2月4日(金) アコーダンス
頑固な奴め。勝手にしろ、固くなったマットレスで寝苦しい思いをするのはお前なんだからな。
だが枕を購入したロベルタは、忠告したら返品してたぞ。
セントルイスのことを良い思い出にしてるのはお前だけだ。あの後モーテルへの弁済金も、死体の処理費用も馬鹿高くて、結局乗ってたビュイックをタイトル・ローン(編註:自動車担保式の短期消費者ローン)へ持っていく羽目になった。俺があの業突く張りの金貸しと交渉してる間、お前はずっと二日酔いで毛玉を吐いてるばかりで、何の役にも立ちやしなかったじゃないか。
寒いのは分かるし、オーキッドの体臭がお前にとって誘惑的なのも百歩譲って理解するが(奴はもう少し香水をつけるべきだ)それにしたって、幾ら休憩時間と言え、勤務中にトランスして寝るなと何度言えば分かる。マスでも掻いてたのか、殺すぞ。
俺が仮眠へ入る前に、服にもベッドにもちゃんとブラシを掛けてから出てこい。お前の毛は黒いから目立つ。
お前がぐっすり眠ってる間に、こっちは散々仕事をこなした。
402号室のシェイプシフターは、とうとう体調を崩して、ヒューマノイドの形を保てなくなった。連れの恋人と一緒にくっついて身動きが取れなくなったから、とりあえずゴミ袋へ入れて、ロベルタが救急外来へ持ち込んでいる。あらかじめ医者の名前を教えてあったのに、傍迷惑な奴らめ。
ブランケットの洗濯が完了したとリネン室から連絡があったから、オーダーを再開している。お前の休憩中に1枚出た。
その1枚を、保冷剤と、ついでに赤ワインと一緒に1105号室へ持って行ったら(ミス・チェリー・コークは手首を捻挫していた。彼女こそ病院へ行くべきなのだが)お前の言う通り、ベッドの陰にプランターが二つ、ビニールシートを被せた状態で置いてあった。恐らく葉物野菜、もしかしたらラディッシュか。それがどうしたって話だが、一応クロックが出勤してきたら、それとなく今後の滞在長期化を匂わせておく。
あの気取った賭博師はともかく、チェリー・コーク嬢は美人だからな、住み込むのも歓迎だ。彼女は俺に気があるらしい。今日も部屋に入ったら、縋るような目つきでこちらを見てきた。あの綺麗な銀色の瞳で。全く、彼女はあんな男に勿体ない。
雪掻き、モップ掛け、共に完了している。いや、雪掻きは朝になったら、もう一度車寄せの辺りをやってくれ。さっきゾンビのガキどもが屯して酒を飲んでたから、シャベルで殴って追い払っておいた。また来てるかもしれんから、今度は頭を叩き潰しておけ。
ゾンビといえば、407号室の透明人間だが、明らかにヤク中だ。件のデザイナーズ・ドラッグ、確かパープル・デルマーって名前だったか。あれを使ってぶっ飛んでた。透明だから分かりにくいが、絨毯がざらついている。恐らく剥離した皮膚が落ちてるんだろう、不潔極まりない。呼吸は浅かったが、脈はしっかりしていた(頸動脈”らしき”場所で確認を取っただけだから、正確には分からん。俺の知ったことか)
クロックが「アヘン、コカインと来て馬用鎮静剤とは、どんどん品がなくなっている」と以前嘆いていたが、こればかりは俺も賛同する。ODした時の対処法はこれまでと同じ。ただし、今回のドラッグはこれまでのものに比べて、血中で長期間高濃度を保ち続けるから、飲食は禁止になるだろう。ラリるだけじゃなくて、こちらまで依存症になる危険がある。この辺りは近々、また明確な服務規程が出来ると思う。
お前がいつまで経っても起きてこないから、こんなにだらだらと書き連ねる羽目になっちまった。今からベッドをひっくり返しに行く。もしもまだ豹のままだったら、襟首掴んで雪の上へ放り出してやるからな。いくら爪を出して、尻尾や背中の毛を逆立ても無駄だ。甘やかしてなんかやらない。お前の自業自得だ、怒るなよ。
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