9月2日(金) エメラーダ
トーピードも大変だね、住まいにRPGをぶち込まれるなんて(ヘンク通りで煙が上がってたのは見たけど、まさかあのモーテルが寝ぐらだとは知らなかった。彼女、ホーボー並みに場所を転々としてるから)
お前は口じゃ散々億劫そうなことを言いながら、すっかりテンション上がって目が爛々してるじゃないか。俺は本気でいやだ。彼女にトレーニングされたら、奥歯だって一週間くらい固いものが噛めなくなる。もしかしたら今度こそ割れたり折れたりしてしまうかもしれない。
せめて2匹同時はやめて欲しい、シフトに穴を空けたら揃ってクビになると頼んだから、日付をずらしてくれた。お前が先、俺が後。
「クビになったらまた雇ってやるよ、お前らは1番弟子とまでは言わないが、4番弟子位には役に立つからな」って笑われたけど、そう言う問題じゃない、ちっとも!
でも、彼女のあの、金色の目を細める不敵さと、しゃがれた含み笑いに俺は逆らえない。新兵だった俺を、母ちゃんみたいに可愛がってくれた時から……今はもう、俺ばかり年を食って、姉弟並の見かけになっちゃったけどさ。
スコッティ8世とは仲良く出来そうだ。彼女の方も吝かではないって感じだし。さっそく、お近付きの印にってネズミを1匹もらった。
シャーリーにそんなことする訳ないだろう。俺はお前と違って、殴っても効果がない相手は殴らない。
今日はレッドスナッパーのおつかいを3件行って、昼寝もした。やっと突き刺す日差しも和らいで、風もソヨソヨほどはか弱くなくて、ビュウと叩きつけるほどはきつくもない、丁度いい心地良さだ。ただ、来週1119号室に業者が入るみたいだから、ビーチフロートを違うところに隠さないと。
ビニールのフロートの上で丸くなっていたら、どうしても南の島のビーチのことを想像してしまう。あそこじゃ、聞こえてくるのはクラクションや罵声じゃなく、寄せては返す波の音なんだろう。空気だってもっと清涼なはず──ムールアン通りのケバブ屋は移民局に捕まったって聞く。あの素敵なスパイスの匂いがなくなったのは寂しい。でも海辺では太陽と、サンオイルと、もっと甘い潮の匂いがして、むやみやたらと食欲を刺激される訳じゃない。腹は自然に減って、好きな時に食べられる、もちろん中休みなんて概念もない。
ホイストは雑誌記事について「あんなこと言ってない」って憤慨していたけど、どうかな。結局、記者からの謝礼はいくらだったんだろう。
噂だと……これはあくまで噂だけれど、そもそも記者へ、事件について垂れ込んだのはチェリーだって話が出てる。そんなことないと思うけどね。彼女って、ちょっと泰然としてる、と言うか、自分のことで精一杯だから、いちいち誰かへチクったりしないと思うよ。
でもそんな噂が流れるくらい、彼女がホテルの名物になりつつあるのは確かだ。男達はみんなワンチャン狙ってる。女達はだらしない奴だと軽蔑して、同時に自分の男を取られないか目つきを険しくしている。
少なくとも、1010号室へ死体を置き去りにしたのは彼女じゃない。最初はそのキャリーケース、忘れ物か、そのまま捨てていったのかと思ってたんだ。でも薄めたチョコレートシロップじみた茶色の液体が垂れていたし、中を開けてみたら案の定! 5歳くらいの人間の子供だ。
またシリアル・キラーかとうんざりしたけど、監視カメラを見たら、どうやら妖精が取り替え子を置いて行ったみたいだ。この頃は、人間も色々な障害がある子をよく産むって聞く。昔みたくノリと勢いと外面だけで連れてきて、結局面倒を見きれず捨ててしまう妖精や小鬼も多いらしい。世の中、どんどんややこしくなっている。
マンハッタンが勝利をおさめた戦士にって、お前宛でピンクのグラジオラスを一輪くれた。俺だって戦ったのに! 取り敢えずロッカーのバケツに浸けてあるから、持って帰れよ。捨てたら気付かれて呪われるかも知れないぞ。
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