3月18日(金) エメラーダ
これを書いてる間にも、お前が怪我してないか心配だ。デン(編註:人狼が満月の晩に籠る場所)で他の奴らと喧嘩してるのか、それとも暴れてるのか。お前は強いから大丈夫だとは分かってるけど。それでも骨折したら痛いからな。
デンの場所は人狼しか教えてもらえないって知ってる。もちろん、匂いを辿っていけば分かるんだろうけど、それって良くないことだから、しないでおく。
ベッドに投げたのは俺だよ。ロベルタとオーキッドにもちゃんと事情を話した。納得してもらえたと思う。ロベルタが「アコードを担げる位だから、エメも相当筋肉あるね」って、いきなり胸筋を揉んできたからびっくりした。彼女はちょっと、そういうところ、デリカシーがない。
212号室、ゾンビのくせに、やたらとオーダーを出してくる。ブランケット1枚(後で廃棄)、ヘアブラシと石鹸、タピオカチーズティー、アイスクリーム、スマートフォンの充電器。
あのフロアに行くと、腐敗臭がキツ過ぎて、頭が痛くなる。お前も行かないほうがいい、特に明日なんかは、満月が終わったばっかりで匂いへ敏感になってるだろう。
マンハッタンがまた死体を作ってくれた。611号室の客で、おばあちゃんだ。ドアを潜り抜けてきたマンハッタンに枕元へ立たれたら、ショック死しちゃったらしい。死体はもっと若いほうがアコードも喜ぶって言っておいたけど、好意なんだから受け取っておけ。SRに置いて、張り紙を貼ってある。
彼女は一途だ。1920年代に活動してた女優の卵で、果物ナイフでハラキリした挙句、自分のブロマイドを炊き付けにして焼身自殺した、すごい度胸の持ち主でもある。なのにものすごく気弱で、お前と会ったら恥ずかしくて泣き出しちゃうって、俺と話している時ですら涙ぐんでいた。今度お前から会いに行って、ちゃんと礼を言っておけよ。
チェリーも、511号室のミセス・ヒッチビーも、特に何もアクションを起こしてきてない。二人とも、お前が休みなのをちゃんと分かってるみたいだ。
少なくとも、チェリーの方は間違いなく理解してる。今日もオーダーされて、部屋へワインを持って行ったけど「アコードもアルクもいないのね」って。
アルクディアも彼女とヤってる。みんな知ってると思うけど。狼男が好きなのかな。でも、同じフロアの吸血鬼とも寝たってもっぱらの噂だし。
803号室の妖精の女の子達が、もっと毛玉の浮いていないシーツが欲しいってクレーム。彼女達の肌は敏感だ、擦れて爛れた子がいたらしい。シルキーに頼んで新しいシーツへ取り替えてもらった後、頼まれたから薬局へ行って、霞草の花粉の塗り薬を買ってきた。
彼女達は今度、コーラスラインとして舞台に出るらしい。観にきてくれとチケットを2枚もらった。薬を塗った後も、踊りの練習をしていた。掌に乗る大きさの、チェコのガラスのような体に、窓から差し込む月光が透けて、部屋の床が春の海の底のように波打って見えた。とても幻想的だった。デトロイトで暮らしていたら、一生見ることのなかった光景だ。
新人の教育係はオーキッドになった、助かった。もちろん、俺達も教えなくちゃいけないけれど。ハーフ・ドワーフらしい。仕事をちゃんとこなしてくれるなら、別に種族なんかどうでもいい。
「ドワーフみたいなチビ、ルームサービスに食事を持って行ったって、テーブルに置けるのか」と意地悪を言っていたホイストが、出勤早々1210号室の客に噛まれた。フライの盛り合わせを持って行った時に。食欲が旺盛どころの騒ぎじゃない。ゾンビかもしれないから血液検査を受けてこいって皆言ってるけど、奴は頑なに認めない。
最近はゾンビも腐敗の進行を遅らせる薬が出ていて、あれを使われるとトランス・アニマルでも匂いを嗅ぎつけるのが難しいらしい。だとしたら俺達が気づかなかったのも道理だ。でも本当に怖い話だから、気をつけないと。
$3,401.77




