56.力試し
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妙に楽しそうなシャディルの後についていくと,屋敷の裏に出た。
屋敷の敷地は非常に広く,建物と同じくらいの大きさの庭がある。
木や植物は一切見えない。
「……魔王領に似てる?」
不意に,ベリーが首を傾げる。
その淋しい荒野の様な空間は,一行が通って来た魔王領の光景に似ていた。
「あー……それは,あえて似せてるんだよ。何か,良いじゃん」
サイファが答えるが,口調が適当に聞こえる。
恐らく,シャディルの趣味なのだろう。
「んで,どうするー? こっちの方が人数が多いけど」
杖を構え直したキャサリンが問うた。
それに対して,シャディルが少し考えるように沈黙する。
「……人数については問題無い。貴女達は何人で来る?」
「まろん以外全員。補助でゆっちゃんを入れて,六人だね」
逆に問い返されて,キャサリンが素早く答えた。
見学していたかったベリーが,あからさまにがっかりしている。
「人数について問題が無いっていうのは,何で?」
戦いということで目が覚めたらしいリオンが尋ねた。
「……言うより,見せた方が良いだろう」
シャディルは小さく呟いて,目を伏せる。
「【影を纏う者】」
そう口にした瞬間,シャディルの姿が消えた。
「……え?」
ゆめが驚いたように声を漏らす。
目の前に,六人のシャディルが立っていた。
「分裂した!?」
ベリーが大きな声を出すと,シャディルが苦笑する。
「これが私の魔法だ。全てが実体を持ち,本体と同じ強さを持っている。互角に戦うことが出来るだろう」
「すご……」
キャサリンが感嘆したように呟いた。
「では,簡単にルールを決めよう。基本使用して良いのは魔法と物理。ただし,何方か片方のみの使用に限る。最初魔法を使っていた人が,途中で物理に変えることは出来ない。六対六で,味方同士の補助や協力は可能。また,攻撃の程度は考えること!」
サイファがよく響く声で述べる。
特に最後を強調され,リオンとキャサリンが其々武器を構え直した。
「……手加減はしないけど,決闘じゃないからね」
「そだね」
思い切りやる気満々だった二人が,少し大人しくなる。
其れに苦笑しつつ,サイファは言葉を続けた。
「じゃあ,先に魔法と物理,何方を使うか教えてくれるかい?」
「はい! 魔法!」
ベリーが元気よく答える。
「魔法です。主に防御系ですね」
「神聖魔法はちょっと強すぎるからね」
リリーナの専門である神聖魔法は,聖人にのみ使える魔族必殺魔法だ。
流石に魔族相手では危険なので,今回は使用しない。
「私は雷魔法だね」
「私は闇魔法……ですかね」
キャサリンが答え,ミーシアも一瞬逡巡してから続いた。
闇魔法は本来魔族が使用する魔法である。
ミーシアの少し特殊な血筋について,サイファ達に伝える必要はないだろう。
魔族的には珍しく無い魔法なので,特に反応は無い。
「物理。見て分かると思うけど,鎌使うよ」
一人だけ物理なのが何となく嬉しいのか,リオンの声が明るい。
「ゆめは魔法だよー! 歌で,皆をお助けするのー!」
「補助魔法ですね」
ゆめの得意気な説明に,リリーナが静かに付け足す。
「成る程……何というか,変わったバランスのパーティーだね」
メモを取っていたサイファが,顔を上げて苦笑した。
其れを覗き込み,ソルトーダが似たような表情をする。
「うわっ……。何か……とりあえず攻撃型って感じするな。兄上は?」
結構失礼な声を上げながら,シャディルの方に視線を向けた。
「私達は全員槍を使うので,物理だ」
一人のシャディルがそう告げると,分身の手に同じ槍が現れる。
「めっちゃ便利じゃん,それ……」
ベリーが驚いたように呟いた。
杖を構えていたキャサリンに至っては,「あれ習得出来るかな……」と真剣に考えている。
「じゃあ,双方準備も出来たようなので,始めるよ!」
サイファが声を上げて,何処からか持ってきた銅鑼のような物を構えた。
何故か横に立っていたソルトーダが,勢い良く桴を振る。
鈍い音が鳴り響いた瞬間,最初に動いたのはキャサリンだった。
音より速く進む閃光が,相手が固まっている辺りに落ちる。
雷を落とした位置を睨んでいたキャサリンが,不意に目を見開いた。
「えー!?」
ベリーが驚きの声を上げる。
相手は,全くの無傷だった。
それだけならば,よくあることなので驚かない。
問題は,シャディル其の一が手にしている槍。
何故か,雷電を纏っている。
「……あの槍,魔法を吸収してますね」
「え? じゃあ攻撃効かないじゃん!?」
リリーナが冷静に分析し,ベリーが目を丸くした。
次の瞬間,シャディル其の一の槍が光る。
「!!」
凄まじい速さで飛んで来た雷を受け止めるように,防御魔法が滑り込んだ。
「すご……」
咄嗟に杖を構えたキャサリンが,リリーナの反射速度に感嘆を漏らす。
絶妙に離れた場所にいるシャディル達の表情は見えない。
「……少なくとも,速いうちに人数は減らしておきたいよね」
「こっちはゆっちゃんが補助だから,人数的には少し不利」
シャディル其の一の雷をリリーナが防いでいる間に,作戦会議に移る。
相手は全て本人なので,作戦を立てなくても問題が無いのだろう。
だが,ベリー達は完全に無策なのだ。
「うーん。絶対にシャディルさんを一体仕留めれるよって人,挙手」
キャサリンがそう尋ねると,すっとリオンが手を挙げる。
「物理だし,一体なら頑張れば倒せるよ」
「了解。あとは……魔法だから,ちょっと吸収が怖いよね」
ベリーやミーシアが手を挙げなかった理由だ。
キャサリンは先程,軽い技では効果が無いと実証されてしまっている。
「……私達が魔法でお助けする感じで,リオンがサクサク倒していくっていうのは?」
ふと考え込んでいたベリーが顔を上げた。
「……と言うと?」
話を聞いていたらしいリリーナが,防御魔法を重ねながら問う。
「えっと,例えばキャサリンが大きい雷をズドーンってして,そっちに気を取られてる隙にリオンがザクってやるみたいな」
「……各々気を引く,ということでしょうか?」
ミーシアが首を傾げると,キャサリンが納得したように頷いた。
「成る程。まぁ出来る……よね? ちょっとリオンが大変かもだけど」
「問題無いよー」
鎌を担ぎ直したリオンが,相手の方を見て答える。
獲物を狙う猛禽類の目だ。
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一言:キリの悪さなんて見てません。




