8月13日(土) アコーダンス
くそっ、まさかこんな手こずるなんて予想できるか!
予想以上にXLはタフだった。どれだけ殴っても投げても締めても、ゾンビもかくやのしぶとさで起き上がってくるものだから、さすがにゾッとなったぞ……噂じゃパープル・デルマーの中毒らしいが、それにしたって尋常じゃない打たれ強さだ。興奮剤由来だからすっかり感覚が馬鹿になっているんだろう。2匹がかりでやっとになるとはな。俺達も涼しい顔で都会暮しをしてるから、腕が鈍ったか?
最後は壁に押し付けて殴る蹴るでやっとだ。それでもあいつ、俺がクリンチしてる間、腕を捻ろうとしてきやがった。奴がちょっかいを掛けてきたのが右腕の方で命拾いした。
お前も左手がズタボロだろう。隠しても無駄だぞ。それに右脚も、あの石頭に膝蹴りを喰らわせ続けたんだ。拳だって擦り剥けただけだと強がってたが、どう考えても剥離骨折してる。面倒くさがらずちゃんと冷やしておけ。
腹は大丈夫だな? 確かにあいつは尋常じゃないラフファイターだったが、パンチは脇が閉まってない。力任せに腕を振り回すだけだったからな。
鋼鉄の鎖で雁字搦めにされ、気絶したまま鎮静剤まで打たれて、XLはすごいいびきを掻いている。エクソシストの連中が来るのは明け方になる予定だ。俺達もヴァチカンの印がついたICレコーダーを突きつけられ、供述をさせられることになるだろう。迂闊なことは話すな。
クロックが渡してきた報奨金は1匹300ドルだ。そのままピサンへ入れておく。
あれだけの大立ち回りをしたから客からの苦情が殺到するかと覚悟していたが、3件だけだったとロベルタから聞いた。2人ほど撮影している奴に動画を消させたとのことだが、それで完全に証拠が隠滅できたとは到底思えんな。
少なくともニエべは窓から観戦して、手を叩いて喜んでいた。お前の散髪については礼を言ってある。短かったから、XLに髪を掴まれなかっただろう。
例えどれだけ職場へ貢献しても、仕事は溜まっていくばかりだ。
311号室は暖房にスイッチが切り替わってサウナもかくやの有様。明日からの客は314号室にルームチェンジしてある。
1319号室のリザードマン一家は、子供が海水浴で日焼けして急に脱皮が始まった。オーダーで保冷剤と薬局で買ってきた保湿クリームを届けてあるが、具合が悪そうなら診療所を紹介すること。
916号室にはドワーフ向けに踏み台、1108号室にはベビーベッドを入れてある。夏休みも終盤か。隣室がうるさいとの苦情があったのは615号室。これは同情する、616号室はガキを6匹連れた人狼夫婦だ、ベッドのハリウッドかつ壁寄せとエキストラが入ってる。こんな無茶なアサインを許したクロックが悪い。いや、2室に分けたところで惨事は変わらなかっただろうが。
それから、とうとうオーキッドがミス・プーケット・スリングをものにしたぞ。まあ、実態はほとんど逆のようなもんだが……奴が往生際も悪く、どれだけ言い逃れしようとしても無駄だ。ヘアオイルを届けにいくだけで45分とはな。
プーキーのバーバーが開店して、あいつはすっかり骨抜きだ。搾り尽くされて使い物にならんから、お前が起きてきたら仮眠室へやる。今回ばかりは仕方ない。
お前が仮眠から出たら、コモドールにフローズン・マルガリータを作らせる。それから屋上で飲むぞ。奴め、気を利かせてバドを1ケースくれたから、それも担いで上る。14階から浴びる夏の夜風は、怪我に障らないだけのちょうどの塩梅で、少しは興奮も鎮まるだろう。
それにしても、お前もさっさと寝に行って、アルクディアのリアクションを見逃すとは、本当に惜しい真似をした、傑作だったぞ。マルキが動画を撮ってたから、後で見せてもらえ。
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