9月1日(木) アコーダンス
と言うわけだ。しばらくトーピードがホテルに泊まる。504号室、ルームチェンジを強要されたり追い出されたりしない限りは。
彼女との腐れ縁も25年か。仕事や住まいを紹介してくれたり、色々教えてもらった。とにかく世話になったからな。恩は返すものだ。
この前のXLとの一悶着を撮影した動画を見たらしい。腑抜けてるなと随分笑われた。ちょっと揉んでやるとのテキストも来ている。気は進まないが、誘いを断るのは男が廃るからな。
いくら彼女が東海岸でトップクラスのボディガードだとしても、俺だってこれまでの期間、のんべんだらりと生きてきた訳じゃない。そこは彼女にも理解させなきゃならん。
やはり、こっそりと客室から撮影していた奴がいたらしい。あの動画は思った以上に拡散されている。今日もシャーリーがやってきて「エメはかわいいこいびとを、なぐったりなんかしないわよね?」と、すっかり恐る恐るのていで確認してきた。少なくともパートナーは大丈夫だろうと請け合ってある。
季節がいいからと昼寝してる暇はないぞ。仕事はいくらでもある。
ミスター・ベラーノの新しい猫には会ったな。名前はスコッティ8世。器量良しの白猫だ。かなりやんちゃで、ベランダを行ったり来たりしてるから、うっかり714号室の巨人のところにでも入り込まないか目を光らせている。あいつもこの前灸を据えてやって以来、それなりに大人しくなっているが、何がきっかけでまた暴れるか分からん。
411号室の騒音の苦情。てっきり音楽アプリを大音量で掛けているのかと思ったが、生歌だ。ポーツマス通りの"ベラドンナ"で演奏しているピアノトリオらしい。防音結界が外れていたから、掛け直すよう言ってある。圧縮魔法で持ち歩いているピアノやドラムセットまで出してのリハーサルだ。もちろんジャズ奏者だから全員ヤク中、ただしシャブ。音もヘロヘロだ、だからまずい曲をやるなと皆が怒り出す。
1107号室で湯が出ないと苦情があり、1105号室を覗いたら、チェリーがバスタブで倒れていた。酒を飲み過ぎたらしい。恐らく処方薬もだろう。自発的に死のうとした訳じゃないはずだが、いつ湯の中へ沈んでもおかしくなかったから、ベッドへ運んである。
ちょうどそのタイミングでミスター・スプリッツァーが帰ってきて「また当てつけか。毎回同じやり方で芸がない」と、同伴の女性と笑ってる始末だ。チェリーはいい加減、決着をつけるべきじゃないか。
何にせよ、寝室まで浸水した湯で濡れた絨毯のクリーニング代は宿代に付ける旨、通告してある。
ピクシー達が、コザックはゾンビ・ウイルスに感染していたから制服を洗いたくないとゴネている。もう着ないんだから廃棄すればいいと思うが、上長の許可が降りなかったらしい。最後まで手間を掛けさせる奴だ。
今月号の「ゴアゾイド・エクスプレス」は読んだか。予想通り、集団自殺について世間の無理解による孤立だとか、ゾンビに社会的役割を持たせることの重要性だとか、好き放題書かれている。例のウォーキング・デッド協会の提灯記事だ。
従業員H氏の談話も少しは記載があるが、奴は随分ゾンビに同情的な存在として書かれている。「ウォーキング・デッドが死んでいるのと、人間が死んでいるの、目にした時の衝撃にどれほどの違いがあると言うのでしょう」だなんて、絶対に奴は言いやしないぞ。
クロックの夏の家族旅行の土産は(インドネシアか?)乾燥マンゴーだ。俺は取り立てて好まないから、お前のロッカーに2匹分入れてある。
お前ここのところまた、仮眠室でトランスしてることが増えてるぞ。後から寝たアルクディアの服が毛だらけになって、浮気かと彼女さんに散々詰られたそうだ。ご愁傷様だな。奴がこてんぱんにされるのは構わないし、むしろ歓迎だが、オーロラはいい人魚だ。今度会ったら誤解を解いてやれ。
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