3月17日(木) アコーダンス
これ以上、余計な背びれ尾ひれのついた噂が広まる前に、俺より先にロベルタやオーキッドと出勤時間が被るお前が説明をしてくれ。あくまでも世間話の一環くらいのノリで、さりげなく。クロックもその場にいるならば、なお望ましい。
状況の整理として、昨日の流れをもう一度まとめておく。
・雑談で俺がお前に話していたのは、デッドリフトやベントオーバーロウの回数を増やした成果が出てきたことについて。
・その成果を見せるために、俺はお前へ僧帽筋を押さえたり、色々試させていた。
・あくまでも試すだけだったが、二人とも(編註:原文ではここに二重線のアンダーラインを引いて強調)調子に乗りすぎて、お前が最終的にアオキプラッタで極めたから、俺が落ちた。
・気絶していたのは数分だったし、後遺症の心配もない。
謝らなくていい。タップするまで掛け続けろとお前に言ったのはこっちだ。しかし、もう少し鍛えられていると思ったが、俺もまだまだか。
それに、お前がサブミッションの腕を上げてきたのもある。倒れながらのハイエルボー・ギロチンをかけられた時、顎を掴まれてクラッチを掛けられるまでにタイムラグがあったのに、右足の押さえが的確過ぎてカウンターが遅れた。正直なところ、少し焦った。
お前が投げて行ったのか、俺が意識のあやふやなまま自分で倒れ込んだのか記憶にないんだが、仮眠室のベッドが壊れた。元々普通に使っていてもギシギシ言っていたからな。クロックには交渉したが、俺の給料から全額天引きになった(あいつ、いつか絶対に殺してやる)ピサンから出すぞ。
今朝、722号室へ今週の宿代を徴収しに行ったら、フロアの廊下で見えないものを踏んづけた。どうやら716号室のミス・ウィング・ハートがラリって、行き倒れてたらしい。この世で最も厄介なものは透明人間の徘徊だ。
何年か前、確か心臓発作だったか脳梗塞だったかで、客室で頓死した奴がいただろう。最初は料金を踏み倒してトンズラこいたのかと思ったが、一週間くらいしてから異臭騒ぎが起こった。確認しに行ったら、バスルームの床で死体へ集った蛆が輪郭を象ってて、あれはもう強烈だった。さすがにあんなことはもうごめんだぞ。クロックにも報告してある、頃合いを見て放り出すことも念頭に入れたほうがいい。
夜はまだ冷え込むからブランケットが2枚出てる。1210号室にチーズバーガーのオーダー。やつはレッドスナッパーの料理を気に入ったらしい。3食あそこで食ってるそうだ。トイレの使い方が汚いとシルキー達が怒っていたが、推して知るべしってことか。
917号室のミス・ココラッシーはチェックアウトしたが、調査員のギャツビーがフロントに名刺を置いて行った。ファイルに入れてあるから、今後何かあったら呼んでもいいかもしれない。数年前まではこのホテルにも出入りの探偵がいたり、そもそも滞在している奴がいたそうだが、くたばっちまってそれっきりになっていたと聞く。
明日は満月だ。チェリーと、それと511号室からフロントへ掛かってきたら対応を頼む。特に511号室はなかなか貪欲だから、適当にあしらってくれ。次出勤してきた時にまたどうにかする。
月齢柄、アルクディアがだいぶカリカリ来てる。彼女さんと喧嘩したとか、さっきからずっと愚痴を聞かされっぱなしだ。何回か追い払ったんだが、全く、あいつの太々しさにはいっそ感服するよ。だがいい加減イラついてならん、次に靴下とメロンと異物挿入の話をしてきたら、ぶん殴ってやる。
アルバイト、一人採用が決まったそうだ。初勤務は27日から。クロックは良い子だって言ってるが、どうだかな。あいつの人物を見る目は当てにならない。何せホイストなんかを子分にしてるくらいだ。
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