室でチェリーにやったが。彼女はストレスで声が出にくいらしい。俺はワインの飲み過ぎだと思うが、彼女はミス・プーケット・スリングと違って、一滴も体に入れなくたって平気な時があるからな。まだアル中じゃない。

 彼女が、ここのところミスター・スプリッツァーはあまりにも挙動不審だと心配していた。ホテル探偵を紹介してほしいというのでミスター・ギャツビーの電話番号を教えてある。あまり役には立たないだろうが。やっている最中もずっとさめざめ泣いているから中断しようと思ったのに、俺がイくまでと引き止められた。彼女のそういう、妙なところで律儀な面は、間違いなく本人の首を絞める要因になっている。


 俺は人魚が泡になって溶けるのを見たことがある。80年代にマイアミで、アレイのところへ泊まった時だ。

 彼女はパーティーガールで、男にこっぴどい振られた方をしたからひどく落ち込んでいた。酒や薬でぐでんぐでんに酔っ払って、泣き咽びながらペントハウスのジャグジーに浸っていた彼女を、意中の相手はフォローするどころか嘲笑っていた。彼女はお堅いから口でしかしてくれなかったとか何とか抜かしていたが、理由なんか些細な話だ。

 目の前で恋した男が他の女とやっているのを見た彼女は、喉奥で獣みたいな呻きを一つ上げたきり。次に振り返った時には、ジェット水流の中へ消えていた。

 あの出来事だけでも、俺がアレイを軽蔑する十分な理由になるはずだ。


 もっとも、サンジェルマンモーニ曰く、人魚はそんなに柔な生き物じゃない、彼女はただ単に、愛想を尽かしてバスから上がり、立ち去っただけだろうと言うが。


 日焼けはサニーと昼間からウエストビレッジ公園でヤッたせいか……冗談だ、ジムのマシン。いちいち言わせるんじゃない。


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